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文字数 679文字

 辺りは、なおもしんと静まり返っている。
 襲われた当の本人、もしくは騒ぎを耳にした他のアパートの住人の誰かが警察に通報しただろうか。だとしたら数分もしたらパトカーが到着しそうなものだが、耳を澄ませど聞こえてくるサイレンはない。

 津村に聞いた話では、須波警察署内では桜木公安部長に与する警官が多数を占めるらしい。よって通報を受けて駆けつけてくる警官らは、ハーマンの言い分を採用して裕丈を捕らえる可能性が高いだろう。
 そうなるまでにケリをつけてしまいたいところだった。

 裕丈は、意を決してバットを腰の高さで構えた。
 アパートの裏手とあって、すぐ脇にフェンスがあり、ハーマンらはやや狭いスペースに縦に並ぶ格好となっていた。

(一斉に多方向から襲われることがないこの状況。十分に勝機ありと見た)
 自信を得た彼は間合いを測るように、じりじりと足を前に進めた。
 先頭の男も、こちらの出方が読めないのか、頭の上に鉄パイプを振り上げたきり、まるで動きがない。
 しばしの間静寂に浸ったのち裕丈は、地を蹴った。草鞋の擦れる音が短く鳴る。
 一気に迫った彼に、先頭の男は鉄パイプを振り下ろした。
 裕丈は、それを下からバットで受けつつ小さく跳ね上げた。そして、その隙に男の右の脇まで右足を踏み込み、バットを振り抜くと鈍い感触があった。

「ごふっ!」
 胴に食らった男が、思わず鉄パイプを取り落とし、アパートの壁にぶつけて大きな音を立てて、そのままうずくまった。
 残った二人が、思わず後ずさりした。
 その奥の方にいるハーマンがスマホを取り出す。
「な、何てことを! 救援だ……救援を呼ばねば!」
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