第3話

文字数 5,584文字

 あっけに取られた。

 言うに事欠いて、

…この中の誰かをお嫁さんにしたいとは?…

 私は、驚いた。

 同時に、気付いた。

 話が違う!

 この高雄は私にプロポーズしたはずだ!

 この竹下クミにプロポーズしたはずだ…

 …それが、一体なぜ?…

 しかも、

 しかも、だ…

 それが、5人…

 5人の女のコに同時にプロポーズをして、それを同時に集めるとは?

 うーむ?

 私は悩んだ…

 あまりにも、やっていることが、無茶苦茶だからだ…

 そして、その高雄の無茶苦茶に気付いたのは、当然のことながら、私だけではない…

 私以外の4人の女のコも、当然気付いた。

 そして、誰もが、高雄を見た…

 睨んだ…

 と、同時に、誰もが、自分以外の4人の女のコを見た。

 誰もが考えるのは、同じ…

 自分以外の高雄にプロポーズされた女のコは、どんな女のコなのか、気になったのだ…

 私だけでなく、みんなが、互いを、ジロジロ見た…

 遠慮なく、ジロジロ互いの顔を、見つめ合った…

 こんなにも、至近距離で、5人の女のコが、互いの顔を見るなんて、滅多にあることではない(笑)…

 私を含め、全員が、互いの顔をぶしつけに見ながら、共通点に、気付いた…

 …誰もが、そこそこの美人という事実に、だ!…

 決して、街を歩いていて、誰もが、フッと振り返りたくなるような美人はいない…

 だが、だからといって、ブスもいない…

 はっきり言えば、この5人は、誰もが、甲乙つけがたい…

 仮に、男に、この場で、この5人の中から、一人を選べと、言われれば、誰もが、悩む…

 全員が、ルックスが、互角だからだ(笑)…

 ちなみに、身長も、同じくらい…

 皆、160㎝前後だった…

 つまりは、同じようなルックスの女のコ、5人を集めたということだ…

 だが、当然のことながら、性格は違う…

 女のコの一人が、突然、立ち上がって、高雄に食ってかかった…

 「…高雄さん…この5人の女のコ、全員に、プロポーズしたっていうのは、どういうことですか? プロポーズっていうのは、一人にするものじゃないんですか?…」

 血相を変えて、高雄に食ってかかった…

 当たり前のことだった…

 私は、その女のコを見た。

 いや、

 私だけではない…

 他の女のコ、3人もまた、その女のコを見た。

 高雄は、ジッと、その女のコを見た。

 高雄が、無言で、その女のコを見詰めると、なにやら、変な雰囲気になった…

 妙な雰囲気になった…

 美青年の高雄が、ジッと、その女のコを見詰めると、本当は、高雄が悪いにも、かかわらず、女のコが、悪いような、そんな感じになった…

 要するに、私同様、平凡なルックスの女のコが、高雄のルックスに圧倒されたということだ…

 明らかに高雄の醸し出すオーラ=雰囲気に圧倒された…

 いわば、蛇に睨まれた蛙だ…

 高雄は、その女のコに、近寄ると、いきなり、グッと、その女のコを抱き締めた…

 「…ゴメン…大場さん…」

 高雄が言った。

 「…でも、これは、仕方がなかったんだ…運命だったんだ…」

 「…運命?…」

 美男子の高雄に抱きすくめながら、大場と言われた女のコが、小さく呟く。

 「…詳しくは、今ここで話せないんだけど、これには、色々複雑な理由があるんだ…それを察して、欲しい…」

 高雄が、そのイケメンを全面に出して、大場の耳元に、そっと囁くように呟いた。

 すると、どうだ?

 まるで、それまで、怒りまくっていた大場と呼ばれた女のコが、ウソのように、大人しくなった…

 まるで、牙を抜かれた虎だ…

 それまで、怒りに猛り狂っていた虎が、急におとなしくなった…

 そんな感じだった…

 他の4人は、あっけに取られて、その様子を見た。

 …私も、あの大場と呼ばれた女のコと、同じく、美男子の高雄に抱き締められたら?…

 誰もが、同じ想像をした。

 すると、やはり同じように、牙を抜かれるに違いない…

 あの美男子の高雄に抱き締められたら、メロメロになるに違いない…

 恐るべし、高雄悠!

 恐るべし、美男子の実力!

