第9話
文字数 5,466文字
…面白い…
…実に、面白い…
私は、思った。
高雄には、悪いが、実に、面白い…
だって、そうだろう…
自分が、五人の中から、結婚相手を選ぶというのに、その中の一人は、真逆に、高雄に選ばれたフリをして、実は、高雄をあらかじめ、狙っていた…
まさに、推理小説を地で行く展開だからだ…
これが、面白くなくて、どうする?
そう考えると、私は、ワクワクした…
血沸き肉躍るという言葉があるが、まさにそれだった…
実のところ、前にも言ったが、私は、暴力が苦手…
ヤンキーもヤクザも苦手だった…
でも、格闘技は好き…
だが、これは、矛盾しない…
私の中では、矛盾しない(笑)…
って、いうか、野球やサッカーよりも、一対一だから、わかりやすいし、事実、ルールも簡単…
素人でも、わかる…
それが、理由だった(笑)…
特に相撲が好き…
なぜって、誰も口にしないが、相撲は、至って、現代的な競技だと思う。
なぜって、一分も経たないで、勝負がついてるから(笑)…
現代人は、過去に生きた、どの時代の人よりも、忙しい…
変化が激しい…
そのせいだろうか?
例えば、ゴルフは、人気がない…
18ホールも、ダラダラと続けるのを、人が嫌がる…
やるのも、見るのも、疲れるからだ…
先日は、たしか、ヨーロッパの若いプロゴルファーが、半分の9ホールにすればいいと言っていたと、聞いた…
長すぎて、若い年代に、人気がないのを、自覚しているからだ…
私は、ひどく、その意見に納得した。
だから、相撲だ!
一分もしないで、勝負が決まる…
話はそれたが、そういうことだ…
私は、家に戻って、真っ先に、自分が、両親の本当の娘かどうか、聞いた…
当たり前のことだ…
高雄は、あの五人の中で、ヤクザの娘がいるが、それが、養女になっていて、当人にもわからないのでは? と、語った…
だから、とりあえずは、まず、自分の親に、聞くのが、一番だからだ…
もっとも、私にとっては、それは、無駄足というか…
今さらだった…
私が、両親の娘でないはずはないし、なにより、私の家庭は平凡だった…
ザ、平凡だった…
「…なにをバカなことを…」
母が、言った。
「…オマエが、ヤクザの娘のはずがないじゃないか?…」
当たり前のことだった…
父に訊いても、答えは、当然、同じだった…
「…ウチは、みんな親戚を含めて、真面目を絵にかいたような人間ばかりだ…ヤクザなんて、いるはずがない…」
と、怒っていた…
これも、当然の反応だった…
しかし、しかし、だ…
だとすれば、当然、私同様、残りの四人も同じではないのか?
誰もが、自分が、ヤクザの娘であるという自覚がないのではないか?
いや、
あるのかもしれない…
少なくとも、あの大場に至っては、その可能性が高い…
なぜなら、フロント企業という言葉を知っていた…
私を含め、他の4人は、フロント企業という言葉なんて、知らなかった…
私は、思った。
と、言いながらも、一方で、高雄が、ヤクザの息子であることを、私を含め、五人全員が気付いている可能性が高い…
ならば、これはどう説明する?
