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文字数 723文字

 自分は何の連絡手段もなく、この状況を変える術を何も持たないことで彼女は激しい無力感に襲われた。
 リビングにへたり込むと、この心を徐々に占めてゆく不安と恐怖に彼女はそのまま動けなくなってしまった。

 一番ましな状況をイメージしても、荒らされた寒々しい部屋と大けがをした省吾しか頭に浮かばない。彼女は、両肩を抱いて震えて座っていた。そんな孤独な彼女の脳に刷り込むように、何度もその情景が巡ってくる。
 しだいに真白は、ひどい疲労感と部屋に利いた暖房に眠気をおぼえ始めた。唯一それだけが希望の抱けない彼女の心痛を和らげていた。

 まだ夜が明けないうちだろうか。
 鍵を回し開ける音で、真白はうたた寝から顔を起こした。
(一兵くん……)
 彼が一人で戻ってきたのを確かめると彼女は口を開いたが、息が漏れるだけで声にならない。彼は靴を脱いで上がるなり、眉を寄せた神妙な顔つきで状況をかいつまんで話し始めた。

 彼は警察に緊急電話を入れたが、どうやら省吾らのアパートの隣人が不自然な騒ぎに気づいて既に通報していたらしく、一兵が到着したときパトカーが現場に先着していた。
 男らは窓の外に見えたパトライトで逃げ失せたのだろうか。自宅で省吾は発見、救出されたが、激しい痛みのせいか意識朦朧としたまま、まもなく到着した救急車で運ばれた。

 搬送先の病院まで付き添った一兵は、そこですっかり気が塞いでしまった。
 省吾は命に別状はないとのことだが、彼を診た医師からこう聞かされたためだった。
「気の毒だけど、彼が再びギターが弾けるようになるのは、かなり難しいと思う」
 
 青ざめてうつむき加減だった真白は、一兵の話をそこまで聞くと目を上げた。
「怖い……でも、でも、あいつら、絶対許さない」
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