第81話
文字数 5,279文字
高雄は黙ったままだ…
私は、どうしていいか、わからず、ずっとスマホを握り締めたままだった…
先に、口を開いて、なにか、言った方が負けだ…
なんとなく、そんな気がした…
と、同時に、気付いた…
高雄は、たぶん、大場から、私のスマホの番号を聞いたであろう事実に、だ…
大場は、私のスマホの電話番号を知っている…
だから、大場に訊いたに違いない…
大場と高雄は、ずっと前からの顔見知り…
だから、だ…
同時に、気付いた…
以前、たしか、これと同じことがあったような(笑)…
私が、そんなことを考えていると、
「…それだけじゃ、ありません…」
と、突然、高雄の声がした…
「…それだけじゃない…」
反射的に呟く。
同時に、
…それだけじゃない…
という以上、やはりというか、高雄もまた、私が、亡くなった古賀会長の血筋を受け継ぐものと、誤解していると、確信した…
「…竹下さん…」
「…なんですか?…」
「…ヒントは、山田会というか、古賀会長にあります…」
「…古賀会長に?…」
「…そうです…」
「…それって、どういう意味ですか?…」
「…古賀会長…亡くなった古賀会長の出自です…」
「…出自?…」
「…生まれってことです…」
「…生まれ?…」
「…ハイ…生まれ…竹下さんは、知らないでしょうが、ヤクザは大半が、いわゆる在日の朝鮮系の人間か、部落出身者が、多いです…」
「…それって、どういう…」
「…いわゆる、虐(しいたげ)げられた人たちです…昔は、在日は、公務員にはなれないし、大企業への就職も無理でした…だから、大半が、料理店をやったり、パチンコ屋をしたりしました…いわゆる自営業です…ヤクザもその一つです…要するに職業の、選択肢が少なかったわけです…だから、本名は多くが、金なにがしです…朝鮮系のひとは、名字が金と名のつくひとが、多いからです…だから、日本名に改名しても、金田とか、金井とか、最初に金がつく名字にしました…」
「…」
「…これは、部落出身者も同じです…やはり、朝鮮系の人間同様、職業の選択肢が少なかった…大企業や公職に就くことが難しかった…なにより、貧しかった…だから、学歴もなかった…そんな状況下で、腕っぷしに自信のある人間が、簡単に、出世する方法が、ヤクザになることだったんです…」
高雄が言う…
私は、驚いた…
そんなこと、今まで、考えたことがなかった…
たしかに、言われてみれば、その通りかもしれない…
よく、テレビや新聞やネットで、暴力団の人間が、逮捕されて、例えば、金原なにがしと、名前が書いてあっても、本名は、金なにがしと書いてあるのを、見た覚えがある…
いや、
明らかに見た…
しかし、そのときは、なにも考えなかった…
せいぜいが、芸能人じゃないが、本名で、ヤクザをやると、昔ながらの友人、知人、親戚等に迷惑をかけると困るから、本名を名乗らないのでは? と、考えたぐらいだ…
ネットで、ハンドルネームを名乗るとのいっしょだ(笑)…
しかし、
しかし、だ…
それと、亡くなった山田会の古賀会長と、どういう関係があるんだ…
古賀会長も、朝鮮系のひとだったり、部落出身者だというのか?
私は、気付いた…
「…って、ことは、亡くなった古賀会長も、朝鮮系か、部落出身者ってこと?…」
私は、おずおずと、遠慮がちに、高雄に訊いた…
「…違います…」
高雄が即答する。
「…違う?…」
だったら、どうして、高雄は、今、ヤクザが朝鮮出身者や、部落出身者が多いと、言ったのだろう…
全然、脈絡がないことを言ったのだろう…
私は、考える。
すると、
「…古賀会長は、中国人です…」
と、高雄がいきなり言った…
「…中国人?…」
思わず、私の声が高くなった…
まさか、中国人の名前が、ここで出てくるとは、思わなかった…
そして、気付いた…
あの杉崎実業について、だ…
たしか、あの杉崎実業は、中国政府とも、繋がりがあるようなことを言っていた…
これは、偶然?
