第109話
文字数 5,920文字
大場と葉山は、知り合いに違いない…
だが、どういう知り合いかは、わからない…
大場小太郎?
とっさに、大場の父親の名前が、脳裏に浮かんだ…
普通に考えれば、大場は、もし、葉山を知っていたとすれば、父親経由…
大場小太郎経由に違いない…
大場が、昔、どこかで、バイトして、そこの従業員か、店長に、偶然、葉山がいて、知り合った…
そんな可能性もないではないが、大場は、あの大場小太郎の娘…
どうしても、父親経由の知り合いに違いないと、考えてしまう…
すると、以前、葉山が言った言葉を思い出した…
あの高雄組組長がスーツ姿で、初めて、この店にやって来たときに、
「…あのひと、堅気じゃないね…」
と、即座に見抜いた…
だが、何度も言うように、高雄組組長は、長身で、スーツの似合うサラリーマンにしか見えない…
しかも、その印象は誰が見ても、お堅いサラリーマン…
銀行員か、なにか、だ…
私は、驚いて、
「…どうして、そんなことが、わかるんですか?…」
と、聞くと、
「…ボクは、以前、別の店で働いていたとき、近くにヤクザの事務所があって、ボクのいた店にも、お客様として、出入りしていたから、彼らが、どんな格好をしようと、匂いで、わかるんだ…」
と、説明した…
私は、そのときは、そんなものかと、考えたが、今、もしも、葉山と大場が知り合いだったとしたら、見方が違ってくる…
葉山は、以前、勤務した店が、ヤクザの事務所の近くだと、私に言った…
そして、大場の父親…
あの大場小太郎は、父親が、同じ政治家で、国家公安委員長を歴任して、しかも、山田会の亡くなった古賀会長や、稲葉五郎、高雄組組長と親しくしていた…
彼らを監視するためだ…
公安関係者として、彼らを監視するためだ…
公安は、身分を隠して、いわゆるヤクザや、宗教団体等に、スパイを送り込んで、日々、彼らを監視しているのは、よく知られたことだ…
あのオウム事件が起きたとき、一番困ったのは、オウムに警察も公安も、どちらもスパイを潜入させていなかったことだ…
だから、彼らの動静を掴めなかった…
事前に掴めていたら、あんなことは、起きなかったに違いないと、言われている…
もしかしたら、葉山は、公安関係者?
ふと、気付いた…
葉山が以前、漏らした、前に、いた店の近くに、ヤクザ事務所があったというのは、偶然ではないのかもしれない…
葉山が勤務した店の近くに、偶然、ヤクザ事務所があったのではなく、ヤクザ事務所を監視するために、ヤクザ事務所の近くにある店に、勤務したのではないか?
彼らを監視するためだ…
つまり、大場の父親も、この葉山も、もしかしたら、公安関係者という、接点というか、繋がりがある…
私は、気付いた…
と、そこまで、考えて、思い出した…
そもそも、この葉山は、最初、私が、このコンビニで働き出したときに、店長ではなかった…
別の人間が、店長だった…
どうしてだか、わからないが、ある日、突然、店長が変わったのだ…
このコンビニは、オーナー店…
コンビニを運営する会社が、直接経営する、直営店ではない…
もっと、詳しく説明すると、例えば、ローソンが、直接経営する店が、直営店で、そこの店長は、ローソンの社員だ…
だが、普通のコンビニは、大半は、オーナー店…
例えば、鈴木さんや高橋さんが、経営している…
少し、話は、それたが、そういうことだ…
つまり、葉山は、最初から、この店の店長ではなかった…
この店は、オーナー店だから、私は、そんなこと、気にもしなかった…
店長といっても、雇われ店長に過ぎない…
だから、店長が、代わっても、気にもしなかった…
だが、もし、そこに意味があったとしたら、どうだ?
店長が代わる意味があったとしたら、どうだ?
意味=目的があったとしたら、どうだ?
私は、考えた…
そして、ふいに、その答えが閃いた…
そんなことは、ありえないが、私を監視するのが、目的だとしたら?
私を監視するために、葉山は、私がバイトをする、このコンビニの店長になった…
あるいは、公安が、私を監視するために、葉山を送り込んだ?