私は、考える。
やはり、皆、謎がある(笑)…
自分自身をさておいて、皆、怪しい…
現に、あの大場と争った、林という女もまた、気が強そうだった…
なにしろ、あの大場と争うぐらいだ…
気が弱いわけがない(笑)…
私なら、黙って、大場に従う(笑)…
不用意に、敵を作るのは、私の生き方ではない(笑)…
また、残りの二人も、気が強いか否かは、ともかく、頭は良さそうだ…
ヤクザの娘であることを、隠す、隠さないで、二人とも、理路整然と、自分の意見を主張した…
つまり、バカはいないということだ(笑)…
一度会っただけだが、私を除いて、冷静に見ても、高雄にとって、誰を選んでも、ハズレはないと思った…
人間は、一度会えば、大体の能力はわかる…
私は、まだ二十二歳の大学生だが、バイト先で、自分よりも年上の人を見ても、男女を問わず、高卒か、大卒か、なんとなくわかる…
別段、その人間が、どんな学歴か明かさなくても、なんとなくわかる…
どうしてわかるかといえば、やはり、その人間の言動だろう…
こんなことを言うと、差別になるという人間がいるが、歳をとっても、学歴は隠すことができない…
まして、若いコは、余計にわかる…
言動がストレートに、学歴に直結する。
歳を取れば、ある程度ごまかしが効くが、これも、ある程度、接していれば、普通はバレるものだ…
わかりやすく言えば、大学なら、早慶レベルか、日大レベルか、Fランレベルか、わかるものだ(笑)…
ただ、それを口にするか否か、だけだ(笑)…
態度に出すか、否か、だけだ(笑)…
私を除いても、あの高雄のお嫁さん候補の4人に、バカはいそうになかった…
仮に、私が男でも、あの4人をお嫁さんにしても、ハズレはないに違いない…
そういう意味では、高雄は、ついている…
自分が、選ぶ女の中にハズレがいない…
これは、ついている…
普通は、自分が、言葉は悪いが、自分勝手にというか、自由に、相手を選ぶものだが、高雄の場合は、制限がある…
つまりは、私を含め、5人の中から、選ばなければならないということだ…
ルックスは、皆、似通っているが、頭もそれなりにある…
性格も大場のように、見るからに、気が強そうな女もいるが、さりとて、大場とて、そんなに性格が悪そうではない…
学歴同様、性格もまた、一度接すれば、大抵はわかるものだ…
長時間接しなくても、この前のように、一時間以上、同じ部屋にいて、話をすれば、なんとなくわかるものだ…
性格に難がある人間は、一時間も話をしていれば、すぐにわかるものだ…
類は友を呼ぶ…
誰もがそうだが、同じような性格の人間同士が集まる…仲良くなる…
その方が、居心地がいいからだ…
会社でも学校でも、似たような性格の人間同士が集まる…
グループを作る。
だから、性格が良さそうな人間は、性格が良さそうな人間と、いっしょにいるし、性格が悪そうな人間は、やはり性格が悪そうな人間と、いっしょにいるものだ…
これは、老若男女を問わない…
そして、誰もが、自分をそれほど、悪い人間とは思わないものだ…
傍から見れば、性格が悪い人間の集まりに見えても、当人たちは、露ほども、そんなことを思っていないフシがある(笑)…
誰もが、そんなものだ(笑)…
私もすでに22歳…
少なくとも、あの内定に集まった私以外の4人を見て、性格がいいか、悪いか、わからないほど、愚かではない…
私は、思った。
翌春、私たち五人は、杉崎実業に入社したと、言いたいところだが、話は、そんなに単純ではない…
私自身は、週3回、近くのコンビニで、バイトしていた…
どうしても、バイトとなると、飲食業が多い…
っていうか、バイトは、皆、接客業になるのが、大半だ…
スーパーや、コンビニ、ファミレスなど、どうしても、学生は、その中からバイト先を選ぶのが、大半だ…
いや、学生だけではない…
主婦も、フリーターも同じだろう…
私自身は、安易というか、家から近いという理由だけで、そのコンビニで、バイトをしていたが、そのときに、偶然、林を見たのだ…
あの大場と、言い争いをした林だ…
私自身は、最初、気付かなかったが、林の方が気付いた。
出会いは、偶然だった…
いや、偶然か、どうかは、わからない…
私は、ただレジを打っていて、お客さんが、偶然、林だったのだ…
林は、私を見て、驚いた。
どこかで、見た顔と思ったのだろう…
どうしても、コンビニの制服を着ていると、一瞬、わからなくなる…
この前、会った時は、私は、黒のリクルートスーツ…
これは、林も同じだった…
だから、一瞬、わからなかった…
これが、真逆に、スーパーでも、コンビニでも、制服を着て、レジを打っている姿しか見ていないと、今度は、街中で、会っても、わからなくなる…
