第40話
文字数 5,669文字
…白馬の王子様?…
自分でも、そんな言葉を口にすると、つい笑ってしまう…
…この世の中に、白馬の王子様なんて、存在しない…
存在するのは、生身の人間のみ…
言葉は悪いが、結婚したり、同棲したりすれば、後は、いっしょに生活することだけだ…
私は、自分で言うのも、なんだが、変に老人臭いというか、あまり夢を見ない(笑)…
夢を見ないというのは、ありえない現実は、想定しないというか…
例えば、私のルックスで、芸能人になるのは、無理…
無理筋だ(笑)…
私は、クラスで、三番目に、可愛い女…
三番目に可愛いというのは、すごく微妙な立ち位置だ…
例えば、わかりやすい例として、クラスに二十人、女のコがいるとする…
すると、誰もが、誰それが一番可愛いとかキレイとかは、わかる…
二番目にキレイとか、可愛いのも、わかる…
しかしながら、三番目ぐらいになると、誰もが悩む…
なにしろ、クラスに二十人しか、女のコはいない…
その二十人の中で、選ぶのだ…
一番可愛いコや二番目にキレイなコは、簡単にわかる…
しかしながら、三番目になると、微妙になる…
残りの十八人は、いずれも、どんぐりの背比べになるからだ(笑)…
だから、三番目になると、誰もが、いわゆる推しメンが、変わってくる…
ひとによって、選ぶ女のコが、変わってくる…
いずれも、大差がないから、選ぶ理由は、単純に、選ぶ人間の好みになるからだ…
そして、私は、そんな三番目に、可愛い女のコの立ち位置だった…
はっきり言って、ブスではない…
でも、キレイとか可愛いかといえば、言葉に詰まる…
返答に詰まる…
その程度のルックスだ…
もっと言えば、そこそこの美人…
これが、一番合う(笑)…
なんとも、言い回しが、絶妙だ(笑)…
だから、芸能人は、無理…
無理筋だ…
いや、現実に、私程度のルックスで、芸能人になっている者もいる…
しかしながら、その場合は、通常なにか武器がある…
武器と言うのは、AKBの指原ではないが、トークがうまかったり、頭の回転が速かったり、誰が見ても、特定の分野で優れている…
そんな武器=才能がある…
仮に、そんな武器がなく、私程度のルックスで、芸能人になれば、若いうちは、いいが、若さがなくなれば、若いという、唯一の武器がなくなって、早晩、芸能界を引退するしかなくなるのだろう(笑)…
世の中、そういうものだ(笑)…
私は、ついそんな意地の悪いことを考えてしまったが、翻って、自分のことを考えると、私も同じ…
あの杉崎実業の5人の内定者の中で、私だけ、なにも持っていない(涙)…
五人とも、ルックスは同じ…
似たような背格好に、似たようなルックス…
誰もが、甲乙つけがたい…
だから、誰が優れているか、劣っているかは、中身の問題になる…
そして、この場合の中身は、本人の能力だけではない…
親の財力や、社会的地位も含まれる…
すると、私が一番劣っている(涙)…
何度も言うように、林は、超が付く、大金持ちのお嬢様…
大場に至っては、次期総理総裁候補の娘だ…
残りの二人、柴野と野口は、共に、秀才…頭脳が抜きん出ている…
柴野は、一橋…
野口は、東京外語大だ…
と、そこまで、考えたとき、私は、やはり、杉崎実業の内定を辞退すべきではないのか?
真剣に思った…
なぜなら、五人の杉崎実業の内定者の中で、私だけ、劣っている…
私だけ、なにも持ってない…
林は、お金を、大場は、大物政治家を、そして、柴野と野口は、優秀な頭脳を持っている…
だが、私だけ、なにもない…
見事なまでに、なにもない…
これでは、誰もが凹む…
仮に、杉崎実業がヤクザのフロント企業であろうとなかろうと、いっしょに入社した五人の女のコを、誰もが比べる…
まして、ルックスが似ている…
だから、どうしても、中身に目が行く…
そして、その中身は、私だけ、なにもない…
私だけ、なにもないのだ(涙)…
私は、今さらながら、その事実に気付いた…
遅まきながら、気付いた…
我ながら、ホントにとろい…
ビックリするほど、とろいというか、間抜け…
人は、比較するものだ…
比べるものだ…
五人の中で、誰が見ても、私が一番劣っている…
私がその現実を受け入れることができるか?
その屈辱に耐えることができるか?
