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文字数 1,309文字
結局マンションの部屋から金目のものがなくなったりはしていないようで、警察は強盗未遂事件及び傷害事件として捜査を始めた。
後日捜査員の一人からもらった電話によれば、犯人は手練れの者らしく、マンションロビーとエレベータ内の防犯カメラを巧みに避けて侵入、退去しており、その足取りをつかむのは容易でないようだった。
裕丈と沙織は二人とも当面の間、勤め先を休むことを余儀なくされた。
裕丈は打ちつけた顔面や殴られた頭部の怪我がもとで、市中央病院で頭部のCT及びMRI検査を受けていた。その後異常なしとの結果が出て、治療で近場の病院に転院して通うようになった。
それから半月もすると彼は事件で受けた傷が快復し、やがて痛みも引いて出社するようになった。
が、彼女は自室からもほとんど出てこなくなり、食事の準備等の家事の多くを彼が一人で取り仕切るようになった。
彼女の愛用していた調理道具は出番がなくなり、彼が仕事で忙殺されて、その帰りに買うスーパーやコンビニ等の総菜や弁当、冷凍食品が食卓に並ぶようになっていった。
その食事の場でも、彼女はほとんどいなかった。
夕食を終えて、しばらくダイニングルームでそのまま裕丈がくつろいでいると、たまにトイレに立つ沙織と顔を合わせることがあったが「ただいま」「おかえり」と一言ずつ小声で交わし合うだけだった。
彼女はあまりテーブルにはつこうとしなかった。
「ごめんなさい。おやすみ」
水だけを飲んで、そういって背を向け、そっとドアの向こうに消えた。
時間を問わず空腹を感じた時に起きてきて、食べたいものだけ、食べられる量だけ口にしてまた眠る。そのような食生活のようだった。
彼女は、彼が出社するときも自室に引きこもって休んでいた。
時々は起きて部屋を出て彼の前に現れたが、決まって消え入りそうな声で「ごめんなさい」とだけいって、すぐに部屋に戻ってしまうのだった。
夕食も朝食も彼女が起きて出てこないと分かると裕丈はそれらを冷蔵庫にしまいこみ、献立のメモを残した。
風呂は互いにシャワーで済ませていたが、浴室の状態からして彼女は二日に一度くらい不規則な時間に浴びているようだった。
それに加えて裕丈がもう一つ気づいたことがあった。
もともと家事の分担で、風呂掃除は基本彼がこなしていたが、シャンプーやボディシャンプーの減りが異様に早くなっていた。
それぞれスペアの買い置きが週に三パックずつは必要だった。彼はそれらを切らさないように気を遣った。
そのような生活となってから日曜は一人で食材を買い出しに出て、多少ながらも料理の作り置きをして、たまった洗濯物をこなすのに充てた。
その合間はダイニングで読書やネットサーフィンをして、眠っている沙織を音で悩ませないように静かに過ごした。
外出はなるべく控えて気まぐれに現れる彼女と少ないながらも会話を交わせるよう心掛けた。
それが彼なりの彼女への愛情表現のつもりであった。
そのまま十日、二十日と過ぎていった。初めこそ用意してあった食事を彼女は口にしていたようだが、全部残したままの日も時々あり、彼女の状態がむしろ日に日に悪化しているように見えた。
後日捜査員の一人からもらった電話によれば、犯人は手練れの者らしく、マンションロビーとエレベータ内の防犯カメラを巧みに避けて侵入、退去しており、その足取りをつかむのは容易でないようだった。
裕丈と沙織は二人とも当面の間、勤め先を休むことを余儀なくされた。
裕丈は打ちつけた顔面や殴られた頭部の怪我がもとで、市中央病院で頭部のCT及びMRI検査を受けていた。その後異常なしとの結果が出て、治療で近場の病院に転院して通うようになった。
それから半月もすると彼は事件で受けた傷が快復し、やがて痛みも引いて出社するようになった。
が、彼女は自室からもほとんど出てこなくなり、食事の準備等の家事の多くを彼が一人で取り仕切るようになった。
彼女の愛用していた調理道具は出番がなくなり、彼が仕事で忙殺されて、その帰りに買うスーパーやコンビニ等の総菜や弁当、冷凍食品が食卓に並ぶようになっていった。
その食事の場でも、彼女はほとんどいなかった。
夕食を終えて、しばらくダイニングルームでそのまま裕丈がくつろいでいると、たまにトイレに立つ沙織と顔を合わせることがあったが「ただいま」「おかえり」と一言ずつ小声で交わし合うだけだった。
彼女はあまりテーブルにはつこうとしなかった。
「ごめんなさい。おやすみ」
水だけを飲んで、そういって背を向け、そっとドアの向こうに消えた。
時間を問わず空腹を感じた時に起きてきて、食べたいものだけ、食べられる量だけ口にしてまた眠る。そのような食生活のようだった。
彼女は、彼が出社するときも自室に引きこもって休んでいた。
時々は起きて部屋を出て彼の前に現れたが、決まって消え入りそうな声で「ごめんなさい」とだけいって、すぐに部屋に戻ってしまうのだった。
夕食も朝食も彼女が起きて出てこないと分かると裕丈はそれらを冷蔵庫にしまいこみ、献立のメモを残した。
風呂は互いにシャワーで済ませていたが、浴室の状態からして彼女は二日に一度くらい不規則な時間に浴びているようだった。
それに加えて裕丈がもう一つ気づいたことがあった。
もともと家事の分担で、風呂掃除は基本彼がこなしていたが、シャンプーやボディシャンプーの減りが異様に早くなっていた。
それぞれスペアの買い置きが週に三パックずつは必要だった。彼はそれらを切らさないように気を遣った。
そのような生活となってから日曜は一人で食材を買い出しに出て、多少ながらも料理の作り置きをして、たまった洗濯物をこなすのに充てた。
その合間はダイニングで読書やネットサーフィンをして、眠っている沙織を音で悩ませないように静かに過ごした。
外出はなるべく控えて気まぐれに現れる彼女と少ないながらも会話を交わせるよう心掛けた。
それが彼なりの彼女への愛情表現のつもりであった。
そのまま十日、二十日と過ぎていった。初めこそ用意してあった食事を彼女は口にしていたようだが、全部残したままの日も時々あり、彼女の状態がむしろ日に日に悪化しているように見えた。