いや、
偶然ではあるまい…
「…古賀会長…いや、古賀の爺さんの本名は、宋国民…れっきとした中国人です…」
高雄が断言する。
私は、驚いた…
古賀会長が、中国人だなんて…
しかし、
しかし、だ…
これまで、さんざ、ヤクザは、朝鮮人や部落出身者が大半だと言っていたのだから、今さら驚くことではない…
いや、
いや、
驚くのは、そこではない…
朝鮮系でも、部落出身者でもなく、中国出身者であるということに、だ…
驚くのは、中国出身者であるという事実に、だ…
そして、これは、一体なにを意味するのだろう?
私は、思った…
私は、考えた…
亡くなった古賀会長が、中国人だとして、それが一体、どういう意味があるのだろう…
「…高雄さん…一体、古賀会長が中国人だとして、それが一体なんの意味が?…」
私は聞いた…
亡くなった古賀会長が、中国人だとしても、一体なんの意味があるのだろう?
「…中国コネクション…」
高雄が即答する。
「…中国コネクション?…」
私は、またも、アホみたいに、高雄の言葉を繰り返した…
「…要するに、中国政府から、極秘裏に、工作資金をもらい、それを元手に、山田会の勢力拡大を図ったわけです…」
「…ウソッ!…」
思わず、呟いた…
そんな、他国の暴力団の活動資金を、中国政府が援助していたなんて…
そんなバカなことが?
しかし、一方で、それは、あるかも?
と、思っていたりする。
中国政府に関わらず、合法だろうと、非合法だろうと、他国に、自国の影響力を行使するために、他国で活動する者に、なんらかの援助をすることは、ありえるだろうとも、考える。
現実にすでに故人の柳川組の柳川次郎とかいう在日のヤクザがいて、韓国政府と、繋がっていたという話も、あのあと、ネットで、調べた…
どんな国でも、そうだが、他国で、自国の人間が、活動していて、それが、将来、自国の役に立つと、考えれば、援助するのに、やぶさかではないだろう…
それにしても、死んだ古賀会長が、中国人とは?
あまりにも、意外だった…
私は、驚いた…
声も出なかった…
そして、考えた。
古賀会長が中国人であることに、周囲の人間は気付いていたのだろうか?
いや、
純粋に、中国人ならば、気付いていたに違いない…
どうしても、発音が違うからだ…
英語でも、中国語でも、なんでも、そうだが、幼少時から学べば、大人になっても、ネイティブ並みに、流暢(りゅうちょう)に話せるが、歳をとってからでは、それは、無理…
できない…
大げさに言えば、舌の動きが違うのだ…
だから、私は、
「…亡くなった古賀会長が、中国人ってこと…知ってるひとは、いるの?…」
と、おずおずと聞いた…
どうしても、聞きづらい話だからだ…
「…たぶん、いないと思う…」
高雄が即答した…
「…どうして、いないの?…」
私は、すぐに、聞いた…
中国人ならば、日本人と、発音が違うはずだ…
それが、どうして、わからないのか?
バレないのか?
