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文字数 606文字

 ハンドルに寄りかかりながら身体を起こしたトザキが、前方の信号を見つめた。
「いやいや、F1仕様は伊達ではない。逃げ足だけは天下一品だぜ?」
 真白は、雪崩のごとく押し寄せるパトカーの群れを眺めて、ため息をついた。
「弾丸よりも速く走れるというなら文句ないけどね」

 そこで、ようやく信号が青に変わったようだった。Ⅴ10エンジンが吠える。
「うっぷ!」
 急発進で今度は胸が一気にシートに押し付けられた。身動きどころか、息一つできない。
 見る見るパトカーの行列が遠ざかる。
 まもなく市外に伸びる道は市街地を出て、辺りは一面、田畑風景となった。
 マーシーは、遠くでいくつものパトライトが光っているのを眺めやり、トザキにいった。
「マッポはテリトリーが決まってんだ。とりあえず県境を越えたら追ってこねえ」
「なら、ショートカットするべ」

(え?) 
 トザキが急ブレーキを掛け、あとの三人は前のめりになった。
 それから車は大きく90度旋回して、道の脇の畑に突っ込んだ。上下に大きく揺れる。
「おわ!」
 さすがのマーシーも想定外だったのか、驚きの声を上げた。それと同時に、サングラスが吹っ飛んだ。
 でこぼこした地面に、車体がきしんでいる。
「そ、そこは道じゃねえ!」
 そう叫んだマーシーに、トザキは平然としていた。
「マーシー、高村光太郎を知らんのか?」
「は?」
「『僕の前には道はない 僕の後ろに道はできる』」
「あれは、そういう意味じゃねえ!」
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