すべては、それにかかっている…
例えば、いわゆる大企業で、高卒と大卒で、入社したとしよう…
最初の数年は差がなくても、いずれは、差が出てくる…
大抵は、少しの差でも、例え、高卒の人間が、大卒の人間よりも、担当した業務ができていれば、大卒の人間が、高卒の人間よりも、上に上がれば、いい気はしないだろう…
当たり前のことだ…
相手の学歴が優れているから、自分は出世できないのだと、高卒のひとは考える…
実際は、その通りなのかもしれないし、その通りではないもかもしれない…
つまり、本当のところは、わからない…
現実問題として、職場で、末端で働くことについて、学歴は、あまり関係がない…
わかりやすい例を挙げれば、今、私がバイトするコンビニを例にすれば、大学生だろうと、高校生だろうと、関係がない…
仕事の飲み込みが早く、テキパキと動いて、働ければ、最高!
大学生よりも、偏差値の低い高校生の方が、仕事の飲み込みが早く、テキパキと動いて、仕事ができる例はいっぱいある…
しかし、父が良く言ったが、会社で、上に上がれば、例えば、最初、5人の部下を持つ、男が、やがて、50人の部下を持ち、最終的に、500人の部下を持つまで上り詰めたとする。
そこで、なにをするかといえば、要するに、仕事の割り振りだ…
5人の部下を持った時は、自分の与えられた権限の中で、5人の部下に、仕事を割り振ってゆく…
簡単に言えば、こうして欲しい、ああして欲しいと、事細かに指示をすれば、良い…
これは、50人の部下を持っても、500人の部下を持っても、同じ…
仮に、50人の部下を持った場合は、5人の部下を持つ人間が、10人集まったということ…
その10人に、こうして欲しいと、指示する…
500人の部下を持つ場合は、今度は、50人の部下を持つ人間が、10人集まったと考えれば、良い…
その10人に、仕事のやり方を指示する…
要するに、立場によって、権限もやることも、異なるということだ…
5人の部下を持つ者は、指示が細かく、上に行けば、行くほど、指示が大雑把になる…
末端では、どうすればよいかという具体的な指示を、しなくなってゆくからだ…
ただ、若くて、頭が良くないと、まるで、階段を上るように、同じようなことを、すればいい…
あるいは、できると考えてしまう…
はっきり言って、上に上がってする能力は、末端でやる仕事と、仕事の内容が異なる…
コンビニを例に挙げれば、末端では、パートやバイトと同じく、店の店員として、接客や品出しをすればよい…
これが、少し上に上がると、店長として、パートやバイトをまとめなければ、ならなくなるし、コンビニの社員であれば、その店長を数人まとめるスーパーバイザーという立場になる…
そして、スーパーバイザーをまとめる、その地域の支部長がいて、その上には、支部をいくつもまとめる地域の、例えば、関東地域本部長というように、役職が変わってゆく…
そう説明すれば、小学生の子供でも、仕事の内容が変わってゆくことがわかるだろう…
すると、当然のことながら、頭=学力が必須になる…
難しい資料を作って、周りに説明して、人を動かす能力が必須となる…
そうなると、残念ながら、学力が低い人間は、それができない…
だから、出世できないとなる…
だったら、学歴が低い者が、今の職場では、出世が難しいから、学歴があまり関係がない職場…例えば、料理人や職人のように、なって、働けばいいのでは? と、普通考える…
その方が、学歴による差別がないと思えるからだ…
しかしながら、学歴が低いというよりも、学力が、低いものは、そのことに気付かない…
大企業でも、数年勤めれば、なんとなく先がわかってくるものだが、いつまでもわからないか、ようやくわかっても30歳になったとかで、その年齢では、そもそも未経験では、料理人や職人には、到底なれない年齢になってしまう…
失礼ながら、そんなことも気付かないのでは、どんな仕事に就いても、上に上がることは、不可能だろう…
以前、就活を始めた私に向かって、父がこんなふうに説明した…
そして、それを今の私に当てはめれば、どうなるであろう…
杉崎実業の5人の内定者の中で、間違いなく、私が一番劣っている…
これは、入社して、この先、一体なにを意味するのだろう?
