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文字数 491文字

 真白はとっさに身を引いたが、ごく狭いトイレ個室だけに、背中を壁にぶつけてしまう。痛みに顔をしかめた。

「るあああ!」
 男の顔が覗いた。真白と視線が合うと、かっと目を見開いた。
 その口元はにやけて緩み、そこからあふれ出た涎で、その丸い顎がてらてらと光っている。
(!)
 真白はその気狂いじみた形相に驚き、声を失った。
 個室内に目を走らせた。実は、この広さでは警棒は存分に振り回せない。上からそのまま入って被さってこられたら、もはや反撃はかなわないだろう。当然逃げ場もない。

 そう思い当たると、真白は頭から血の気が失せていくような気がした。
「るあ!」
 男は扉の上部に片足を掛けた。今まさに、男がこちらに飛び降りてくると見て取った真白は、トイレの扉の錠を解き、それを一気に引いて開けた。
 そして扉の上につかまっている男のすぐ下をくぐり抜け、個室の外へ転がり出た。

 床に肘をついたまま、すかさず振り返り見上げると、男がトイレの扉の上に乗ったまま喉をグルルルルと鳴らし、血走らせた目を真白に向けていた。
 本能をむき出しにした、得体の知れない獣と対峙している。
彼女は、尋常ではない寒気をおぼえた。
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