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文字数 625文字

 特別な落ち度があったわけでも、人の恨みを買うようなこともしていないのに、平穏な暮らしを崩され、ギタリストである兄の命同然の指の骨を拷問にかけるようにして砕かれたことには、震えが止まらないほどの怒りと憎しみを覚えている。

 真白がそう言い足すと、彼は頷いた。
「実は僕はね、よそから来た。この街には、知り合いはいないし、正直、何の執着もない。妻も子どもも遠い地にいるんだ」
 言われてみれば、確かにマイケルの話す言葉はイントネーションが若干違う。地元出身ではないと言われた方が腑に落ちる。

「経験を買われて須波市から誘われたんですか」
「それもあるだろうけど、一番の決め手は別だと思う」
 謎かけのようなマイケルの言い回しに、真白はやや首を傾げる。
 物静かなマイケルは、さらに声を落としていった。
「不自由なく日本語が話せることだ」
「え? 日本人ではないんですか」
 顎を引いてみせたマイケルは、誰も聞き耳を立てていないか気になるらしく、左右に目をやった。
「そう。僕は、かの国から単身赴任でやって来た」
「かの国?」
「実は、ジャンもそこから来たんだ」

 マイケルは、共産主義を標榜する某強権国家の名を漏らした。
「なぜ、今ここで、その話を?」
「来週のプロジェクト。中身は聞かなくても、僕にはだいたい分かっている。かの国のやり方を踏襲するはずだ。降りるなら今のうちだと思う。このまま治安維持チームに参加していると、君はおそらく後悔することになるだろう」
 真白は、息を飲んだ。

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