第121話
文字数 5,009文字
「…竹下さん…今、大場が、どこにいるか、知っている?…」
林から、突然、スマホに、電話があった…
あの、町中華の女将さんの店を訪れた、二日後のことだ…
「…知らない…」
思わず、私は、告げた…
知っているか?
知らないか?
問われれば、知らないから、知らないと、答える…
それだけだ…
しかし、いきなり、林から、電話があったのは、驚いた…
なぜ、林から?
当たり前だが、気になった…
疑問に思った…
だから、
「…そんなことより、林さん…どうして、いきなり、私に、そんなことを?…」
と、聞いた。
私は、大場もそうだが、林とも、親しい間柄ではない…
あくまで、杉崎実業に、内定した5人の中の一人という間柄…
要するに、杉崎実業の内定仲間に過ぎない…
だが、林は、以前、大場とも、繋がっていたことを思い出した…
いや、
大場だけではない…
高雄悠(ゆう)とも、繋がっていた…
つまり、最初から、高雄悠(ゆう)、大場、そして、この林の3人が、グルだったのだ…
あらためて、それを思い出した…
「…大場のお母さんから、電話があったの?…」
「…大場さんのお母さんから?…」
私は、ビックリした…
林は、大場の母親とも、知り合いだったのか? と、思った…
だから、
「…知り合いなの?…」
と、つい、聞いた…
「…全然…」
林が、即答する。
「…大場の自分の部屋の机の中に、私とか、竹下さんの、電話番号が、メモ書きで、残っていて、私は、ほら、お父さんが、色々やらかしているから…大場の母親もなんとなく、その話を大場から、聞いていたらしくて…」
林が、曖昧にぼかす…
要するに、今回、杉崎実業が、中国に製品を不正輸出した件で、林の父親が、それに一枚加わり、儲けようとした…
それが、捜査の過程で明るみになり、林の父親は、逮捕…
その一部始終を、大場は、自分の母親に話していたに、違いない…
さすがに、大物政治家の娘…
やることが、エグいというか…
抜け目がない(笑)…
自分の行動を逐一、母親に報告していたに違いない…
「…それで、大場さん、どうしたの?…」
「…それが、いなくなっちゃったの?…」
「…いなくなった?…」
私は、思わず、大声を出した…
「…いなくなったって?…」
「…要するに、失踪というか…連絡がつかない状況らしい…」
林が、言った…
「…それで、大場のお母さん、パニクっちゃって…」
林が、ため息交じりに呟く…
無理もない…
私は、思った…
大場の母親から、したら、夫は、刺され、入院中…
その上、娘まで、行方不明で、連絡がつかない状態ならば、パニックになっても、おかしくはない…
「…それで、どこに行ったか…目星というか、当てはないの?」
私は、聞いた…
私の質問に、林は、
「…」
と、沈黙した…
答えなかった…
まるで、ケータイが、突然、故障したように、声が聞こえてこなかった…
だから、
「…もしもし、聞いてる?…」
と、言った…
「…聞いてるわ…」
林が、即答する。
「…どこに、行ったか、当てはないの?…」
もう一度、繰り返した…
すると、今度は、
「…高雄…高雄悠(ゆう)さんのところじゃないかって…」
と、林が、小さく言った…
「…高雄…悠(ゆう)さん?…」
私は、またも、大声を出した…
そして、考えた…
これは、焦る…
焦るに決まっている…
自分の父親を刺した相手の元に、娘がいるかもしれないと、考えれば、母親も焦るのは、わかる…
だから、大場の机の中にあったメモの電話番号に、電話をしたのだろう…
いくら、母親と仲が良くても、友人の電話番号まで、教えている可能性は低い…
大場の母親は、娘が、高雄悠(ゆう)と、いっしょにいるかもしれないと、思ったから、余計に、パニックになったのかもしれない…
余計に、焦ったのかもしれない…
しかし、
しかし、だ…
大場の母親は、そう思うというか、確信するなにかが、あったのだろうか?
私は、思った…
大場が、高雄悠(ゆう)に呼び出された…
決定的な証拠があったのだろうか?
