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文字数 451文字

「そうじゃ。夜桜を観に来たと言うておった。それでのう『公園の桜がそろそろ散りそう』だとか何とか」

 四月も半ば、確かに市内は、風が吹くたびに桜の花びらが舞うようになっている。が、そもそもあの男らは、桜の風情を解するようには見えなかった。
 老人がひとつ咳払いした。

「チビの奴が『春でも夜になると、ここは寒いっすね』なんて言うから、とりあえず話合わせて『夜は冷えるのう』と、わしは言ったのよ」
「うぬ」
「するとじゃ」老人の肩が震えた。
「あいつら、へらへら笑いながらこう言いよった。『暖かくしてあげましょか?』とな。その笑いの意味が分からんで、わしは答えに窮しておったが、一人がライターを見せてきよった」

 裕丈は、頷いた。そのやり取りを聞くだけで善意などではなく、悪ふざけだと知れる。
「火をつけると、わしに近づけて『どうっすか? 温まるっすか?』とな。残りの二人がまた笑うわけよ。そしたら、ライターの男が首をかしげて『やっぱ、そんなに暖かくならないっすね』なんて言い出して、これで火を起こすと言い出しよってな」
 
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