普段着でいる姿を見たことがないからだ…
とにかく、どんな服装をしているのかは、重要だ…
いつも、その姿しか見ていないと、どうしても、戸惑う(笑)…
私と林は、コンビニの店員と、お客さんという関係で、再会した…
私が、ろくに、お客様の顔を見ず、商品をレジ打ちして、
「…1250円です…」
とか、言って、相手が、財布から、お金を出したときに、お互いが、顔を見合わせて、
「…あっ!…」
と、小さく、呟いて、わかった…
なにより、同じ顔とまでは、言わないが、似ている…
身長も、顔も体型も、似たような感じ…
姉妹と言っても、誰も驚かない…
「…ここで、バイトしているんだ…」
林が、小さく、呟いた。
私は、コクンと、首を縦に振って、頷いた…
さすがに、バイト中では、お喋りはできない…
それに、同じ店内に店長もいたのが大きい…
少しの会話ならば、できるが、やはり、それが、ベラベラ喋られては、店長にとっては、たまったものではない…
だから、私自身、バイト中は、友達が、偶然、顔を見せても、あまり話をしなかった…
いや、話をしないのではない…
話はするが、最小限に留めていたのだ…
林もまたバカではない…
当然、そんな私の事情もわかっている…
そのときは、そんな感じで、別れたが、それから、林は、ときどき、店に顔を見せるようになった…
私は、驚いたが、さりとて、無下にもできない…
これから、来年、同じ会社で、働く同僚になるからだ…
なにより、何度も顔を会わせるうちに、次第に会話を重ねてゆき、なんとなく気心も知れてきた…
林自身がまた性格が悪くないこともある…
いや、それを言えば、大場を含め、杉崎実業の内定者五人の女子で、一目見て、性格が悪そうな人間は、誰もいなかった…
私と林は、何度も顔を会わせるうちに、互いのケータイの電話番号を教え、メールアドレスも交換した…
いわば、友達になったのだ…
そのうちに、林が、私に言った。
「…杉崎実業って、この前も話したように、ヤクザのフロント企業の噂があるけど…」
私に訊いた…
私は、コクンと首を縦に振って、頷いた…
ちょうど、そのときは、店内に、お客様は、林しかいなかった…
だから、そんな会話もできたのだ…
「…でも、私は、杉崎実業しか内定をもらってないし、今から、就活をしても、ロクな会社は残ってないし…」
私は言った。
林は、私の言葉に、
「…それは、私も同じ…」
と、小さく答えて、黙った…
それから、少し間を置いて、
「…でも、それは、みんな同じだと思う…」
「…みんな同じ?…」
私は驚いた。
なにに、驚いたかといえば、林がそう言う以上は、林は、私以外の他の3人とも、連絡しあう仲だということだ…
「…他のコに訊いたの?…」
林は、黙って、首を縦に振って、頷いた。
…そうか!…
…そういうことか!…
私は、思った。
おそらく、私を含め、全員が、あの杉崎実業が、ヤクザと関連がある会社であることを、事前に調べている…
掴んでいる…
にも、かかわらず、あの内定式に顔を出したということは、残りの4人も私同様、他社から内定をもらっていないからに違いない…
だから、事前にあの杉崎実業が、一部上場企業にもかかわらず、ヤクザのフロント企業と言う噂があっても、あの内定式に顔を出した…
そう考えれば、納得できる…
誰もが、ヤクザのフロント企業という噂がある企業に入社するのは、嫌だが、他社から内定を得られないのであれば、杉崎実業に入社するしかない…
そういうことだ…
それに、杉崎実業は何度もいうように、一部上場企業…東証一部上場企業だ…
いわば、一流といえば、大げさだが、世間的には、合格…
親も親戚も喜ぶというか、安心できる…
私が、そんなことを、考えていると、
「…竹下さんは、あの会社に来年入る?…」
と、ストレートに、林が訊いた。
私は、無言で、首を縦に振った。
「…他にいい会社が受かれば、いいけど、この時期じゃ、もう厳しいし…」
私の言葉に、林は、
「…」
と、黙った。
言葉が見つからないというか、林もまた、私と、同じ思いだったからに他ならない…
そんな思いで、私と林がいると、他に店内にお客様がやって来たので、私と林は、話を中断した…
そのときは、それだけだった…
が、まもなく私は、林の正体と言うか、実像を知ることになった…
…実に、面白い…
私は、思った。
高雄には、悪いが、実に、面白い…
だって、そうだろう…
自分が、五人の中から、結婚相手を選ぶというのに、その中の一人は、真逆に、高雄に選ばれたフリをして、実は、高雄をあらかじめ、狙っていた…
まさに、推理小説を地で行く展開だからだ…
これが、面白くなくて、どうする?