こう考えるのは、考え過ぎか?
妄想のし過ぎか?
考えた…
だが、その可能性は、排除できない…
冷静に考えれば、その可能性は排除できないどころか、大ありだ…
なぜなら、私を巡って、あの稲葉五郎を始め、高雄組組長、松尾会会長、そして、大場小太郎と、大物ヤクザ、大物政治家が、連なっている…
まさに壮観というか、華麗だ…
業界は違うが、日本中に名の知れた大物が、私に関心を示している…
この平凡な竹下クミに関心を示している…
これは、一体どういうことだ?
考える…
あの亡くなった山田会の古賀会長の血筋を引く者だからか?
私は、思った…
いや、違う…
そうではない!
私は、考える…
思い直す…
おそらく、私も知らない、私になにか、あるに違いない…
この竹下クミも知らない、なにかが、私にあるに違いない…
それは、この前、林も指摘した…
と、ここまで、考えて、気付いた…
稲葉五郎のこと、をだ…
稲葉五郎は、まもなく、山田会の会長に就任する…
つまりは、山田会のナンバーワン…
トップになるのだ…
となると、どうだ?
私は、必要ない!
すでに、山田会のトップが決まった稲葉五郎に、私は必要ない…
だから、稲葉五郎が、今後、私の前に姿を現すことは、ないに違いない…
いや、
違う…
そうではない!
仮に、私が、山田会の古賀会長の血筋を引く者だとしても、一体全体、稲葉五郎が、山田会の会長に就任するに、あたって、なんの役に立った?…
例えば、稲葉五郎が、私を山田会の幹部の前に連れて行って、
「…古賀会長の血筋を引く、お嬢さんだ…今度、オレが、山田会を率いるにあたって、微力ながら、力を貸してくれるそうだ…」
と、なんとか、言うのならば、わかる…
私になんの力もないが、山田会の古賀会長の血筋を引く者が、味方になってくれることを、幹部たちにアピールするためだ…
しかし、当然のことながら、そんなことは、なかった…
だから、もしかしたら、山田会の幹部連中に、稲葉五郎が、
「…古賀会長の血筋を引くお嬢さんが、オレの味方になってくれる…」
なんてことは、一言も言わなかったのではないか?
そもそも、私が古賀会長の血筋を引く者という話も、もしかしたら、ブラフ…
ブラフ=ハッタリの可能性もある…
いや、
ハッタリ=ウソの可能性が高い…
だが、だとしたら、一体、私は、なんだ?
竹下クミは、なんだ?
なんの利用価値がある?
考える…
いずれにしろ、私は、持ち上げられてる…
大切にされてる…
それは、事実…
間違いのない事実だ…
さらに、気付いたことがある…
稲葉五郎VS、その他の構図だ…
以前も言ったが、高雄組組長、松尾会会長、大場小太郎は、一度も稲葉五郎と同席していない…
高雄組組長も、松尾会会長も、
「…次の山田会会長は、五郎です…」
と、言いながら、その席に稲葉五郎はいない…
つまり、他の3人は、稲葉五郎と対立している?
いや、
対立は、していないかもしれないが、少なくとも、協調はしていないに違いない…
つまりは、
「…次の山田会会長は、五郎です…」
と、口にはしているが、その実、面白くないのではないか?
だから、同席していない…
いや、同席どころか、稲葉五郎は、個別にでも、あの3人の誰ともいっしょにいない…
いたことがない…
これは、一体なにを意味するのか?
普通に考えれば、やはり、対立していると、考えるのが、正しいのではないか?
そして、稲葉五郎は、あの3人の妨害をはねつけて、山田会の会長に就任が決まったと考えるのが、正しいのではないか?
つまりは、あの3人は、当初から、稲葉五郎の山田会会長就任を邪魔したかったのではないか?
私は、考える…
と、ここまで、考えて、気付いた…
だが、今現在も、葉山は、このコンビニの店長を続けている…
大場もまた、今、私を誘っている…
つまりは、終わってない!
終わってないということだ…
おそらく、稲葉五郎が正式に山田会の会長に就任するまでは、終わらない…
決着がつかないのではないか?