私は、考える。
「…どうして、大場さんのお母さんは、高雄悠(ゆう)さんと、大場さんが、いっしょにいると、思ったんだろう?…」
「…それは、私に聞かれても、わからないけど…たぶん…」
「…たぶん、なに?…」
「…大場が言ったんじゃないの? 高雄悠(ゆう)さんから、連絡があって、これから、会いに行くとか…」
そんなにストレートに言うだろうか?
「…それとも、もしかしたら…」
「…もしかしたら、なに?…」
「…大場が怒って、どっかに行ったのかも…」
「…それって、どういう…」
「…鈍いな…大場の父親は、高雄悠(ゆう)さんに刺されたでしょ? その高雄さんから、連絡があれば、どうして、そんなことをしたんだと、問い詰めたくなるし、最悪、復讐したくなるかもしれない…その姿を母親に限らず、誰かがが見れば、絶対大場は怒ってるでしょ?…」
…たしかに言われてみれば、それはわかる…
だが、復讐って?…
私はつい、それを口に出した…
「…復讐って?…」
「…だって、父親が刺されたんだよ…復讐したくなって、当然…」
私は、林の言葉に、
「…」
と、絶句した…
林がいきなり、私に電話をかけてきたのも、驚いたが、それよりなにより、大場が失踪して、こともあろうに、高雄悠(ゆう)に、復讐のために、姿をくらましたというのは、驚きだったし、はっきり言えば、私の理解の外にあった…
理解の範疇を超えていた…
だが、少し考えれば、その可能性は高い…
いくらなんでも、父親が刺されて、入院しているのに、どこかに出かけて、連絡がつかないなんて、おかしい…
普通に考えれば、なにかあったに決まっている…
そして、そのなにかとは、大場が、高雄と会っている可能性が高いということだ…
大場は、父親の大場代議士が、その父、つまり、大場にとっては、祖父=おじいちゃんが、国家公安委員長を務めた経験から、ヤクザ界の人間と、親しく接するようになった…
彼らの動静を見張るためだ…
その縁から、大場もまた、高雄悠(ゆう)と、子供のころから、知り合った…
いわば、二人は、幼馴染(おさななじみ)
…
だから、ある意味、普通の関係ではない…
普通の関係というのは、見知らぬ他人同士の関係ではないということだ…
たしかに、父親を刺した憎い相手だろうが、それが、幼馴染(おさななじみ)で、しかも、恋人同士だったら、正直、どうしていいか、わからない…
どう反応していいか、わからない…
怒っていいのか?
泣いていいのか?
どうして、いいか、わからない…
どう対処していいかわからない…
だから、私は、
「…」
と、黙った…
なにを、どう話していいか、わからなかったからだ…
それを察したのか?
それとも、すでに、話す話題が尽きたのか?
「…なにか、わかったら、連絡して…」
と、言うなり、プチっと、いきなり、電話を切った…
私は、いきなり、電話を切られたから、唖然とした…
…なんて、わがままな!…
自分の聞きたいことだけ、聞いて、聞き終わると、一方的に、電話を切るなんて、と、憤慨したが、一方で、それもありかな、とも思った…
林と話しても、これ以上、話がなかったからだ…
林は、大場以上に、私と疎遠だった…
互いに、杉崎実業の内定をもらった仲だが、まだ大場との方が、接点があった…
だから、冷静に考えれば、これで、よかったとも、思った…
しかし、大場が、失踪中とは?
まさにあり得ない展開だった…
もし、
もし、
大場が、高雄悠(ゆう)と、いっしょにいるとすれば、一体全体、どんな話をしたのだろう?