不思議だった…
「…古賀の爺さんは、戦争で、満州からの引き揚げのひとたちと、いっしょに、幼い頃に、日本にやって来たんだ…」
「…満州からの引き揚げって?…」
「…戦前の日本が、中国の東北部に作った満州国に、日本から、一旗揚げようと思った日本人が、多数移民したんだ…古賀の爺さんの母親だかが、その移民した日本人の家庭にメイドだか、家政婦だかで、雇われていて、古賀の爺さんも、その日本人の家族と、子供の頃から仲が良かったそうだ…子供だから、日本語もすぐに、覚えて…」
…そうか!…
…だから、だから、中国人だと、周囲にバレなかったんだ!…
私は、納得する。
でも、どうして、今さら、そんな話を高雄は、わざわざ私にするんだろう?…
それが、疑問だった…
だが、そんな私の思惑とは、別に、高雄は話を続けた…
「…古賀の爺さんも、ヤクザをやっても、最初の頃は、当然、大物じゃない…ただのチンピラだ…でも、爺さんは、ヤクザの才能が抜きん出ていた…自分で、組を立ち上げて、早くに頭角を現して、ヤクザ社会で、有名になった…そして、有名になれば、さまざまな人間と交流を持つようになる…その中で、偶然、中国系の人間と知り合い、いつのまにか、中国政府と、繋がりができた…」
「…」
「…ヤクザでも、会社でも、なんでも、一番必要なのは、活動資金だ…はっきり言って、金だ…その金を、中国政府から、古賀の爺さんは、引き出して、武器、弾薬を買い漁って、山田会を武装強化した…だから、はっきり言って、山田会は、中国政府の金で、大きくなったようなものだ…」
「…中国政府の金?…」
私は、唖然とした…
言葉もなかった…
まさか、山田会の背後に中国政府がいたなんて?…
考えもしない事態だからだ…
「…そして、たぶん、殺された…」
ポツンと、言った…
「…たぶん、殺された?…」
思わず、大声を出した…
ウソォ?
殺されたなんて?…
「…無論、これは、極秘情報…トップシークレットだ…知ってる人間は、ごく少数…ヤクザ界でも、この情報は、流れていない…」
「…どうして、殺されたの?…いえ、どうして、たぶん、なの?…」
「…証拠がないからだ…爺さんは、死んだが、いきなりだった…だから、どうしても、他殺の疑いが出る…それに…」
「…それになに?…」
「…爺さんの遺体の解剖は、警察が行ったが、真実を言ったか、どうかは、わからない…警察だって、古賀の爺さんの背後に中国政府がいることは、掴んでいるだろうからね…」
「…でも、どうして、殺されたの?…」
「…中国政府と、仲違いしたからだよ…」
「…仲違いって?…」
「…要するに、互いの意見が合わなくなったんだ…だから、殺された…」
私は、高雄の言葉に、
「…」
と、絶句した…
高雄の話は、私の想像をはるかに、超えていた…
そうは、言いながらも、一方で、目まぐるしく、頭を回転させた…
高雄の話を、そのまま、信じるわけには、いかないからだ…
ハッキリ言って、高雄には、毒がある…
毒というと、言い過ぎだが、闇キャラというか、胡散臭いというと、言い過ぎだが、陰の部分がある…
闇の部分がある…
そして、それが、高雄の魅力でもあるのだ…
黙って、高雄の話を聞いていた私だったが、ふと、疑問を思いついた…
私は、すぐざま、それを言った…
「…高雄さん?…」
「…なんですか?…」
「…今、山田会が、大きくなるのに、中国政府から、資金を得て、大きくなったと、おっしゃいましたね…」
「…言いました…」
「…だったら、それに、気付いている同業者の方が、いらっしゃるんじゃないでしょうか? 会社でも、なんでも、いきなり大きくなったり、ヤクザで言えば、先ほど、高雄さんが、おっしゃったように、武器でも、いっぱい買えば、一体その金は、どこから出てきているのか、不思議に思うひともいるはずです…」
私は、断言する。
事実、私の推測に間違いは、ないはずだ…
誰だって、そうだろう?
例えば、どう見ても働いていない人間が、豪勢な生活をしていたとする…
すると、誰もが、一体、その金は、どこから出てくるのだろう? と、考える。
若ければ、別居している両親からの仕送りかなにか?