あるいは、稲葉五郎が、他の3人を完膚なきまでに、叩き潰さねば、決着がつかないのではないか?
そう気付いた…
つまりは、仮に、稲葉五郎が、山田会の会長に就任しても、まだ、終わりではない…
それをいえば、大場小太郎も同じ…
仮に、日本の総理大臣に就任しても、終わりではないのかもしれない…
そして、終わりではないと言うのは、どういう意味か?
それは、要するに、火種が残っているということ…
騒動の火種が残っていることに、他ならないのではないか?
だから、仮に、稲葉五郎が、山田会の会長に就任しても、騒動の火種が、残ったままでは、困る…
つまり、敵対する勢力…高雄組組長や松尾会会長、そして、大場小太郎を完膚なきまでに、叩き潰さなければ、ならない…
これは、また、大場小太郎も同じ…
今現在、勝ち組の大場小太郎も、もし、稲葉五郎との間に、埋めがたい確執があるのならば、それを埋めるか?
あるいは、稲葉五郎を完膚なきまでに、叩き潰さなければ、ならない…
そういうことだ…
私は、思った…
つまり、まだ、勝負はついていない…
決着は、付いていない…
それは、葉山が、このコンビニを去らない限り、決着が付いたことにならないのではないか?
もし、葉山が、私の予想通り、公安のスパイとして、このコンビニの雇われ店長に就いたのならば、騒動が終わらない限り、このコンビニの雇われ店長を続けているに、違いない…
つまりは、終わってない…
もしも、私の予想通り、葉山が公安のスパイとして、このコンビニに潜り込み、私の監視を続けているのならば、それを止めない限りは、まだ終わっていない…
そういうことだ…
まだ、なにか、あるに違いないと思っているので、葉山は、このコンビニの店長を続けている可能性がある…
そして、それは、葉山ひとりの判断ではないだろう…
葉山の上司を含めた、公安上層部の判断に違いない…
まだ、なにか、火種が残っていると、思っているから、葉山を、このままにして、私、竹下クミを監視しているのだ…
と、ここまで、考えて、気付いた…
葉山と、大場小太郎の関係だ…
葉山と大場小太郎は、同じ公安関係者…
だが、互いが、強力しているかと、いえば、微妙なのではないか?
ふと、気付いた…
これは、あくまで、私の感覚だが、協力しているようには、思えない…
いや、協力しているのならば、さっき、大場敦子が見せた表情…
このコンビニに、入店して、葉山の姿を見つけて、驚かなかったのではないか?
つまり、大場敦子にとって、ここに葉山がいることは、予想外だったのではないか?
それを考えれば、もし仮に、葉山が、公安関係者としても、大場小太郎と、協力はしていないということではないか?
私は、思った…
つまり、それぞれ、別の思惑で、動いている…
そして、その思惑とは、なんだ?
考える…
考えた結果、ひとつの可能性が浮かんだ…
葉山と、大場小太郎の立場の違いだ…
葉山が、もし公安のスパイだとしたら、それは、言葉は悪いが、下っ端…
単純にスパイ=工作員として、自分が探った情報を、上司に送り届けているに過ぎない…
上司に報告しているに過ぎない…
だが、大場小太郎は、どうだろう?
下っ端のはずがない…
自分が、トップか、それに近い位置…
だから、明確に立場が違う…
それに今、大場小太郎は、次期首相の呼び声が高い…
それまでは、派閥の領袖であるにもかかわらず、全国的な知名度は、低かった…
それが、今度の杉崎実業の騒動で、一変した…
たちまち、国会のスターの座に駆け上った…
いわゆる、ヤクザ社会でいう、男を上げたのだ…
だが、だとすれば、どうだ?
大場小太郎にとって、今、一番、大切なのは、なんだ?
確実に、次の首相になることではないのか?
いや、そうに、決まっている…
だとすれば、どうだ?
そこに、公安は、介在しないのではないか?
つまり、公安関係者として、この竹下クミを監視する使命は、存在しないのではないか?
だから、さっき、大場敦子が、葉山の姿を見て、驚いたのではないか?