正直、気になる…
いや、
気にならないはずがない…
私は、考える…
が、いつまでも、考えているわけには、いかなかった…
バイトの時間が迫っていたのだ…
就職が、未定というか、杉崎実業への就職が、ほぼなくなったと、思われる今、私の生命線というと、おおげさだが、収入源は、ただ一つ…
コンビニのバイトだけだ…
あのバイトだけが、私の唯一の収入源…
だから、今、それを失うわけには、いかない…
だから、私は、いつまでも、林からの電話の内容を考えているわけには、いかなかった…
バイト先のコンビニは、自宅近く…
歩いて、5分強…
10分もかからない…
いや、
10分もかかれば、自宅近くとは、言わないだろう…
私は、いつもの、Tシャツに、デニムのジーンズ姿で、家を出た…
これが、この竹下クミの正装というと、大げさだが、普段の姿…
率直に言って、飾り気もなにもない…
色気もなにもない…
おまけに、化粧もしない(笑)…
完全に、スッピンだ…
私のこの姿は、自分で言うのも、おかしいが、完全にお子様…
あの森七菜には、遠く及ばないが、やはりお子様だ…
明らかに、実年齢以上に、幼く見える…
これは、私の格好が、おかしいのだろうか?
だから、実年齢以上に、幼く見えるのだろうか?
以前、悩んだことがある…
Tシャツに、ジーンズという格好が、色気がなく、おかしいのだろうか?
悩んだことがある…
だが、
違った…
それが、わかったのは、以前…ずっと以前、中学時代の同級生が、私のバイトするコンビニに、やってきたことがあったときだ…
やはり、その同級生は、今の私と、同じく、Tシャツに、ジーンズ、それにスニーカーという飾り気が、なにもない恰好…
私と同じ格好だった…
しかも、ノーメイク…
これも、同じだった…
しかし、
しかし、だ…
その同級生は、色気ムンムンだった…
身長が、168センチぐらいで、ナイスバディの持ち主…
胸もお尻も大きく、しかも、美形だった…
このまま、そのTシャツとジーンズを脱いで、いきなり水着姿になって、撮影会に参加してもおかしくはない…
そう思わせるほど、だった…
片や、私…
たぶん、その同級生に負けじと脱いでも、おそらく、誰も注目しない…
まったくのお子様だった(涙)…
おそらく、中学生が水着になったぐらいのインパクトしか、なかっただろう(涙)…
私は、身長が、160㎝…
決して、小さくはない…
だが、そうだった…
お子様だった…
片や、色気ムンムンのお姉さん…
片や、中学生と間違われるお子様…
すでに、勝負は見えた…
いや、
勝負になっていなかった…
つくづく、人間は生まれつき、差があると、思った瞬間だった…
中学時代から、その同級生は、背が高かったが、大学生になって、それにナイスバディと、色気が加わっていた…
だが、同じ年齢でも、私に色気が加わることは、なかった…
なかったのだ(涙)…
ちなみに、その同級生は、真面目で、勉強もできた…
性格も良かった…
そして、美形…
さらに、ナイスバディと、色気が加わったのだ…
思えば、つくづく、人間は、平等ではない…
生まれつき、いかんともしがたい差があると、思わせる出来事だった…
私は、いつのまにか、林のことも、大場のことも、そして、高雄悠(ゆう)のことも忘れて、その同級生のことを、考えていた…
その同級生に恨みはない…
恨みは、ないが、差があった…
埋めがたい差があった(涙)…
そんなことを、考えながら、私は、バイトするコンビニに、急いだ…
すると、偶然、コンビニの駐車場に、どこかで、見たような黒く大きな外車が、止まっていたのを、見た…
…以前、どこかで、見たような?…
私は、首をひねった…
しかし、思い出せない…
…たしかに、どこかで、見た覚えがある!…
だが、一向に、思い出せなかった…
だから、私は、そんなことを考えるのを止めて、コンビニに入った…
「…おはようございます…」
挨拶して、コンビニの店内に入る…
すると、店の中にいた、スーツをバリッと着込んだ長身のサラリーマンの男が、私を振り返るのが、わかった…
明らかに、首を動かして、私を見た…
それに気づいた、私もその男を見る…
私は、その男の顔に、見覚えがあった…
いや、
見覚えどころか、因縁の相手といっては、大げさだが、その男の息子が、今、大場敦子と、失踪していると、さっき、林から電話があったばかりだ…
私は、驚いて、その男…
高雄組組長を、見た…
林から、突然、スマホに、電話があった…
あの、町中華の女将さんの店を訪れた、二日後のことだ…
「…知らない…」
思わず、私は、告げた…
知っているか?
