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文字数 553文字

 青ざめた表情の真白は、床に目を落としていた。彼女が言葉に窮していると見て取ったマイケルは、淡々とした口調で話を続けた。
「とにかく、市制始まって以来一切移設も改築もなかった庁舎の地下奥深くにそういった物があるということは、その頃から建設計画が存在していたということだ。今や、市役所の幹部級の大半が実はかの国からやって来た人間で占められている。須波は、そもそもかの国のコントロール下に置かれた状態で始まっていたに違いない。いわば、日本国の中に別の国がある状態だ。そうやって拡げるかの国の領土拡張の先にあるのは、おそらく今世紀における大東亜共栄圏構想だよ。皮肉なことだけど、前世紀の日本の掲げた構想を都合よくアレンジした侵略行為だ」

 そこから、マイケルはさらに声のトーンを落として、ささやくようにいった。
「収容所はB棟と、このC棟の地下にあると聞いている。警備室で管理している鍵でエレベータのメンテナンスパネルを開けると、地下階のボタンが現れる仕組みだ。従来から地上階しかないと思われていた建造物に、秘密の地下施設があり、それらは決して核シェルターなどではない」
 そこまでいうと、マイケルは急に慈しむような声音になった。

「つまり君は、この須波で生まれたときから既に、こういう街で生きる運命にあったということだ」
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