そう考えると、私は、ワクワクした…
血沸き肉躍るという言葉があるが、まさにそれだった…
実のところ、前にも言ったが、私は、暴力が苦手…
ヤンキーもヤクザも苦手だった…
でも、格闘技は好き…
だが、これは、矛盾しない…
私の中では、矛盾しない(笑)…
って、いうか、野球やサッカーよりも、一対一だから、わかりやすいし、事実、ルールも簡単…
素人でも、わかる…
それが、理由だった(笑)…
特に相撲が好き…
なぜって、誰も口にしないが、相撲は、至って、現代的な競技だと思う。
なぜって、一分も経たないで、勝負がついてるから(笑)…
現代人は、過去に生きた、どの時代の人よりも、忙しい…
変化が激しい…
そのせいだろうか?
例えば、ゴルフは、人気がない…
18ホールも、ダラダラと続けるのを、人が嫌がる…
やるのも、見るのも、疲れるからだ…
先日は、たしか、ヨーロッパの若いプロゴルファーが、半分の9ホールにすればいいと言っていたと、聞いた…
長すぎて、若い年代に、人気がないのを、自覚しているからだ…
私は、ひどく、その意見に納得した。
だから、相撲だ!
一分もしないで、勝負が決まる…
話はそれたが、そういうことだ…
私は、家に戻って、真っ先に、自分が、両親の本当の娘かどうか、聞いた…
当たり前のことだ…
高雄は、あの五人の中で、ヤクザの娘がいるが、それが、養女になっていて、当人にもわからないのでは? と、語った…
だから、とりあえずは、まず、自分の親に、聞くのが、一番だからだ…
もっとも、私にとっては、それは、無駄足というか…
今さらだった…
私が、両親の娘でないはずはないし、なにより、私の家庭は平凡だった…
ザ、平凡だった…
「…なにをバカなことを…」
母が、言った。
「…オマエが、ヤクザの娘のはずがないじゃないか?…」
当たり前のことだった…
父に訊いても、答えは、当然、同じだった…
「…ウチは、みんな親戚を含めて、真面目を絵にかいたような人間ばかりだ…ヤクザなんて、いるはずがない…」
と、怒っていた…
これも、当然の反応だった…
しかし、しかし、だ…
だとすれば、当然、私同様、残りの四人も同じではないのか?
誰もが、自分が、ヤクザの娘であるという自覚がないのではないか?
いや、
あるのかもしれない…
少なくとも、あの大場に至っては、その可能性が高い…
なぜなら、フロント企業という言葉を知っていた…
私を含め、他の4人は、フロント企業という言葉なんて、知らなかった…
私は、思った。
と、言いながらも、一方で、高雄が、ヤクザの息子であることを、私を含め、五人全員が気付いている可能性が高い…
ならば、これはどう説明する?