知らないか?
問われれば、知らないから、知らないと、答える…
それだけだ…
しかし、いきなり、林から、電話があったのは、驚いた…
なぜ、林から?
当たり前だが、気になった…
疑問に思った…
だから、
「…そんなことより、林さん…どうして、いきなり、私に、そんなことを?…」
と、聞いた。
私は、大場もそうだが、林とも、親しい間柄ではない…
あくまで、杉崎実業に、内定した5人の中の一人という間柄…
要するに、杉崎実業の内定仲間に過ぎない…
だが、林は、以前、大場とも、繋がっていたことを思い出した…
いや、
大場だけではない…
高雄悠(ゆう)とも、繋がっていた…
つまり、最初から、高雄悠(ゆう)、大場、そして、この林の3人が、グルだったのだ…
あらためて、それを思い出した…
「…大場のお母さんから、電話があったの?…」
「…大場さんのお母さんから?…」
私は、ビックリした…
林は、大場の母親とも、知り合いだったのか? と、思った…
だから、
「…知り合いなの?…」
と、つい、聞いた…
「…全然…」
林が、即答する。
「…大場の自分の部屋の机の中に、私とか、竹下さんの、電話番号が、メモ書きで、残っていて、私は、ほら、お父さんが、色々やらかしているから…大場の母親もなんとなく、その話を大場から、聞いていたらしくて…」
林が、曖昧にぼかす…
要するに、今回、杉崎実業が、中国に製品を不正輸出した件で、林の父親が、それに一枚加わり、儲けようとした…
それが、捜査の過程で明るみになり、林の父親は、逮捕…
その一部始終を、大場は、自分の母親に話していたに、違いない…
さすがに、大物政治家の娘…
やることが、エグいというか…
抜け目がない(笑)…
自分の行動を逐一、母親に報告していたに違いない…
「…それで、大場さん、どうしたの?…」
「…それが、いなくなっちゃったの?…」
「…いなくなった?…」
私は、思わず、大声を出した…
「…いなくなったって?…」
「…要するに、失踪というか…連絡がつかない状況らしい…」
林が、言った…
「…それで、大場のお母さん、パニクっちゃって…」
林が、ため息交じりに呟く…
無理もない…
私は、思った…
大場の母親から、したら、夫は、刺され、入院中…
その上、娘まで、行方不明で、連絡がつかない状態ならば、パニックになっても、おかしくはない…
「…それで、どこに行ったか…目星というか、当てはないの?」
私は、聞いた…
私の質問に、林は、
「…」
と、沈黙した…
答えなかった…
まるで、ケータイが、突然、故障したように、声が聞こえてこなかった…
だから、
「…もしもし、聞いてる?…」
と、言った…
「…聞いてるわ…」
林が、即答する。
「…どこに、行ったか、当てはないの?…」
もう一度、繰り返した…
すると、今度は、
「…高雄…高雄悠(ゆう)さんのところじゃないかって…」
と、林が、小さく言った…
「…高雄…悠(ゆう)さん?…」
私は、またも、大声を出した…
そして、考えた…
これは、焦る…
焦るに決まっている…
自分の父親を刺した相手の元に、娘がいるかもしれないと、考えれば、母親も焦るのは、わかる…
だから、大場の机の中にあったメモの電話番号に、電話をしたのだろう…
いくら、母親と仲が良くても、友人の電話番号まで、教えている可能性は低い…
大場の母親は、娘が、高雄悠(ゆう)と、いっしょにいるかもしれないと、思ったから、余計に、パニックになったのかもしれない…
余計に、焦ったのかもしれない…
しかし、
しかし、だ…
大場の母親は、そう思うというか、確信するなにかが、あったのだろうか?
私は、思った…
大場が、高雄悠(ゆう)に呼び出された…
決定的な証拠があったのだろうか?
