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文字数 752文字

 ハーマンは臆せず、後ろに控える二人に首をすくめて見せた。
「全く日本鬼子はこれだから話にならん」
「なんと申した?」
 ハーマンは裕丈の目を見ると、鼻で笑った。
「自由主義を世界中にばらまいた当のアメリカは、今や世界一の犯罪国家だ。日本は、一世紀前、旧ソ連の封じ込めの一環で導入されたその価値観のために、今まさに立ち腐れようとしているというのに、まだ幻想の中にいる」
「なぬ?」

「まあ、聞けよ、鬼子。連中の価値観が結局その民族や国家が背負ってきた歴史によって、それが馴染んだり、不和を起こしたりしていることで明らかではないか。アラブの春、あれは何だったのだ? 自由主義が普遍的な価値ではない証だ。単なるアメリカの傲慢さの表れにすぎん。皮肉にも日本は、世界で最も成功した共産主義国家といわれている。この国もまた統制主義がふさわしいことの証左ではないのか」
「それは、子供だましのレトリックであろう」
 裕丈は、眉一つ動かさずに口を挟んだ。
「昭和期の我が国は実質、自民党の一党独裁政権であった。かの国の指導部は、それを標榜しておるのかもしれんが、自民党はどうなったか、お主も存じておろう。『淀む水には芥たまる』それを地で行って汚職にまみれ不平等社会を蔓延させたでござる。民主主義国家の長である首相を決めるのに、民主的手法はなくキングメーカーが跋扈した。そんな閉塞した党、ひいては政治の在り方をかの国は今なお有難がっているようであるな」

 ハーマンは、歯をむいた。
「何が言いたい?」
「これ以上の問答は無用でござる。拙者は、この国に息づく自由を守る。お主ら、不満ならば、まず拙者を連行するがよかろう」
 そういうと裕丈はバットを抜き、前方に構えた。
「小生意気な」
 ハーマンが吐き捨てるようにいうと、二人の男が鉄パイプを手にした。
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