私は、考える。
やはり、皆、謎がある(笑)…
自分自身をさておいて、皆、怪しい…
現に、あの大場と争った、林という女もまた、気が強そうだった…
なにしろ、あの大場と争うぐらいだ…
気が弱いわけがない(笑)…
私なら、黙って、大場に従う(笑)…
不用意に、敵を作るのは、私の生き方ではない(笑)…
また、残りの二人も、気が強いか否かは、ともかく、頭は良さそうだ…
ヤクザの娘であることを、隠す、隠さないで、二人とも、理路整然と、自分の意見を主張した…
つまり、バカはいないということだ(笑)…
一度会っただけだが、私を除いて、冷静に見ても、高雄にとって、誰を選んでも、ハズレはないと思った…
人間は、一度会えば、大体の能力はわかる…
私は、まだ二十二歳の大学生だが、バイト先で、自分よりも年上の人を見ても、男女を問わず、高卒か、大卒か、なんとなくわかる…
別段、その人間が、どんな学歴か明かさなくても、なんとなくわかる…
どうしてわかるかといえば、やはり、その人間の言動だろう…
こんなことを言うと、差別になるという人間がいるが、歳をとっても、学歴は隠すことができない…
まして、若いコは、余計にわかる…
言動がストレートに、学歴に直結する。
歳を取れば、ある程度ごまかしが効くが、これも、ある程度、接していれば、普通はバレるものだ…
わかりやすく言えば、大学なら、早慶レベルか、日大レベルか、Fランレベルか、わかるものだ(笑)…
ただ、それを口にするか否か、だけだ(笑)…
態度に出すか、否か、だけだ(笑)…
私を除いても、あの高雄のお嫁さん候補の4人に、バカはいそうになかった…
仮に、私が男でも、あの4人をお嫁さんにしても、ハズレはないに違いない…
そういう意味では、高雄は、ついている…
自分が、選ぶ女の中にハズレがいない…
これは、ついている…
普通は、自分が、言葉は悪いが、自分勝手にというか、自由に、相手を選ぶものだが、高雄の場合は、制限がある…
つまりは、私を含め、5人の中から、選ばなければならないということだ…
ルックスは、皆、似通っているが、頭もそれなりにある…
性格も大場のように、見るからに、気が強そうな女もいるが、さりとて、大場とて、そんなに性格が悪そうではない…
学歴同様、性格もまた、一度接すれば、大抵はわかるものだ…
長時間接しなくても、この前のように、一時間以上、同じ部屋にいて、話をすれば、なんとなくわかるものだ…
性格に難がある人間は、一時間も話をしていれば、すぐにわかるものだ…
類は友を呼ぶ…
誰もがそうだが、同じような性格の人間同士が集まる…仲良くなる…
その方が、居心地がいいからだ…
会社でも学校でも、似たような性格の人間同士が集まる…
グループを作る。
だから、性格が良さそうな人間は、性格が良さそうな人間と、いっしょにいるし、性格が悪そうな人間は、やはり性格が悪そうな人間と、いっしょにいるものだ…
これは、老若男女を問わない…
そして、誰もが、自分をそれほど、悪い人間とは思わないものだ…
傍から見れば、性格が悪い人間の集まりに見えても、当人たちは、露ほども、そんなことを思っていないフシがある(笑)…
誰もが、そんなものだ(笑)…
私もすでに22歳…
少なくとも、あの内定に集まった私以外の4人を見て、性格がいいか、悪いか、わからないほど、愚かではない…
私は、思った。
翌春、私たち五人は、杉崎実業に入社したと、言いたいところだが、話は、そんなに単純ではない…
私自身は、週3回、近くのコンビニで、バイトしていた…
どうしても、バイトとなると、飲食業が多い…
っていうか、バイトは、皆、接客業になるのが、大半だ…
スーパーや、コンビニ、ファミレスなど、どうしても、学生は、その中からバイト先を選ぶのが、大半だ…
いや、学生だけではない…
主婦も、フリーターも同じだろう…
私自身は、安易というか、家から近いという理由だけで、そのコンビニで、バイトをしていたが、そのときに、偶然、林を見たのだ…
あの大場と、言い争いをした林だ…
私自身は、最初、気付かなかったが、林の方が気付いた。
出会いは、偶然だった…
いや、偶然か、どうかは、わからない…
私は、ただレジを打っていて、お客さんが、偶然、林だったのだ…
林は、私を見て、驚いた。
どこかで、見た顔と思ったのだろう…
どうしても、コンビニの制服を着ていると、一瞬、わからなくなる…
この前、会った時は、私は、黒のリクルートスーツ…
これは、林も同じだった…
