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文字数 1,341文字
対バンイベントを終えると真白は、打ち上げの飲み会に向かう寺山と省吾の二人とライブハウスの入居するビルの前で別れた。
そのまま帰路につくと、まっすぐに省吾と住む自宅アパートに戻った。
彼女は大人数の集まりに身を置くと、いつも居心地が悪い。気を遣うべき相手が多すぎて、気疲れしてしまうからかもしれなかった。
そもそも甲高い声でシャウトを繰り返して熱っぽくなった喉にアルコールのような刺激物を流し込む気分になれないのは確かだった。
夜が更けるころ、彼女はぼんやりとテレビを観ていた。
市長襲撃事件の続報をやっている。
狙撃に使われたスナイパーライフルが使用されたのは、公園に面したタワービルの空き部屋だと特定されたようだった。
バッグを抱えて非常階段の扉から出てきた全身黒ずくめの大柄な男の目撃証言があり、また事件発生時刻前後にエレベータ1基が狙撃の行われたとされる階で延長ボタンが押されたか何かで数十秒間止まっていたとする証言もあるとのことだった。
それは、逃走用に用意されていたと推測されている。
狙撃犯人像については複数人数説が有力であるという警察側の見解を伝えた。
コメンテーターが、いずれにせよ犯人の絞り込みには事件の背景の洗い出しと動機の解明が必要不可欠だと述べたのに対し、キャスターが「なぜ市長が狙われたのでしょうか」と神妙な顔つきで緊急放送を締めくくった。
若くカリスマ性のある榛村の立ち振る舞いを、真白はメディアを通じて市長選のころから何度か目にしていた。誰もが知る有名なロックバンドの名曲で登場してステージに現れるさまは、本当に往年の人気ロックスターのようだった。
爽やかでエネルギッシュなイメージを売りにしている彼の裏の顔はどうだったのか。
その暗い面が元で狙われたのだとしても到底知りようもない。それは自分が尊敬しているロックアーティストだって同じことである。光の当たる演出向けの自分の言動が周囲に与える印象そして、おそらくさらに自身の損得さえ決めているのだろう。
(お兄ちゃん、なかなか帰ってこないし。また二次会まで付き合ってんのかな)
明日の集中講義が一限目からである真白は、少しでも早く眠りたかったのである。彼女はしだいに、うんざりした気分になっていった。
スマホの時計を見た。あと一時間もしないうちに日付が変わる、そんな夜更けともなると地方都市だけに、辺りは静かだった。
比較的市の中央部にあるこのアパートは、繁華街で酒を飲んでも徒歩で帰ることができる。築年数が20年に迫っている木造物件だが、酒の好きな省吾はここがとても気に入っていた。
唐突に、ドアの鍵穴に鍵が差し込まれ、施錠が解ける音がした。自室のベッドにいた真白は顔を起こす。
(やーっと帰ってきた)
自室から出ていくと、玄関口で赤ら顔の省吾が、ふらふらと立っていた。
真白は寝る支度まで済ませていて、白のロングTシャツと水色のジャージパンツ姿だった。両手を腰に当てて、やや不満そうに口先を尖らせる。
「ほんとに、こんな遅くまで……うわ、くさ! すごいお酒の匂い!」
彼女はとっさに鼻をつまんで、鼻声でそういった。
「えへへ、わるい」
その省吾の後ろから続けて入ってくる男に、真白の目線が釘付けになった。
そのまま帰路につくと、まっすぐに省吾と住む自宅アパートに戻った。
彼女は大人数の集まりに身を置くと、いつも居心地が悪い。気を遣うべき相手が多すぎて、気疲れしてしまうからかもしれなかった。
そもそも甲高い声でシャウトを繰り返して熱っぽくなった喉にアルコールのような刺激物を流し込む気分になれないのは確かだった。
夜が更けるころ、彼女はぼんやりとテレビを観ていた。
市長襲撃事件の続報をやっている。
狙撃に使われたスナイパーライフルが使用されたのは、公園に面したタワービルの空き部屋だと特定されたようだった。
バッグを抱えて非常階段の扉から出てきた全身黒ずくめの大柄な男の目撃証言があり、また事件発生時刻前後にエレベータ1基が狙撃の行われたとされる階で延長ボタンが押されたか何かで数十秒間止まっていたとする証言もあるとのことだった。
それは、逃走用に用意されていたと推測されている。
狙撃犯人像については複数人数説が有力であるという警察側の見解を伝えた。
コメンテーターが、いずれにせよ犯人の絞り込みには事件の背景の洗い出しと動機の解明が必要不可欠だと述べたのに対し、キャスターが「なぜ市長が狙われたのでしょうか」と神妙な顔つきで緊急放送を締めくくった。
若くカリスマ性のある榛村の立ち振る舞いを、真白はメディアを通じて市長選のころから何度か目にしていた。誰もが知る有名なロックバンドの名曲で登場してステージに現れるさまは、本当に往年の人気ロックスターのようだった。
爽やかでエネルギッシュなイメージを売りにしている彼の裏の顔はどうだったのか。
その暗い面が元で狙われたのだとしても到底知りようもない。それは自分が尊敬しているロックアーティストだって同じことである。光の当たる演出向けの自分の言動が周囲に与える印象そして、おそらくさらに自身の損得さえ決めているのだろう。
(お兄ちゃん、なかなか帰ってこないし。また二次会まで付き合ってんのかな)
明日の集中講義が一限目からである真白は、少しでも早く眠りたかったのである。彼女はしだいに、うんざりした気分になっていった。
スマホの時計を見た。あと一時間もしないうちに日付が変わる、そんな夜更けともなると地方都市だけに、辺りは静かだった。
比較的市の中央部にあるこのアパートは、繁華街で酒を飲んでも徒歩で帰ることができる。築年数が20年に迫っている木造物件だが、酒の好きな省吾はここがとても気に入っていた。
唐突に、ドアの鍵穴に鍵が差し込まれ、施錠が解ける音がした。自室のベッドにいた真白は顔を起こす。
(やーっと帰ってきた)
自室から出ていくと、玄関口で赤ら顔の省吾が、ふらふらと立っていた。
真白は寝る支度まで済ませていて、白のロングTシャツと水色のジャージパンツ姿だった。両手を腰に当てて、やや不満そうに口先を尖らせる。
「ほんとに、こんな遅くまで……うわ、くさ! すごいお酒の匂い!」
彼女はとっさに鼻をつまんで、鼻声でそういった。
「えへへ、わるい」
その省吾の後ろから続けて入ってくる男に、真白の目線が釘付けになった。