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文字数 642文字

 今すぐにでもここから逃げ出したくなる気持ち、これ以上の暴力を避けたい思いが胸のどこからか吹き出てくる。

 真白は自分の中の逡巡を打ち消すように、大きな声を上げた。
「ぐあー!」
 自分につかみかかってくる男の手を警棒で弾く。
 男は痛みに鈍感になっているのか、それでも何事もなかったかのように、こちらに向かってくる。

(なに、こいつ?)
 自分より断然大柄な男が、今にも覆いかぶさって来そうだった。下手に逃げようとして背中を向けたら、長いリーチの腕に絡め取られてしまいそうだった。
(ここは……、ここはやるか、やられるか、だ!)
 彼女は腹を決めた。
(もう一歩踏み込んで、この男をやっつけなきゃ!)
 そう自分を鼓舞した。

 この男の、手もそうだが足を止め、そして自分を襲おうとする、その意志の源である頭をやってしまわないと、この恐怖と脅威は消えない。

(この男を今ここで完全に叩きのめして、ただの肉の塊にしてしまわないと、いつまた自分がやられるか分からない!)

 息が切れたように、真白の呼吸が極端に浅く短くなった。
「ハッハッハッハッ! ……ぐあー!」
 真白の振り回す警棒が、男の首の付け根、続けて脇腹を捉えた。
「ごふ! ごふ!」
 男が苦しそうにする。
「……このクソアマ……」
 男の陰険な目つきを意に介さず。真白は肘を引いて警棒を構えた。
(もう一歩前へ!)
 ほぼ同時に男の左の膝に一発見舞った。
「わー!」
 男は身体の支えを失い、転倒した。真白が男を見下ろすように立つ。男は、それを見返すように顎を上げた。

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