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文字数 864文字

 「……あれえ、お兄ちゃん。お連れさん?」
「え?」
 省吾が振り向いた。
 にやけたヤンキー風の大柄な金髪男がいる。黒光りするウィンドブレーカーから下は迷彩柄のミリタリー風パンツといった出で立ちだった。

「何だ、お前!」
 声を上げた省吾はその男に掴みかかろうとしたが、逆に突き飛ばされる。背中をしたたかに打った彼は、肘をついて立ち上がろうとして目をむく。
 大男の後ろからお揃いのファッションの男が、さらに二人現れて玄関口を塞いだ。

 先頭の大男が省吾の襟首を掴むと、そのまま天井近くまで持ち上げた。真白はその右手の甲に目を見張った。
 黄と黒の派手なタトゥーが見える。ホーネット(スズメバチ)のようだった。

「ふぐ……!」
「あああ! お兄ちゃん!」
 真白が甲高い悲鳴を上げると、男たちの顔が一斉に彼女の方へ向いた。
「うお?」
「女だ」
「女がいる!」
 男たちは、口々にそういった。
 三人が土足のまま上がり込んできたところで、省吾はさらに顔を歪め、締め上げられた喉から声を絞り出す。
「ま、真白! 行け! 逃げろ!」
「こいつ……」
 大男が宙に浮いたままの省吾の腹に、空いた方の拳を叩き込む。
 彼は、こみ上げてきたまま嘔吐した。「る、……んがあ!」

 ボタボタと吐瀉物が音を立てる。リビングダイニングの床にまき散らされた物に真白は足がすくんだ。
 それを見たモヒカン頭で鼻ピアスの小柄な男が、右手からそろりと回り込んでくる。
 その男に腕を掴まれそうになった真白は、さっと身を引いてすり抜けた。その男もまた手の甲に、先の大男と同じ派手な絵柄のタトゥーをしている。

 彼女は素早く振り返ると背後に迫る男たちの息遣いを感じながら、飛びつくように窓に手を掛けるとベランダへ出た。
「おお、おい、逃がすな!」
彼女は腰の高さまである手すりを軽々と飛び越えて着地するも、前につんのめって道路に手を着いた。

「くそ。おいこら、待てよ!」
 続けてベランダに出てきた男らが、彼女の背中に喚き声を浴びせる。
(捕まったらやられてしまう!)
 彼女は必死に立ち上がると、路地を暗闇の方に向かって駆けた。
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