歳を取っていれば、以前、会社でも経営していて、お金をたくさん持っているのだろう? と、勝手に想像する…
これが、新興暴力団であれば、一体、その豊富な活動資金は、どこから出ているのだろう? と、想像するに決まっている…
「…それは、当然、あります…」
高雄が、言った…
「…だから、大場代議士が、張り付いた…」
「…張り付いた?…」
「…大場代議士は、親が、国家公安委員長とか歴任して、この国のスパイ活動の頂点というか、そっちの方の方面のエキスパートだから…」
高雄が仰天の事実を披露する…
私は、驚いた…
言葉もなく、驚いた…
ただ、ただ、唖然とした…
私は、どうしていいか、わからず、ずっとスマホを握り締めたままだった…
先に、口を開いて、なにか、言った方が負けだ…
なんとなく、そんな気がした…
と、同時に、気付いた…
高雄は、たぶん、大場から、私のスマホの番号を聞いたであろう事実に、だ…
大場は、私のスマホの電話番号を知っている…
だから、大場に訊いたに違いない…
大場と高雄は、ずっと前からの顔見知り…
だから、だ…
同時に、気付いた…
以前、たしか、これと同じことがあったような(笑)…
私が、そんなことを考えていると、
「…それだけじゃ、ありません…」
と、突然、高雄の声がした…
「…それだけじゃない…」
反射的に呟く。
同時に、
…それだけじゃない…
という以上、やはりというか、高雄もまた、私が、亡くなった古賀会長の血筋を受け継ぐものと、誤解していると、確信した…
「…竹下さん…」
「…なんですか?…」
「…ヒントは、山田会というか、古賀会長にあります…」
「…古賀会長に?…」
「…そうです…」
「…それって、どういう意味ですか?…」
「…古賀会長…亡くなった古賀会長の出自です…」
「…出自?…」
「…生まれってことです…」
「…生まれ?…」
「…ハイ…生まれ…竹下さんは、知らないでしょうが、ヤクザは大半が、いわゆる在日の朝鮮系の人間か、部落出身者が、多いです…」
「…それって、どういう…」
「…いわゆる、虐(しいたげ)げられた人たちです…昔は、在日は、公務員にはなれないし、大企業への就職も無理でした…だから、大半が、料理店をやったり、パチンコ屋をしたりしました…いわゆる自営業です…ヤクザもその一つです…要するに職業の、選択肢が少なかったわけです…だから、本名は多くが、金なにがしです…朝鮮系のひとは、名字が金と名のつくひとが、多いからです…だから、日本名に改名しても、金田とか、金井とか、最初に金がつく名字にしました…」
「…」
「…これは、部落出身者も同じです…やはり、朝鮮系の人間同様、職業の選択肢が少なかった…大企業や公職に就くことが難しかった…なにより、貧しかった…だから、学歴もなかった…そんな状況下で、腕っぷしに自信のある人間が、簡単に、出世する方法が、ヤクザになることだったんです…」
高雄が言う…
私は、驚いた…
そんなこと、今まで、考えたことがなかった…
たしかに、言われてみれば、その通りかもしれない…
よく、テレビや新聞やネットで、暴力団の人間が、逮捕されて、例えば、金原なにがしと、名前が書いてあっても、本名は、金なにがしと書いてあるのを、見た覚えがある…
いや、
明らかに見た…
しかし、そのときは、なにも考えなかった…
せいぜいが、芸能人じゃないが、本名で、ヤクザをやると、昔ながらの友人、知人、親戚等に迷惑をかけると困るから、本名を名乗らないのでは? と、考えたぐらいだ…
ネットで、ハンドルネームを名乗るとのいっしょだ(笑)…
しかし、
しかし、だ…
それと、亡くなった山田会の古賀会長と、どういう関係があるんだ…
古賀会長も、朝鮮系のひとだったり、部落出身者だというのか?
私は、気付いた…
「…って、ことは、亡くなった古賀会長も、朝鮮系か、部落出身者ってこと?…」
私は、おずおずと、遠慮がちに、高雄に訊いた…
「…違います…」
高雄が即答する。
「…違う?…」
だったら、どうして、高雄は、今、ヤクザが朝鮮出身者や、部落出身者が多いと、言ったのだろう…
全然、脈絡がないことを言ったのだろう…
私は、考える。
すると、
「…古賀会長は、中国人です…」
と、高雄がいきなり言った…
「…中国人?…」
思わず、私の声が高くなった…
まさか、中国人の名前が、ここで出てくるとは、思わなかった…
そして、気付いた…
あの杉崎実業について、だ…
たしか、あの杉崎実業は、中国政府とも、繋がりがあるようなことを言っていた…
これは、偶然?