だから、一瞬、わからなかった…
これが、真逆に、スーパーでも、コンビニでも、制服を着て、レジを打っている姿しか見ていないと、今度は、街中で、会っても、わからなくなる…
普段着でいる姿を見たことがないからだ…
とにかく、どんな服装をしているのかは、重要だ…
いつも、その姿しか見ていないと、どうしても、戸惑う(笑)…
私と林は、コンビニの店員と、お客さんという関係で、再会した…
私が、ろくに、お客様の顔を見ず、商品をレジ打ちして、
「…1250円です…」
とか、言って、相手が、財布から、お金を出したときに、お互いが、顔を見合わせて、
「…あっ!…」
と、小さく、呟いて、わかった…
なにより、同じ顔とまでは、言わないが、似ている…
身長も、顔も体型も、似たような感じ…
姉妹と言っても、誰も驚かない…
「…ここで、バイトしているんだ…」
林が、小さく、呟いた。
私は、コクンと、首を縦に振って、頷いた…
さすがに、バイト中では、お喋りはできない…
それに、同じ店内に店長もいたのが大きい…
少しの会話ならば、できるが、やはり、それが、ベラベラ喋られては、店長にとっては、たまったものではない…
だから、私自身、バイト中は、友達が、偶然、顔を見せても、あまり話をしなかった…
いや、話をしないのではない…
話はするが、最小限に留めていたのだ…
林もまたバカではない…
当然、そんな私の事情もわかっている…
そのときは、そんな感じで、別れたが、それから、林は、ときどき、店に顔を見せるようになった…
私は、驚いたが、さりとて、無下にもできない…
これから、来年、同じ会社で、働く同僚になるからだ…
なにより、何度も顔を会わせるうちに、次第に会話を重ねてゆき、なんとなく気心も知れてきた…
林自身がまた性格が悪くないこともある…
いや、それを言えば、大場を含め、杉崎実業の内定者五人の女子で、一目見て、性格が悪そうな人間は、誰もいなかった…
私と林は、何度も顔を会わせるうちに、互いのケータイの電話番号を教え、メールアドレスも交換した…
いわば、友達になったのだ…
そのうちに、林が、私に言った。
「…杉崎実業って、この前も話したように、ヤクザのフロント企業の噂があるけど…」
私に訊いた…
私は、コクンと首を縦に振って、頷いた…
ちょうど、そのときは、店内に、お客様は、林しかいなかった…
だから、そんな会話もできたのだ…
「…でも、私は、杉崎実業しか内定をもらってないし、今から、就活をしても、ロクな会社は残ってないし…」
私は言った。
林は、私の言葉に、
「…それは、私も同じ…」
と、小さく答えて、黙った…
それから、少し間を置いて、
「…でも、それは、みんな同じだと思う…」
「…みんな同じ?…」
私は驚いた。
なにに、驚いたかといえば、林がそう言う以上は、林は、私以外の他の3人とも、連絡しあう仲だということだ…
「…他のコに訊いたの?…」
林は、黙って、首を縦に振って、頷いた。
…そうか!…
…そういうことか!…
私は、思った。
おそらく、私を含め、全員が、あの杉崎実業が、ヤクザと関連がある会社であることを、事前に調べている…
掴んでいる…
にも、かかわらず、あの内定式に顔を出したということは、残りの4人も私同様、他社から内定をもらっていないからに違いない…
だから、事前にあの杉崎実業が、一部上場企業にもかかわらず、ヤクザのフロント企業と言う噂があっても、あの内定式に顔を出した…
そう考えれば、納得できる…
誰もが、ヤクザのフロント企業という噂がある企業に入社するのは、嫌だが、他社から内定を得られないのであれば、杉崎実業に入社するしかない…
そういうことだ…
それに、杉崎実業は何度もいうように、一部上場企業…東証一部上場企業だ…
いわば、一流といえば、大げさだが、世間的には、合格…
親も親戚も喜ぶというか、安心できる…
私が、そんなことを、考えていると、
「…竹下さんは、あの会社に来年入る?…」
と、ストレートに、林が訊いた。
私は、無言で、首を縦に振った。
「…他にいい会社が受かれば、いいけど、この時期じゃ、もう厳しいし…」
私の言葉に、林は、
「…」
と、黙った。
言葉が見つからないというか、林もまた、私と、同じ思いだったからに他ならない…
そんな思いで、私と林がいると、他に店内にお客様がやって来たので、私と林は、話を中断した…
そのときは、それだけだった…
が、まもなく私は、林の正体と言うか、実像を知ることになった…