プロローグ 1(2)

文字数 753文字

 そこから彼の演説は一変して、選挙中から繰り返し訴えていた政治姿勢や信条をなぞる内容となった。
 国の再生を叶える活力と自由の精神を発信するのは、この刷新された須波市なのだと、声高々と改めて訴えたが、公園に押し掛けた市民らを熱狂させるには全くもって十分であった。 
 二十分ほど、時折拳を天の方に掲げながら、やや汗ばんだ浅黒い顔をカメラに向けながら抑揚をつけ緩急自在に歌い上げるようにして、熱量のこもった言葉を次々と口にした。

「須波の皆の力を合わせて、夢を叶えていきましょう!」  
 やがてそう締めくくると、拍手や歓声が入り混じる中、彼は演台の前に立ち、やはりゆっくり大きく頭を下げた。

 しばらくじっと垂れていた頭を上げると、トレードマークになっている人懐っこい笑顔を浮かべた。両手で大きくガッツポーズを取り、そのまま上に上げて左右に振り、袖に向かって歩み始めた。
 そばに控えている門脇に、軽く頭を下げ握手をしようと右手を伸ばした。

 まさにその時だった。
 会場内に、ゴーンという凄まじい音が鳴り響く。
 誰もが、まさに青天の霹靂、突然の落雷なのだと思った。
 歓声に悲鳴が混じる。思わず空を見上げる聴衆らが幾人もいた。

 そこへ、もう一度同じ大きな音が轟いた。ステージ上の榛村の身体がのけぞる。と同時に赤い液体がしぶいた。門脇の目が大きく見開かれる。
 どこからか怒号が聞こえた。SPたちが慌てて一斉にステージに這い上がる。ある者が横たわる榛村に覆いかぶさった。他の者たちはそれを囲むように背を向けて立ち、拳銃を手に周囲を警戒した。

 どよめきと泣きわめく声に突き上げられるようにオーロラビジョンの映像が大きく揺れた。
 呆然と立ち尽くす門脇がアップとなり、赤い斑点で覆われた彼の顔が映り込んだところでブラックアウトした。

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