いや、
偶然ではあるまい…
「…古賀会長…いや、古賀の爺さんの本名は、宋国民…れっきとした中国人です…」
高雄が断言する。
私は、驚いた…
古賀会長が、中国人だなんて…
しかし、
しかし、だ…
これまで、さんざ、ヤクザは、朝鮮人や部落出身者が大半だと言っていたのだから、今さら驚くことではない…
いや、
いや、
驚くのは、そこではない…
朝鮮系でも、部落出身者でもなく、中国出身者であるということに、だ…
驚くのは、中国出身者であるという事実に、だ…
そして、これは、一体なにを意味するのだろう?
私は、思った…
私は、考えた…
亡くなった古賀会長が、中国人だとして、それが一体、どういう意味があるのだろう…
「…高雄さん…一体、古賀会長が中国人だとして、それが一体なんの意味が?…」
私は聞いた…
亡くなった古賀会長が、中国人だとしても、一体なんの意味があるのだろう?
「…中国コネクション…」
高雄が即答する。
「…中国コネクション?…」
私は、またも、アホみたいに、高雄の言葉を繰り返した…
「…要するに、中国政府から、極秘裏に、工作資金をもらい、それを元手に、山田会の勢力拡大を図ったわけです…」
「…ウソッ!…」
思わず、呟いた…
そんな、他国の暴力団の活動資金を、中国政府が援助していたなんて…
そんなバカなことが?
しかし、一方で、それは、あるかも?
と、思っていたりする。
中国政府に関わらず、合法だろうと、非合法だろうと、他国に、自国の影響力を行使するために、他国で活動する者に、なんらかの援助をすることは、ありえるだろうとも、考える。
現実にすでに故人の柳川組の柳川次郎とかいう在日のヤクザがいて、韓国政府と、繋がっていたという話も、あのあと、ネットで、調べた…
どんな国でも、そうだが、他国で、自国の人間が、活動していて、それが、将来、自国の役に立つと、考えれば、援助するのに、やぶさかではないだろう…
それにしても、死んだ古賀会長が、中国人とは?
あまりにも、意外だった…
私は、驚いた…
声も出なかった…
そして、考えた。
古賀会長が中国人であることに、周囲の人間は気付いていたのだろうか?
いや、
純粋に、中国人ならば、気付いていたに違いない…
どうしても、発音が違うからだ…
英語でも、中国語でも、なんでも、そうだが、幼少時から学べば、大人になっても、ネイティブ並みに、流暢(りゅうちょう)に話せるが、歳をとってからでは、それは、無理…
できない…
大げさに言えば、舌の動きが違うのだ…
だから、私は、
「…亡くなった古賀会長が、中国人ってこと…知ってるひとは、いるの?…」
と、おずおずと聞いた…
どうしても、聞きづらい話だからだ…
「…たぶん、いないと思う…」
高雄が即答した…
「…どうして、いないの?…」
私は、すぐに、聞いた…
中国人ならば、日本人と、発音が違うはずだ…
それが、どうして、わからないのか?
バレないのか?