 私は、唖然とする。

 いや、

 私だけではない…

 私以外の3人の女のコもまた、唖然として、大場と呼ばれた女のコと、高雄を見ていた。

 そして、誰もが、心の中で、自分を大場に置き換えた。

 自分が、大場ならば、やはり、メロメロになるに違いないからだ…

 だが、私は違った…

 この竹下クミだけは、違ったのだ…

 私は、いきなり、その場で、立ち上がった。

 もちろん、高雄に抱き締められたいからではない…

 「…高雄さん…」

 私は言った。

 「…なんでしょうか?…」

 高雄が大場から、手を離して、言った。

 「…私たち5人が、お嫁さん候補と言いましたが、結婚できるのは、一人だけです…どうやって、決めるのですか?…」

 私は言った。

 「…それに、私たちの意志も当然、あります…高雄さんは、イケメンですけど、私たちが、高雄さんと、当然のように、結婚すると考えるのは、高雄さんの思い上がりが過ぎるんじゃありませんか?…」

 「…思い上がり?…」

 私の言葉に、高雄は当惑したようだ…

 「…そうです…高雄さんが、私たちを選ぶように、私たちも高雄さんを選ぶ権利があります…」

 私の言葉に、他の女のコ、全員が頷いた…

 と、言いたいところだったが、私の言葉に頷く人間は、誰一人いなかった…

 それどころか、それまで、高雄に抱き締められていた大場に至っては、キッと、私を鋭く、睨み付け、

 「…アナタ…高雄さんと結婚したくないならば、さっさと、この部屋から、出て行けば、いいんじゃないの?…」

 と、言い放った…

 …なに?…

 私は呆気に取られた。

 私が今言ったのは、正論…

 正論のはずだ…

 私は、私の味方のはずの、他の3人の女のコを見た。

 仲間を見た。

 誰もが、この大場同様、冷ややかに、私を見ていた。

 同情も、同意も、なにもなかった…

 冷ややかな視線だけが、私に突き刺さった…

 …嫌なら、さっさと、この部屋から、出て行けば?…

 そんな視線だった…

 私は彼女たちの視線を見て、己の間違いに気付いた…

 だが、どうすることもできない…

 今さら、なかったことに、することはできない…

 一度、振り上げた拳を下ろすことはできない…

 …さあ、どうする?…

 …どうすればいい?…

 私は、立ったまま、悩んだ…

 どうしていいか、わからなかったからだ…

 だが、それを救ったのが、高雄だった…

 「…皆さん、そんなに、殺気立つのは、止めましょう…」

 高雄が穏やかに、口を挟んだ…

 「…この竹下さんが、今言ったのは、当たり前のことです…」

 高雄の言葉に、空気が変わった…

 殺気立った空気が、にわかに、優しくなった…

 「…ボクが、皆さんを、お嫁さんにしたいのは、あくまで、ボクの考えです…ですから、竹下さんが今言ったように、皆さんのお気持ちも当然あります…皆さんは、まだ、お若い…この先、ボクよりもはるかに素晴らしい男性に巡り合う可能性も大いにあります…それなのに、ボクのために、皆さんの未来を奪うことなど、できません…」

 高雄が、優しく呟く。

 高雄の言葉が、終わったころには、あっさりと、その場の空気が変わった…

 あれほど、私を憎々しげに見ていた大場ですら、私を見る目が、優しくなった…

 「…皆さん、ボクが嫌なら、さっさと、この部屋から出て行って、いいです…」

 高雄が神妙な表情で言う。

 「…ですが、ボクが嫌でなければ、このままでいて下さい…ボクにチャンスを下さい…」

 高雄が訴える。

 いわゆる、泣き落としというやつだ…

 しかも、これは、誰が見ても、策略…

 高雄の策略だ…

 誰が見ても、イケメンの高雄が、平凡なルックスの私たち相手に下出に出る…

 すると、誰もが、どうしても、高雄に逆らうことはできない…

 こんなイケメンの高雄が、平凡な私たちにへりくだって、接しているのだ…

 いわば、カーストでいえば、上にいるものが、わざと下にいるものを持ち上げてる。

 これ以上、気持ちのいいものは、ない…

 だから、席を立つ者は、誰一人いなかった…

 つまりは、皆、高雄のお嫁さん候補として、この場に残ったということだ…

 もちろん、私もその例外ではなかった…

 この竹下クミもまた、その例外ではなかったということだ…

 私は、仕方なく、座った…

 いつまでも、立っていることはできない…

 いや、

 立っていることは、この場合、中途半端な意思表示になる。

 ずばり、席に座るか、黙って、この部屋から出て行くか? 

