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文字数 814文字

 続けて演台に立った指揮監督室長の内倉は、四〇代前半に見える、眉山の吊り上がった痩せ気味の長身の男だった。パワーポイントを駆使して大型の液晶スクリーンにキーワードや数字、グラフを映し出した。

「桜木公安部長のお話を補足する詳細な数的データがこちらです」
 内倉は、胸の内側ポケットから指示棒を取り出すと、素早く伸ばし、その先で円グラフの外周をなぞった。
 彼は、これまでの一週間の成果と市の公安情勢、今後のチームの動きについて弁舌滑らかに説明した。
「これからは皆さんの頭の中の〝容疑者〟の定義を変えていく必要があります」
 その言葉に反応して、複数のメンバーの頭が動く。真白もその一人だったが、そばのジャンとマイケルは微動だにしなかった。

「今後は、犯罪予備軍というものに目を向けていっていただきたい。彼らは、統計によって絡め捕ることができます。これを見てください」
 液晶画面には、過去の前科者の統計グラフが出ている。
「これは警察庁がまとめた過去十年の日本全国のデータですが、人口当たりの前科者の割合が出ています。その隣が、その前科者の内訳です」
 その円グラフには、半数を占めているところに青、あとは十五%ずつだろうか、赤、白、ピンクに塗り分けられている。

「これは何を示しているのか、分かりますか」
 細身の眼鏡のフレームを持ち上げて薄ら笑いを浮かべた内倉は、目の合った前列の参加者に予想させる。
「所得」
「違いますね」
「年齢」
「いやあ残念」
「地域」
「確かにそういうデータも収集してありますが、今回は違います」
(は? 何なの、これ?)
 彼はどうやらクイズ番組の司会者か何かを気取っているようだが、気が長いとはいえない真白にしたらもどかしいだけだった。
「性別」
「あ! だいぶいい線行ってます。でも四つも性別がありますか、ククク」
 笑っているのは内倉だけだった。
「じゃーん、正解はこれ!」
 彼は、演台のノートPCにつながれたマウスをクリックした。
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