12(13)

文字数 561文字

 ここで男は「むう」とうなって、低い姿勢のままローキックでBBの足を払おうとする。が、BBは間一髪、跳びあがった。
 その着地を狙って、男はまっすぐに腕を伸ばしてナイフで刺そうとしたが、BBはその手の伸び切ったところを見極めて、その手首を甲の側からひっつかみ、内側にひねった。
「だ!」
 男が驚きの声を上げると、BBはその肘をバットのグリップエンドで強く突いた。
 ナイフが宙に飛ぶ。
(!)
 真白は、すかさず後ずさりした。

 それを眺めていたマイケルは息をつき、つぶやくようにいった。
「これで勝負あったな」
 打たれた肘を空いた左手で押さえながら、男は後退して隣の部屋の入り口に立った。
「拙者そして沙織が貴様に奪われし物を、貴様もまた、今ここで失うがいい」
 BBはバットを顔の横に構えると、男を睨み据えた。
 男は、無表情になり両手を上げる。
 さんざん挑発的な態度を示してきたわりに、意外に淡白な終わり方だと真白は拍子抜けした。

 自分に力を感じなくなれば、誰でも最後はそうなるのかもしれない。そう思い当たって真白は、ふと感慨にふけった。
 それでなのか、BBの身体中の毛穴から吹き出していた殺気が、ついに収まりを見せた。
 その様子を見守っていたマイケルと、粘着テープで口を閉じられ拘束されていたカップルは、このひと時を静かに迎えている。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み