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文字数 790文字

 追った先の右脇に先ほどの大男、ダイが滑り込んできて、腰を低くして構えた。
「こんにゃろ、なめてんのか」
 タックルしてくるつもりのようである。
 それを察知して裕丈は、じりじりと身を引きながらバットを短く持ち直す。そうするとヘッドスピードが稼げてカウンター気味にヒットしやすくなる。

 にらみ合ううち、焦げた匂いに大男の臭い息が混じり、裕丈は思わずケホと空咳込んだ。
 その奥にマッツを脇に従えた影の色濃い中背の男が、無言でこちらを向いて立ち、じっとしている。どうやら彼が嗄れ声の主のようだった。その足元にへたり込んだ人影が見えるが、それは被害者の老人だろう。

 ダイはこちらが持っているのが金属バットと分かり、やはりためらっているようだった。
 膠着状態を見て取った中背の男が、ヒヒヒと笑った。
「ダイ、やめておけ」
「ヒュー?」
 そういったのは、マッツの方だった。
「いいんだ。ここは引き上げるぞ」
「……うす」
 ダイは、低くそういうと後ずさりするようにして、ヒューと呼ばれた男のそばに寄った。
 ヒューはこちらを一瞥したかと思うと二人を引き連れ、悠然と炎の向こうに消えていった。

「貴様ら、待たれよ!」
 裕丈はバットを腰に当て、一旦男らを追おうとするも、地面に転がる老人のうめき声に足を止めた。老人は、早めの治療が必要な怪我を負っているかもしれない。そんな彼をその場に捨て置いて行くわけにもいかず、あえて自重した。
 老人を抱きかかえ、問いかける。
「じい様、具合はいかがでござるか」
 ヘルメットを被り、袴をまとった異様な姿の男に面食らったのか、老人は目を見張って口元をもごもごさせたきりだった。
 自分の恰好が驚かせたことを自覚している裕丈は、とりわけ優しく語りかける。
「何ゆえかようなことに?」
「わ、わからん。ヤンキーどもがいきなり、わしの住処にやってきて世間話を始めよった」
「うぬ? 世間話とな?」
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