 二者択一…

 それ以外の選択肢はない…

 私は、出て行くのは、嫌だったので、座った…

 それが、答えだった…

 つまりは、高雄のお嫁さん候補として、立候補するのが、私、竹下クミの意志表示ということだ…

 そして、私以外の4人も全員、私と同じく、そのまま、席に座ったままだった…

 つまり、他の4人も当然、高雄のお嫁さん候補として、立候補するということだ…

 つまりは、ライバル…

 この5人は、全員がライバル…

 選ばれるのは、ただ一人…

 そういうことだ…

 本当は、今日は、杉崎実業の就職試験の最終面接に来たと思っていたのに、なぜか、私たち5人は、高雄のお嫁さん候補として、この場に残った…

 なぜか、そうなった(笑)…

 うーむ、

 物事というものは、どう転がるかわからない実例だ…

 たかだか、就職の面接に来ただけなのに、それが、即、結婚につながるとは?

 わけがわからん(笑)…

 しかし、それが、真実…

 紛れもない、真実だった(笑)…

 
 結局、その日は、何事もなく、解散した…

 家に戻った…

 要するに、今日、杉崎実業に出向いたのは、就職の面接のためではなく、高雄のお嫁さん候補となった、確認だった…

 正直、わけがわからない(笑)…

 一体どうして、就職の面接に行って、それが、即、結婚につながるのか、わけがわからない(笑)…

 いや、

 正直、わけがわからないことは、世の中に、結構ある(笑)…

 昔、母に聞いたが、母の友達が、初めて、就職したときが、同じだった…

 どういうことかというと、母の友達が、今の私と同じく、大学生で、就職活動を始めたが、うまくいかない…

 正直、苦戦した…

 と、そのときに、知人のコネか、なにかで、ある会社を訪問した…

 コネだから、正直、就職に有利…

 脈があると見て、その会社の面接に臨んだが、実は、その会社のその年の就職は、事実上、終わっていて、面接したお偉いさんは、どうしていいか、わからず困惑した…

 知人の紹介だから、会社に入社させなければ、ならないのだけれど、すでに今年の採用人数は、埋まってしまった…

 つまり、今さら、採用することはできない…

 だけど、知人の紹介だから、入社させないわけには、いかない…

 だから、困った…

 すると、それを見た、秘書かなにかの派手なおねーちゃんが、

 「…パパの会社でいいなら、入社させて、あげるよ…」

 と、突然、言い出したそうだ…

 正直、わけがわからない展開だ(笑)…

 どう見ても、社長の愛人が似合う派手なおねーちゃんだから、パパというのは、そのおねーちゃんのパトロンのオヤジかなにかと思ったらしい…

 しかしながら、就職が決まらず、藁にもすがる思いだった母の友人は、否応なく、一にも二にもなく、その申し出を受けた。

 が、その結果はというと、その派手なおねーちゃんのパパというのは、血の繋がった実の父親で、会社も立派な会社だったそうだ…

 つまりは、本人の予想もしないところで、就職が決まった実例だった(笑)…

 世の中には、わけがわからないことがある…

 子供の頃に、母から、そんな実例を聞かされてきた、私にとって、今回のことは、正直、わけがわからないが、さりとて、ありえんと、断言することでもなかった…

 物事というものは、どう転がるか、わからない…

 幼いときに、母から、そんな実例を聞かされて育った私だから、いきなり、就職面接が、結婚面接に代わっても、驚かなかったのかもしれない…

 私は思った。

 と、同時に考えた。

 高雄総業って、一体なんだ? と、考えた。

 あの杉崎実業の親会社とかなんとか、いっていたが、そもそもどういう会社なんだろうか?

 そう思った…

 まさか、名ばかり、企業ではあるまい…

 高雄総業…

 私は、スマホで検索する。

 高雄総業の名前は出てこなかった…

 が、代わりに、ヒットしたのは、高雄組だった…

 どうして、高雄組なのだろうか?

 思った…

 考えた。

 そして、高雄組を検索すると、広域暴力団、山田会という名前が出た。

 山田会?

 どこかで、聞いたことのある名前だ…

 さらに、その山田会を調べた…

 広域暴力団、山田会…組員、推定8千人…

 日本で、二番目に、大きな暴力団と、説明があった…

                
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