不思議だった…
「…古賀の爺さんは、戦争で、満州からの引き揚げのひとたちと、いっしょに、幼い頃に、日本にやって来たんだ…」
「…満州からの引き揚げって?…」
「…戦前の日本が、中国の東北部に作った満州国に、日本から、一旗揚げようと思った日本人が、多数移民したんだ…古賀の爺さんの母親だかが、その移民した日本人の家庭にメイドだか、家政婦だかで、雇われていて、古賀の爺さんも、その日本人の家族と、子供の頃から仲が良かったそうだ…子供だから、日本語もすぐに、覚えて…」
…そうか!…
…だから、だから、中国人だと、周囲にバレなかったんだ!…
私は、納得する。
でも、どうして、今さら、そんな話を高雄は、わざわざ私にするんだろう?…
それが、疑問だった…
だが、そんな私の思惑とは、別に、高雄は話を続けた…
「…古賀の爺さんも、ヤクザをやっても、最初の頃は、当然、大物じゃない…ただのチンピラだ…でも、爺さんは、ヤクザの才能が抜きん出ていた…自分で、組を立ち上げて、早くに頭角を現して、ヤクザ社会で、有名になった…そして、有名になれば、さまざまな人間と交流を持つようになる…その中で、偶然、中国系の人間と知り合い、いつのまにか、中国政府と、繋がりができた…」
「…」
「…ヤクザでも、会社でも、なんでも、一番必要なのは、活動資金だ…はっきり言って、金だ…その金を、中国政府から、古賀の爺さんは、引き出して、武器、弾薬を買い漁って、山田会を武装強化した…だから、はっきり言って、山田会は、中国政府の金で、大きくなったようなものだ…」
「…中国政府の金?…」
私は、唖然とした…
言葉もなかった…
まさか、山田会の背後に中国政府がいたなんて?…
考えもしない事態だからだ…
「…そして、たぶん、殺された…」
ポツンと、言った…
「…たぶん、殺された?…」
思わず、大声を出した…
ウソォ?
殺されたなんて?…
「…無論、これは、極秘情報…トップシークレットだ…知ってる人間は、ごく少数…ヤクザ界でも、この情報は、流れていない…」
「…どうして、殺されたの?…いえ、どうして、たぶん、なの?…」
「…証拠がないからだ…爺さんは、死んだが、いきなりだった…だから、どうしても、他殺の疑いが出る…それに…」
「…それになに?…」
「…爺さんの遺体の解剖は、警察が行ったが、真実を言ったか、どうかは、わからない…警察だって、古賀の爺さんの背後に中国政府がいることは、掴んでいるだろうからね…」
「…でも、どうして、殺されたの?…」
「…中国政府と、仲違いしたからだよ…」
「…仲違いって?…」
「…要するに、互いの意見が合わなくなったんだ…だから、殺された…」
私は、高雄の言葉に、
「…」
と、絶句した…
高雄の話は、私の想像をはるかに、超えていた…
そうは、言いながらも、一方で、目まぐるしく、頭を回転させた…
高雄の話を、そのまま、信じるわけには、いかないからだ…
ハッキリ言って、高雄には、毒がある…
毒というと、言い過ぎだが、闇キャラというか、胡散臭いというと、言い過ぎだが、陰の部分がある…
闇の部分がある…
そして、それが、高雄の魅力でもあるのだ…
黙って、高雄の話を聞いていた私だったが、ふと、疑問を思いついた…
私は、すぐざま、それを言った…
「…高雄さん?…」
「…なんですか?…」
「…今、山田会が、大きくなるのに、中国政府から、資金を得て、大きくなったと、おっしゃいましたね…」
「…言いました…」
「…だったら、それに、気付いている同業者の方が、いらっしゃるんじゃないでしょうか? 会社でも、なんでも、いきなり大きくなったり、ヤクザで言えば、先ほど、高雄さんが、おっしゃったように、武器でも、いっぱい買えば、一体その金は、どこから出てきているのか、不思議に思うひともいるはずです…」
私は、断言する。
事実、私の推測に間違いは、ないはずだ…
誰だって、そうだろう?
例えば、どう見ても働いていない人間が、豪勢な生活をしていたとする…
すると、誰もが、一体、その金は、どこから出てくるのだろう? と、考える。
若ければ、別居している両親からの仕送りかなにか?
歳を取っていれば、以前、会社でも経営していて、お金をたくさん持っているのだろう? と、勝手に想像する…
これが、新興暴力団であれば、一体、その豊富な活動資金は、どこから出ているのだろう? と、想像するに決まっている…
「…それは、当然、あります…」
高雄が、言った…
「…だから、大場代議士が、張り付いた…」
「…張り付いた?…」
「…大場代議士は、親が、国家公安委員長とか歴任して、この国のスパイ活動の頂点というか、そっちの方の方面のエキスパートだから…」
高雄が仰天の事実を披露する…
私は、驚いた…
言葉もなく、驚いた…
ただ、ただ、唖然とした…