私は、考える。
「…どうして、大場さんのお母さんは、高雄悠(ゆう)さんと、大場さんが、いっしょにいると、思ったんだろう?…」
「…それは、私に聞かれても、わからないけど…たぶん…」
「…たぶん、なに?…」
「…大場が言ったんじゃないの? 高雄悠(ゆう)さんから、連絡があって、これから、会いに行くとか…」
そんなにストレートに言うだろうか?
「…それとも、もしかしたら…」
「…もしかしたら、なに?…」
「…大場が怒って、どっかに行ったのかも…」
「…それって、どういう…」
「…鈍いな…大場の父親は、高雄悠(ゆう)さんに刺されたでしょ? その高雄さんから、連絡があれば、どうして、そんなことをしたんだと、問い詰めたくなるし、最悪、復讐したくなるかもしれない…その姿を母親に限らず、誰かがが見れば、絶対大場は怒ってるでしょ?…」
…たしかに言われてみれば、それはわかる…
だが、復讐って?…
私はつい、それを口に出した…
「…復讐って?…」
「…だって、父親が刺されたんだよ…復讐したくなって、当然…」
私は、林の言葉に、
「…」
と、絶句した…
林がいきなり、私に電話をかけてきたのも、驚いたが、それよりなにより、大場が失踪して、こともあろうに、高雄悠(ゆう)に、復讐のために、姿をくらましたというのは、驚きだったし、はっきり言えば、私の理解の外にあった…
理解の範疇を超えていた…
だが、少し考えれば、その可能性は高い…
いくらなんでも、父親が刺されて、入院しているのに、どこかに出かけて、連絡がつかないなんて、おかしい…
普通に考えれば、なにかあったに決まっている…
そして、そのなにかとは、大場が、高雄と会っている可能性が高いということだ…
大場は、父親の大場代議士が、その父、つまり、大場にとっては、祖父=おじいちゃんが、国家公安委員長を務めた経験から、ヤクザ界の人間と、親しく接するようになった…
彼らの動静を見張るためだ…
その縁から、大場もまた、高雄悠(ゆう)と、子供のころから、知り合った…
いわば、二人は、幼馴染(おさななじみ)
…
だから、ある意味、普通の関係ではない…
普通の関係というのは、見知らぬ他人同士の関係ではないということだ…
たしかに、父親を刺した憎い相手だろうが、それが、幼馴染(おさななじみ)で、しかも、恋人同士だったら、正直、どうしていいか、わからない…
どう反応していいか、わからない…
怒っていいのか?
泣いていいのか?
どうして、いいか、わからない…
どう対処していいかわからない…
だから、私は、
「…」
と、黙った…
なにを、どう話していいか、わからなかったからだ…
それを察したのか?
それとも、すでに、話す話題が尽きたのか?
「…なにか、わかったら、連絡して…」
と、言うなり、プチっと、いきなり、電話を切った…
私は、いきなり、電話を切られたから、唖然とした…
…なんて、わがままな!…
自分の聞きたいことだけ、聞いて、聞き終わると、一方的に、電話を切るなんて、と、憤慨したが、一方で、それもありかな、とも思った…
林と話しても、これ以上、話がなかったからだ…
林は、大場以上に、私と疎遠だった…
互いに、杉崎実業の内定をもらった仲だが、まだ大場との方が、接点があった…
だから、冷静に考えれば、これで、よかったとも、思った…
しかし、大場が、失踪中とは?
まさにあり得ない展開だった…
もし、
もし、
大場が、高雄悠(ゆう)と、いっしょにいるとすれば、一体全体、どんな話をしたのだろう?