見知った葉山が、なぜか、この店にいることに、当惑したのではないか?
大場小太郎にとって、もはや、公安うんぬんは、なんの関係もない…
今、必要なのは、確実に、次の首相になるだけだ…
だから、葉山と大場小太郎は、目的が違う…
仮に、今、この竹下クミをどうこうするとしても、目的が違う…
そして、その可能性も否定できない…
もし、私の監視が目的ならば、私を巡って、いずれ騒動が起きるに違いないからだ…
だから、私を監視しているのだ…
と、そこまで、考えて、気付いた…
そして、もし仮に二人が、公安関係者としても、目的が違うのだから、協力しあうどころか、敵対する可能性だって、十分あるに違いない…
それを見越して、あの大場敦子は、驚いたのではないか?
承知!
とっさに、その言葉が、脳裏に浮かんだ…
私の身体の中をアドレナリンが、賭け巡った…
正直、この後、なにが、起きるかわからない…
ただ、私も想像もしていなかったことが、起きるかもしれない…
いや、私など、想像もできないことが、起きるに決まっている…
それを思えば、カラダの中をアドレナリンが駆け巡った…
カーッと、カラダが熱くなった…
…来るならなら来い…
…矢でも鉄砲でも、持ってこい…
なぜか、そんな言葉が、私のカラダの中から、湧いてきた…
血沸き肉躍る…
そんな気分になった…
この平凡な竹下クミにありえない反応だった…
自分でも驚いた…
が、
その理由はわかった…
むしゃくしゃしていたからだ…
今の私は、八方塞がり…
就活もダメ!
来年の今頃、どこで、なにをしているのかも、わからない…
それが、この状況に置かれたことで、ありえない未来を見ることができるかもしれない…
経験したことのない、出来事を経験する可能性が高い…
それは、まるで、これまで、見たことのないドラマや映画を見るようなもの…
現実が、八方塞がりの私は、なんでもいいから、刺激が欲しい…
滅茶苦茶楽しんで、今の状況を一時でも、忘れたい…
自分で言うのも、なんだが、ひどく危険な精神状態になっていた…
だが、どういう知り合いかは、わからない…
大場小太郎?
とっさに、大場の父親の名前が、脳裏に浮かんだ…
普通に考えれば、大場は、もし、葉山を知っていたとすれば、父親経由…
大場小太郎経由に違いない…
大場が、昔、どこかで、バイトして、そこの従業員か、店長に、偶然、葉山がいて、知り合った…
そんな可能性もないではないが、大場は、あの大場小太郎の娘…
どうしても、父親経由の知り合いに違いないと、考えてしまう…
すると、以前、葉山が言った言葉を思い出した…
あの高雄組組長がスーツ姿で、初めて、この店にやって来たときに、
「…あのひと、堅気じゃないね…」
と、即座に見抜いた…
だが、何度も言うように、高雄組組長は、長身で、スーツの似合うサラリーマンにしか見えない…
しかも、その印象は誰が見ても、お堅いサラリーマン…
銀行員か、なにか、だ…
私は、驚いて、
「…どうして、そんなことが、わかるんですか?…」
と、聞くと、
「…ボクは、以前、別の店で働いていたとき、近くにヤクザの事務所があって、ボクのいた店にも、お客様として、出入りしていたから、彼らが、どんな格好をしようと、匂いで、わかるんだ…」
と、説明した…
私は、そのときは、そんなものかと、考えたが、今、もしも、葉山と大場が知り合いだったとしたら、見方が違ってくる…
葉山は、以前、勤務した店が、ヤクザの事務所の近くだと、私に言った…
そして、大場の父親…
あの大場小太郎は、父親が、同じ政治家で、国家公安委員長を歴任して、しかも、山田会の亡くなった古賀会長や、稲葉五郎、高雄組組長と親しくしていた…
彼らを監視するためだ…
公安関係者として、彼らを監視するためだ…
公安は、身分を隠して、いわゆるヤクザや、宗教団体等に、スパイを送り込んで、日々、彼らを監視しているのは、よく知られたことだ…
あのオウム事件が起きたとき、一番困ったのは、オウムに警察も公安も、どちらもスパイを潜入させていなかったことだ…
だから、彼らの動静を掴めなかった…
事前に掴めていたら、あんなことは、起きなかったに違いないと、言われている…
もしかしたら、葉山は、公安関係者?
