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文字数 695文字

 ここ数年、ホームレス襲撃事件が、日本全国的に都市部を中心に起きて懸念されていた。
 眼前に起きていることがそれだと認識するには、それほど時間は要しなかった。
 須波市にも公園等にホームレスが出現して数年になるが、同時にそれがトラブルの誘因になることも大方の人間には容易に想像がついていた。

「うらあ! おっさん! 寒がってたから暖かくしてやったぜ!」
「ひゃー、勘弁してくれー」
 若い男らの笑い声に、老人の泣き声が重なる。
 裕丈は、バットを握り直した。

 てらてらと大きな炎が、その姿を照らし出すのを目にしたのか、そばで笑って眺めていた小柄で痩身の若い男が叫ぶ。
「なんだ、お前!」
「ブンブン侍、見参!」
「は? ぶんぶんざむらい?」
 小男は、呆けた顔つきになった。
「マッツ! どうした?」
 そのやり取りを耳にしたらしい男の声がした。その方向を見ると、大柄なのが炎を回り込んで、裕丈に向かって歩を進めてきた。
「何だこいつ、やる気か?」
「ダイ! 誰か、そこにいるのか」
 さらにその向こうから別の嗄れた声がした。裕丈は、目を細める。マッツ、ダイという男らと、姿の見えない嗄れ声。相手は三人と予測を立てた。

(こういう人を人と思わない連中が、沙織を追い込み、殺したんだ! 絶対に許さない!)
「プレイ!」
 そう独り言ちると、バチバチと燃え盛るベンチに向かって裕丈は踊り込み、バットを振り上げた。
 一番手前にいるマッツが、身軽そうに脇へ飛びのく。バットが空を切るも、裕丈はすかさず右の肘を引いて構え直す。
「うお、やばい、やばい!」
 しばし対峙していたマッツは背を向けるなり、せり出した炎に沿って向こうへ逃げ出した。
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