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文字数 554文字

 それでも、沙織がそのような目に遭ったことで、彼女が口癖のように「ごめんなさい」といい、自責の念を強くしているのか、彼には到底理解の及ばないところだった。

 彼は真相を知ったところで、彼女に対してどういう態度が一番望ましいのか分からず、その美樹が付け足すようにいった通り、その事件のデリケートな内容を沙織の口から聞くまで、そっとしておこうと考えた。
 とっさには、美樹が沙織に内緒といわれて口止めされていたのに、裕丈の耳に入れたことで、沙織がさらに動揺してもいけないからである。

 結局沙織の方から話して来ない限りは、裕丈も美樹も時間の解決を待つのが最善なのだと、そのときは思った。
 そのような状況で、何も知らないふりをする以前に平気そうにして見せている裕丈の口からは、沙織にメンタルクリニックを勧めることはできなかった。
 PTSDだろうとか素人判断で、より彼女を追い詰めることになるのも恐れたのである。

 愛情をもって彼女とコミュニケーションを重ね、やがて時間による癒しで、いつか彼女に笑顔が戻るだろう。
 それを辛抱強く待つことが彼女と住まいを同じくして一番そばにいる自分の使命だと、彼は大きく構えていたのである。
 そんな日がやって来るのに、半年もしくは一年くらいは優にかかるかもしれない。彼はそういう覚悟でいた。
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