ふと、気付いた…
葉山が以前、漏らした、前に、いた店の近くに、ヤクザ事務所があったというのは、偶然ではないのかもしれない…
葉山が勤務した店の近くに、偶然、ヤクザ事務所があったのではなく、ヤクザ事務所を監視するために、ヤクザ事務所の近くにある店に、勤務したのではないか?
彼らを監視するためだ…
つまり、大場の父親も、この葉山も、もしかしたら、公安関係者という、接点というか、繋がりがある…
私は、気付いた…
と、そこまで、考えて、思い出した…
そもそも、この葉山は、最初、私が、このコンビニで働き出したときに、店長ではなかった…
別の人間が、店長だった…
どうしてだか、わからないが、ある日、突然、店長が変わったのだ…
このコンビニは、オーナー店…
コンビニを運営する会社が、直接経営する、直営店ではない…
もっと、詳しく説明すると、例えば、ローソンが、直接経営する店が、直営店で、そこの店長は、ローソンの社員だ…
だが、普通のコンビニは、大半は、オーナー店…
例えば、鈴木さんや高橋さんが、経営している…
少し、話は、それたが、そういうことだ…
つまり、葉山は、最初から、この店の店長ではなかった…
この店は、オーナー店だから、私は、そんなこと、気にもしなかった…
店長といっても、雇われ店長に過ぎない…
だから、店長が、代わっても、気にもしなかった…
だが、もし、そこに意味があったとしたら、どうだ?
店長が代わる意味があったとしたら、どうだ?
意味=目的があったとしたら、どうだ?
私は、考えた…
そして、ふいに、その答えが閃いた…
そんなことは、ありえないが、私を監視するのが、目的だとしたら?
私を監視するために、葉山は、私がバイトをする、このコンビニの店長になった…
あるいは、公安が、私を監視するために、葉山を送り込んだ?
こう考えるのは、考え過ぎか?
妄想のし過ぎか?
考えた…
だが、その可能性は、排除できない…
冷静に考えれば、その可能性は排除できないどころか、大ありだ…
なぜなら、私を巡って、あの稲葉五郎を始め、高雄組組長、松尾会会長、そして、大場小太郎と、大物ヤクザ、大物政治家が、連なっている…
まさに壮観というか、華麗だ…
業界は違うが、日本中に名の知れた大物が、私に関心を示している…
この平凡な竹下クミに関心を示している…
これは、一体どういうことだ?
考える…
あの亡くなった山田会の古賀会長の血筋を引く者だからか?
私は、思った…
いや、違う…
そうではない!
私は、考える…
思い直す…
おそらく、私も知らない、私になにか、あるに違いない…
この竹下クミも知らない、なにかが、私にあるに違いない…
それは、この前、林も指摘した…
と、ここまで、考えて、気付いた…
稲葉五郎のこと、をだ…
稲葉五郎は、まもなく、山田会の会長に就任する…
つまりは、山田会のナンバーワン…
トップになるのだ…
となると、どうだ?
私は、必要ない!
すでに、山田会のトップが決まった稲葉五郎に、私は必要ない…
だから、稲葉五郎が、今後、私の前に姿を現すことは、ないに違いない…
いや、
違う…
そうではない!
仮に、私が、山田会の古賀会長の血筋を引く者だとしても、一体全体、稲葉五郎が、山田会の会長に就任するに、あたって、なんの役に立った?…
例えば、稲葉五郎が、私を山田会の幹部の前に連れて行って、
「…古賀会長の血筋を引く、お嬢さんだ…今度、オレが、山田会を率いるにあたって、微力ながら、力を貸してくれるそうだ…」
と、なんとか、言うのならば、わかる…
私になんの力もないが、山田会の古賀会長の血筋を引く者が、味方になってくれることを、幹部たちにアピールするためだ…
しかし、当然のことながら、そんなことは、なかった…
だから、もしかしたら、山田会の幹部連中に、稲葉五郎が、
「…古賀会長の血筋を引くお嬢さんが、オレの味方になってくれる…」
なんてことは、一言も言わなかったのではないか?
