5(1)

文字数 695文字

 裕丈は津村からの電話を切ると、すかさず「アルジェール」という名のワンルームマンションをネットの地図検索に掛けた。

(市街地の東寄り、幹線道路沿いか)
 地図及び経路検索で確かめると、どうやらここから充分に徒歩圏内のようだった。が、事が事だけにゆっくり歩いている時間に猶予はない。
 バットケースを背中に回し掛け、風呂敷包みを小脇に抱えると、すかさず駆け出した。

 ひた走りに走る。
 角を折れて、後方からの車両の有無を確かめては道を渡るのを繰り返す。まずは息が切れるまで全力で走るつもりが、不思議といつまでも身体は軽かった。おそらく、アドレナリンが出ているのだろう。彼は思った。

(これならパトカーが着くまでに、それどころか犯人が逃げるまでに現場を押さえられるのでは)

 十数分ののち、アルジェ―ルに到着した。その正面玄関の前に立つと、裕丈はマンションを見上げた。
(7階建てか)

 正面から中へ入ると、薄暗いダウンライトが照らすこぎれいなロビーがあった。それを見る限り、マンションは築浅のようである。
 管理人室を覗くと電灯がついていたが、誰もいないようだった。その前を通り抜けて奥にある集合ポストの前に立つ。目的の405号室に「三上」という名があった。踵を返しエレベータに忍び入ると、4階のボタンを押した。

 再び扉が開いてエレベータホールに歩を進める。左右に薄暗い照明の廊下が延び、扉が並んでいた。ほどなく405号室のドアの前にたどり着く。
 聞き耳を立てるが、声や物音は聴こえない。
 間違いはないか、もう一度部屋番号を確認する。左右に目を配って通路に人気がないことを慎重に確かめた。
 彼は、意を決した。
 
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み