考える。
私は女だから、男のように出世は考えたことはないが、それでも、やはり社内で、結婚相手を見つけるとか、するには、不利だろう…
同じ年に入社した5人の女の中で、私が一番劣っている…
普通に考えれば、一番劣った私と、恋愛したい男はいないだろう…
私は、ふと、そのことに気付いた…
気付いたことで、さらに落ち込んだ…
凹んだ…
と、同時に気付いた…
あのヤクザ界のスター、稲葉五郎のことを、だ…
あの稲葉五郎は、稲葉一家組長…
立派な組長だ…
私にとっては、恐怖の対象でしかないが、やはり、ヤクザ界のスターといわれる人間だ…
ひとをまとめることができるのだろう…
そうでなければ、ヤクザ界のスターなどとはいわれないし、なにより、あの大場=次期総理総裁候補の娘と親しいわけがない…
会社でいえば、取締役とか、お偉いさんに違いない…
私から見れば、ただのケンカが強い、凶暴な男にしか見えないが、間違いなく、違うだろう…
父が言ったように、どんな社会も、優れていなければ、上に上がれないからだ…
だから、あの稲葉五郎は優れている…
あるいは、配下の者に慕われていると、考えられる…
そこまで、考えると、あの稲葉五郎に対して、私の評価が変わってくる…
ただのケンカに強い、凶暴な男ではない…
そう思えてくる。
しかし、
しかし、だ…
そう思いながらも、スマホに映った、稲葉五郎の凶暴な顔を見ると、やっぱり怖かった(涙)…
これは、理屈ではない…
これは、感情だ…
私は、稲葉五郎が、苦手なのではない…
稲葉五郎が、嫌いでもない…
ただ、怖いのだ…
私は、あらためて、そう思った…
数日後、あの杉崎実業の人見人事部長から、連絡があり、私たちは、また、杉崎実業の本社に呼び出された…
私は、悩んだが、やはり、杉崎実業の本社に行くことにした…
悩んだというのは、今も言ったように、あの杉崎実業の内定者、五人の中で、私が一番劣っていること…
それを考えれば、考えるほど、このまま、杉崎実業に入社していいものかどうか、悩んだ…
これは、ちょうど、高校入試に当てはめれば、いい…
仮に、五人と言わず、10人でいいから、同じ高校に入学する予定の同年齢の女のコと、知り合ったとする…
そして、あれこれ一緒に勉強したりして、いつのまにか、他人の能力を知る…
そして、その中で、自分が、一番、能力が劣っていることがわかる…
そのとき、どうすれば、よいか?
誰もが、悩むに違いない…
例えば、その高校の入学者が、300人とする…
この場合、とりあえずは、男女の区別を設けない…
勉強ができる、できないに、男女の違いはないからだ…
自分はたまたま自分と同じ高校に入学する人間、10人と知り合った…
300人のうちの10人だから、三十分の一の人間と知り合ったに過ぎない…
しかしながら、例え、三十分の一に過ぎない数の人間の中で、自分が一番劣っている…
普通に考えれば、これが、300人になっても、自分の成績が一番下の方ではないかと考えるのが、自然だ…
たまたま知り合った10人が、300人の中で、上位10人の成績の人間であると、普通は考えないからだ…
だから、悩む…
このまま、その高校に入学しても、自分は、成績が、おそらく最下位のレベルに違いないと、思えるからだ…
すでに、入学する前に、自分の成績が最下位であることがわかっていて、入学するものだろうか?
誰もが、自分が、集団の中で、下にいくのは、嫌だ…
だから、普通に考えれば、できることなら、入学が決まった高校よりも、レベル=偏差値の低い高校に入学したいと考えるに決まっている…
そうすれば、自分が、その高校で、下位の位置に立たずにすむからだ…
高校と、会社は、違うが、その中での立ち位置は重要だ…
どちらも、集団の中での立ち位置…
これは、学校でも、会社でも、関係がない…
誰もが、自分が、集団の中で、下位の位置にいるのは、苦痛以外に他ならないからだ…
例え、その集団にいる人間がいいひとだらけで、居心地が良くても、やはり悩むだろう…
それが、人間だ…
だから、私は悩む…
このまま、杉尾実業に、入社していいものかどうか、悩んだ…
悩み続けた…
自分でも、そんな言葉を口にすると、つい笑ってしまう…
…この世の中に、白馬の王子様なんて、存在しない…
存在するのは、生身の人間のみ…
言葉は悪いが、結婚したり、同棲したりすれば、後は、いっしょに生活することだけだ…
私は、自分で言うのも、なんだが、変に老人臭いというか、あまり夢を見ない(笑)…
夢を見ないというのは、ありえない現実は、想定しないというか…
例えば、私のルックスで、芸能人になるのは、無理…
無理筋だ(笑)…
私は、クラスで、三番目に、可愛い女…
三番目に可愛いというのは、すごく微妙な立ち位置だ…
例えば、わかりやすい例として、クラスに二十人、女のコがいるとする…
