5(6)

文字数 671文字

  裕丈はその足で、中央公園に向かった。

 昼間は老若男女さまざまな人々でにぎわいも見せる、そんな市民憩いの場だが夜間となると、いつもひっそりと静まり返っていた。
 深夜も出入り自由で自宅までの近道で通行する人間もいるが、灯りは乏しく、半グレの溜まり場になっているという噂が絶えない。そのため、夜間にむやみに立ち入らない方が安全というのが市民の共通認識だった。

 公園の西側に、須波スタジアムと称された野球場があった。
 一塁側、三塁側それぞれにベンチと客席があり、バックネットや防球ネット、ナイター設備が施されてあり、主に中学高校の野球部や市内の草野球チームが練習試合に使用している天然芝の球場だった。
 裕丈は、パトロールがてら、ここを訪れるのが日課となりつつあった。

 真っ暗闇グラウンドに降り立つと、冷たい土と草葉の香りが匂いたった。彼の頬が微かにほころびる。
 彼はホームベース辺りまで来てセンター方向を一望すると、おもむろに背負っていた黒いケースを手にし、金属製のバットを取り出した。
 先ほどのトラブルでのしかかってきた、重たい気分を追い払うのに無性にバットが振りたくなったのだった。
 小さな風呂敷包みを開けて、ヘルメットを出す。
 それを被ると、鍔をつまんで小さく左右に揺すった。
 そしてケースと風呂敷を脇に置いたまま、バッターボックスの前で二回軽く素振りをした。ブン、と空気を断つ心地よい音がする。

 バッターボックスに両方の足を入れ、地面を蹴るようにして踵で慣らすと肩を回してバットを構えた。
 それから誰もいないピッチャーマウンドを見据える。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み