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文字数 677文字

 刑事は眉間にしわを寄せたが、真白の目にはその口元が意地悪く笑っているように見える。じろりと、経営者の顔を上目遣いで見ていった。
「分析に回せ!」
「は!」

 警官の手にあるものをのぞき見ていた経営者の男が首をかしげて、刑事に語りかけながら脇の男を見た。
「そのようなものを作業場で見たことはないが。なあ、村雨君」
「さあ、オレも初めて見ます」
 脇の強面の男も、神妙な物の言い方をした。

 ジャンが、刑事に近寄り耳打ちする。刑事が「いいぞ」と小声で返すと、彼は真白とマイケルに顔を向け、親指を立てて見せた。
 ジャンは、おもむろに経営者の男のそばに立った。
「これから我々と来てもらいたい」
「は?」
「あと、あなたは工場長のようですね。ご一緒に」
 強面の男にも声を掛けた。「通り一遍のお話を聞くだけです」
「なんでそうなるんだ! だいたい、お前ら何者なんだ?」
 ジャンは背筋を正して、落ち着き払って答えた。
「市の職員です。警察の協力部門から来ました。すぐに済みますよ。……もっとも、それはあなた方しだいですが」
 工場長は口角泡を飛ばし、掴みかからんばかりに詰め寄る。
「ふざけやがって! でっち上げじゃねえか!」
 不快そうに顔をそむけて、ジャンは先ほどの刑事の目をちらりと見た。
 刑事は無表情のまま微かに頷くと、ゆっくりと背を向けた。
 自分は見ていなかったことにするから好きにやれ、というサインだと真白は見て取り、顔面蒼白となった。

 それに呼応してジャンは肩をすくめる。そのまま工場長に向き直ると、鋭く右の肘を引いた。
 その手に警棒が握られている。真白の鼓動が自然、速くなる。
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