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文字数 651文字

 二人が戻った庁舎内の待機室に、手に紙コップを持ったジャンが現れた。
「二人とも、ご苦労だった」
 彼は薄手の紺色のセーターをまとっている。その襟元には、白いワイシャツと無地のワインレッドのネクタイが覗いていた。

「仮眠の前にだが、少しだけ話すことがある。飲みたい物があれば買ってくるといい」
 真白とマイケルは、横に首を振った。
「プロジェクトの概要が明らかになったから、この機会に君たちにそれを簡単に説明する」
 そういうと彼は頷き、正対する二人を交互に眺めた。椅子に掛けている二人の目に緊張が走る。
 ジャンはそれを気に留める風もなく、コーヒーに口をつけた。
「指揮監督室から出動先が指定されるが、捜査規模に応じて一チーム単独ないし五チームでの合同作戦だ。最初の週末は住宅地へ向かい、街区ごとの制圧を目指すことになる」
「制圧?」
 その単語に違和感が先だった真白は、思わずそのまま言葉にした。
「その通り。ローラー作戦で各戸を訪問し、あやしげな人間に任意同行を求める」
 マイケルが目を細めた。
「拒否されたら?」
「拒否はできない。任意であって実質任意ではない。その代わり、白と判断されたら、その者はその日のうちに家に帰ることができる」

(そんな馬鹿な)
 真白は、顔をしかめた。
 先ほどのハーマンやマイケルのいったことと重ね合わせたら、あやしいか、あやしくないかの判断は現場にいる自分たちの主観しかない。連行後については取調べ官の公正な判断というよりはその時の気分、その者の人間性により扱いが変わることが容易に推し量れる。
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