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文字数 672文字

 裕丈は海の原を眺めたまま、小さく頷いた。
「仇を討ち果たしたとき、もう僕が守りたい物は何もありませんでした。……虚無に襲われたのです。こんなことをしても、沙織が帰ってくるわけでもない。……やはり沙織のいない世界で、まだこれから数十年も生きていくと思うと……とても気が重くなってしまったのです」

 彼がたどたどしく言葉を選ぶたびに、波の音がしめやかに滑り込んでくる。
「新しい未来を見つけられないと思うんです。……というか、探す気力がまるでないんです」
 BBはここまでいうと、自分を嘲笑うようにした。
「はっは、重たいですね、やっぱり。君もそう思うでしょうね。でも、僕、ほんと下手に歳を取ってから恋にはまったから重症化するんですよ、きっと」
 真白は、かぶりを振った。
「ケンカして嫌いになって別れたとかじゃなくて、好き合っているうちに、突然そんな風に彼氏がいなくなってしまったら、多分あたしも身体に全然力が入らなくなってしまうよ」
「そうですか」
 BBは、眉を浮かせた。
「正義は、ただ単に目先の悪を滅ぼすことにあるんじゃない。その前に、僕の中にいる敵に気づいて立ち向かうことです。それが本来あるべき心の持ち方です」
「BBさんの中にいる敵って何なの?」
「何でしょうね。まだ分からないままです。ただ、僕はそいつには、とうとう勝てなかったようです。沙織を思い浮かべても、彼女の笑顔が見えないから、どうやら違っているらしいです」
 少し夕陽が傾いたのか、二人の顔に影がさした。
 BBは、それを気にしたのか。
「さて。さっさとケリをつけてしまいましょう」
 そう口にした。
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