そもそも、私が古賀会長の血筋を引く者という話も、もしかしたら、ブラフ…
ブラフ=ハッタリの可能性もある…
いや、
ハッタリ=ウソの可能性が高い…
だが、だとしたら、一体、私は、なんだ?
竹下クミは、なんだ?
なんの利用価値がある?
考える…
いずれにしろ、私は、持ち上げられてる…
大切にされてる…
それは、事実…
間違いのない事実だ…
さらに、気付いたことがある…
稲葉五郎VS、その他の構図だ…
以前も言ったが、高雄組組長、松尾会会長、大場小太郎は、一度も稲葉五郎と同席していない…
高雄組組長も、松尾会会長も、
「…次の山田会会長は、五郎です…」
と、言いながら、その席に稲葉五郎はいない…
つまり、他の3人は、稲葉五郎と対立している?
いや、
対立は、していないかもしれないが、少なくとも、協調はしていないに違いない…
つまりは、
「…次の山田会会長は、五郎です…」
と、口にはしているが、その実、面白くないのではないか?
だから、同席していない…
いや、同席どころか、稲葉五郎は、個別にでも、あの3人の誰ともいっしょにいない…
いたことがない…
これは、一体なにを意味するのか?
普通に考えれば、やはり、対立していると、考えるのが、正しいのではないか?
そして、稲葉五郎は、あの3人の妨害をはねつけて、山田会の会長に就任が決まったと考えるのが、正しいのではないか?
つまりは、あの3人は、当初から、稲葉五郎の山田会会長就任を邪魔したかったのではないか?
私は、考える…
と、ここまで、考えて、気付いた…
だが、今現在も、葉山は、このコンビニの店長を続けている…
大場もまた、今、私を誘っている…
つまりは、終わってない!
終わってないということだ…
おそらく、稲葉五郎が正式に山田会の会長に就任するまでは、終わらない…
決着がつかないのではないか?
あるいは、稲葉五郎が、他の3人を完膚なきまでに、叩き潰さねば、決着がつかないのではないか?
そう気付いた…
つまりは、仮に、稲葉五郎が、山田会の会長に就任しても、まだ、終わりではない…
それをいえば、大場小太郎も同じ…
仮に、日本の総理大臣に就任しても、終わりではないのかもしれない…
そして、終わりではないと言うのは、どういう意味か?
それは、要するに、火種が残っているということ…
騒動の火種が残っていることに、他ならないのではないか?
だから、仮に、稲葉五郎が、山田会の会長に就任しても、騒動の火種が、残ったままでは、困る…
つまり、敵対する勢力…高雄組組長や松尾会会長、そして、大場小太郎を完膚なきまでに、叩き潰さなければ、ならない…
これは、また、大場小太郎も同じ…
今現在、勝ち組の大場小太郎も、もし、稲葉五郎との間に、埋めがたい確執があるのならば、それを埋めるか?
あるいは、稲葉五郎を完膚なきまでに、叩き潰さなければ、ならない…
そういうことだ…
私は、思った…
つまり、まだ、勝負はついていない…
決着は、付いていない…
それは、葉山が、このコンビニを去らない限り、決着が付いたことにならないのではないか?
もし、葉山が、私の予想通り、公安のスパイとして、このコンビニの雇われ店長に就いたのならば、騒動が終わらない限り、このコンビニの雇われ店長を続けているに、違いない…
つまりは、終わってない…
もしも、私の予想通り、葉山が公安のスパイとして、このコンビニに潜り込み、私の監視を続けているのならば、それを止めない限りは、まだ終わっていない…
そういうことだ…
まだ、なにか、あるに違いないと思っているので、葉山は、このコンビニの店長を続けている可能性がある…
そして、それは、葉山ひとりの判断ではないだろう…
葉山の上司を含めた、公安上層部の判断に違いない…
まだ、なにか、火種が残っていると、思っているから、葉山を、このままにして、私、竹下クミを監視しているのだ…
と、ここまで、考えて、気付いた…
葉山と、大場小太郎の関係だ…
葉山と大場小太郎は、同じ公安関係者…
だが、互いが、強力しているかと、いえば、微妙なのではないか?