正直、気になる…
いや、
気にならないはずがない…
私は、考える…
が、いつまでも、考えているわけには、いかなかった…
バイトの時間が迫っていたのだ…
就職が、未定というか、杉崎実業への就職が、ほぼなくなったと、思われる今、私の生命線というと、おおげさだが、収入源は、ただ一つ…
コンビニのバイトだけだ…
あのバイトだけが、私の唯一の収入源…
だから、今、それを失うわけには、いかない…
だから、私は、いつまでも、林からの電話の内容を考えているわけには、いかなかった…
バイト先のコンビニは、自宅近く…
歩いて、5分強…
10分もかからない…
いや、
10分もかかれば、自宅近くとは、言わないだろう…
私は、いつもの、Tシャツに、デニムのジーンズ姿で、家を出た…
これが、この竹下クミの正装というと、大げさだが、普段の姿…
率直に言って、飾り気もなにもない…
色気もなにもない…
おまけに、化粧もしない(笑)…
完全に、スッピンだ…
私のこの姿は、自分で言うのも、おかしいが、完全にお子様…
あの森七菜には、遠く及ばないが、やはりお子様だ…
明らかに、実年齢以上に、幼く見える…
これは、私の格好が、おかしいのだろうか?
だから、実年齢以上に、幼く見えるのだろうか?
以前、悩んだことがある…
Tシャツに、ジーンズという格好が、色気がなく、おかしいのだろうか?
悩んだことがある…
だが、
違った…
それが、わかったのは、以前…ずっと以前、中学時代の同級生が、私のバイトするコンビニに、やってきたことがあったときだ…
やはり、その同級生は、今の私と、同じく、Tシャツに、ジーンズ、それにスニーカーという飾り気が、なにもない恰好…
私と同じ格好だった…
しかも、ノーメイク…
これも、同じだった…
しかし、
しかし、だ…
その同級生は、色気ムンムンだった…
身長が、168センチぐらいで、ナイスバディの持ち主…
胸もお尻も大きく、しかも、美形だった…
このまま、そのTシャツとジーンズを脱いで、いきなり水着姿になって、撮影会に参加してもおかしくはない…
そう思わせるほど、だった…
片や、私…
たぶん、その同級生に負けじと脱いでも、おそらく、誰も注目しない…
まったくのお子様だった(涙)…
おそらく、中学生が水着になったぐらいのインパクトしか、なかっただろう(涙)…
私は、身長が、160㎝…
決して、小さくはない…
だが、そうだった…
お子様だった…
片や、色気ムンムンのお姉さん…
片や、中学生と間違われるお子様…
すでに、勝負は見えた…
いや、
勝負になっていなかった…
つくづく、人間は生まれつき、差があると、思った瞬間だった…
中学時代から、その同級生は、背が高かったが、大学生になって、それにナイスバディと、色気が加わっていた…
だが、同じ年齢でも、私に色気が加わることは、なかった…
なかったのだ(涙)…
ちなみに、その同級生は、真面目で、勉強もできた…
性格も良かった…
そして、美形…
さらに、ナイスバディと、色気が加わったのだ…
思えば、つくづく、人間は、平等ではない…
生まれつき、いかんともしがたい差があると、思わせる出来事だった…
私は、いつのまにか、林のことも、大場のことも、そして、高雄悠(ゆう)のことも忘れて、その同級生のことを、考えていた…
その同級生に恨みはない…
恨みは、ないが、差があった…
埋めがたい差があった(涙)…
そんなことを、考えながら、私は、バイトするコンビニに、急いだ…
すると、偶然、コンビニの駐車場に、どこかで、見たような黒く大きな外車が、止まっていたのを、見た…
…以前、どこかで、見たような?…
私は、首をひねった…
しかし、思い出せない…
…たしかに、どこかで、見た覚えがある!…
だが、一向に、思い出せなかった…
だから、私は、そんなことを考えるのを止めて、コンビニに入った…
「…おはようございます…」
挨拶して、コンビニの店内に入る…
すると、店の中にいた、スーツをバリッと着込んだ長身のサラリーマンの男が、私を振り返るのが、わかった…
明らかに、首を動かして、私を見た…
それに気づいた、私もその男を見る…
私は、その男の顔に、見覚えがあった…
いや、
見覚えどころか、因縁の相手といっては、大げさだが、その男の息子が、今、大場敦子と、失踪していると、さっき、林から電話があったばかりだ…
私は、驚いて、その男…
高雄組組長を、見た…