ふと、気付いた…
これは、あくまで、私の感覚だが、協力しているようには、思えない…
いや、協力しているのならば、さっき、大場敦子が見せた表情…
このコンビニに、入店して、葉山の姿を見つけて、驚かなかったのではないか?
つまり、大場敦子にとって、ここに葉山がいることは、予想外だったのではないか?
それを考えれば、もし仮に、葉山が、公安関係者としても、大場小太郎と、協力はしていないということではないか?
私は、思った…
つまり、それぞれ、別の思惑で、動いている…
そして、その思惑とは、なんだ?
考える…
考えた結果、ひとつの可能性が浮かんだ…
葉山と、大場小太郎の立場の違いだ…
葉山が、もし公安のスパイだとしたら、それは、言葉は悪いが、下っ端…
単純にスパイ=工作員として、自分が探った情報を、上司に送り届けているに過ぎない…
上司に報告しているに過ぎない…
だが、大場小太郎は、どうだろう?
下っ端のはずがない…
自分が、トップか、それに近い位置…
だから、明確に立場が違う…
それに今、大場小太郎は、次期首相の呼び声が高い…
それまでは、派閥の領袖であるにもかかわらず、全国的な知名度は、低かった…
それが、今度の杉崎実業の騒動で、一変した…
たちまち、国会のスターの座に駆け上った…
いわゆる、ヤクザ社会でいう、男を上げたのだ…
だが、だとすれば、どうだ?
大場小太郎にとって、今、一番、大切なのは、なんだ?
確実に、次の首相になることではないのか?
いや、そうに、決まっている…
だとすれば、どうだ?
そこに、公安は、介在しないのではないか?
つまり、公安関係者として、この竹下クミを監視する使命は、存在しないのではないか?
だから、さっき、大場敦子が、葉山の姿を見て、驚いたのではないか?
見知った葉山が、なぜか、この店にいることに、当惑したのではないか?
大場小太郎にとって、もはや、公安うんぬんは、なんの関係もない…
今、必要なのは、確実に、次の首相になるだけだ…
だから、葉山と大場小太郎は、目的が違う…
仮に、今、この竹下クミをどうこうするとしても、目的が違う…
そして、その可能性も否定できない…
もし、私の監視が目的ならば、私を巡って、いずれ騒動が起きるに違いないからだ…
だから、私を監視しているのだ…
と、そこまで、考えて、気付いた…
そして、もし仮に二人が、公安関係者としても、目的が違うのだから、協力しあうどころか、敵対する可能性だって、十分あるに違いない…
それを見越して、あの大場敦子は、驚いたのではないか?
承知!
とっさに、その言葉が、脳裏に浮かんだ…
私の身体の中をアドレナリンが、賭け巡った…
正直、この後、なにが、起きるかわからない…
ただ、私も想像もしていなかったことが、起きるかもしれない…
いや、私など、想像もできないことが、起きるに決まっている…
それを思えば、カラダの中をアドレナリンが駆け巡った…
カーッと、カラダが熱くなった…
…来るならなら来い…
…矢でも鉄砲でも、持ってこい…
なぜか、そんな言葉が、私のカラダの中から、湧いてきた…
血沸き肉躍る…
そんな気分になった…
この平凡な竹下クミにありえない反応だった…
自分でも驚いた…
が、
その理由はわかった…
むしゃくしゃしていたからだ…
今の私は、八方塞がり…
就活もダメ!
来年の今頃、どこで、なにをしているのかも、わからない…
それが、この状況に置かれたことで、ありえない未来を見ることができるかもしれない…
経験したことのない、出来事を経験する可能性が高い…
それは、まるで、これまで、見たことのないドラマや映画を見るようなもの…
現実が、八方塞がりの私は、なんでもいいから、刺激が欲しい…
滅茶苦茶楽しんで、今の状況を一時でも、忘れたい…
自分で言うのも、なんだが、ひどく危険な精神状態になっていた…