すると、誰もが、誰それが一番可愛いとかキレイとかは、わかる…
二番目にキレイとか、可愛いのも、わかる…
しかしながら、三番目ぐらいになると、誰もが悩む…
なにしろ、クラスに二十人しか、女のコはいない…
その二十人の中で、選ぶのだ…
一番可愛いコや二番目にキレイなコは、簡単にわかる…
しかしながら、三番目になると、微妙になる…
残りの十八人は、いずれも、どんぐりの背比べになるからだ(笑)…
だから、三番目になると、誰もが、いわゆる推しメンが、変わってくる…
ひとによって、選ぶ女のコが、変わってくる…
いずれも、大差がないから、選ぶ理由は、単純に、選ぶ人間の好みになるからだ…
そして、私は、そんな三番目に、可愛い女のコの立ち位置だった…
はっきり言って、ブスではない…
でも、キレイとか可愛いかといえば、言葉に詰まる…
返答に詰まる…
その程度のルックスだ…
もっと言えば、そこそこの美人…
これが、一番合う(笑)…
なんとも、言い回しが、絶妙だ(笑)…
だから、芸能人は、無理…
無理筋だ…
いや、現実に、私程度のルックスで、芸能人になっている者もいる…
しかしながら、その場合は、通常なにか武器がある…
武器と言うのは、AKBの指原ではないが、トークがうまかったり、頭の回転が速かったり、誰が見ても、特定の分野で優れている…
そんな武器=才能がある…
仮に、そんな武器がなく、私程度のルックスで、芸能人になれば、若いうちは、いいが、若さがなくなれば、若いという、唯一の武器がなくなって、早晩、芸能界を引退するしかなくなるのだろう(笑)…
世の中、そういうものだ(笑)…
私は、ついそんな意地の悪いことを考えてしまったが、翻って、自分のことを考えると、私も同じ…
あの杉崎実業の5人の内定者の中で、私だけ、なにも持っていない(涙)…
五人とも、ルックスは同じ…
似たような背格好に、似たようなルックス…
誰もが、甲乙つけがたい…
だから、誰が優れているか、劣っているかは、中身の問題になる…
そして、この場合の中身は、本人の能力だけではない…
親の財力や、社会的地位も含まれる…
すると、私が一番劣っている(涙)…
何度も言うように、林は、超が付く、大金持ちのお嬢様…
大場に至っては、次期総理総裁候補の娘だ…
残りの二人、柴野と野口は、共に、秀才…頭脳が抜きん出ている…
柴野は、一橋…
野口は、東京外語大だ…
と、そこまで、考えたとき、私は、やはり、杉崎実業の内定を辞退すべきではないのか?
真剣に思った…
なぜなら、五人の杉崎実業の内定者の中で、私だけ、劣っている…
私だけ、なにも持ってない…
林は、お金を、大場は、大物政治家を、そして、柴野と野口は、優秀な頭脳を持っている…
だが、私だけ、なにもない…
見事なまでに、なにもない…
これでは、誰もが凹む…
仮に、杉崎実業がヤクザのフロント企業であろうとなかろうと、いっしょに入社した五人の女のコを、誰もが比べる…
まして、ルックスが似ている…
だから、どうしても、中身に目が行く…
そして、その中身は、私だけ、なにもない…
私だけ、なにもないのだ(涙)…
私は、今さらながら、その事実に気付いた…
遅まきながら、気付いた…
我ながら、ホントにとろい…
ビックリするほど、とろいというか、間抜け…
人は、比較するものだ…
比べるものだ…
五人の中で、誰が見ても、私が一番劣っている…
私がその現実を受け入れることができるか?
その屈辱に耐えることができるか?
すべては、それにかかっている…
例えば、いわゆる大企業で、高卒と大卒で、入社したとしよう…
最初の数年は差がなくても、いずれは、差が出てくる…
大抵は、少しの差でも、例え、高卒の人間が、大卒の人間よりも、担当した業務ができていれば、大卒の人間が、高卒の人間よりも、上に上がれば、いい気はしないだろう…
当たり前のことだ…
相手の学歴が優れているから、自分は出世できないのだと、高卒のひとは考える…
実際は、その通りなのかもしれないし、その通りではないもかもしれない…
つまり、本当のところは、わからない…
現実問題として、職場で、末端で働くことについて、学歴は、あまり関係がない…
わかりやすい例を挙げれば、今、私がバイトするコンビニを例にすれば、大学生だろうと、高校生だろうと、関係がない…
仕事の飲み込みが早く、テキパキと動いて、働ければ、最高!
大学生よりも、偏差値の低い高校生の方が、仕事の飲み込みが早く、テキパキと動いて、仕事ができる例はいっぱいある…
しかし、父が良く言ったが、会社で、上に上がれば、例えば、最初、5人の部下を持つ、男が、やがて、50人の部下を持ち、最終的に、500人の部下を持つまで上り詰めたとする。
そこで、なにをするかといえば、要するに、仕事の割り振りだ…
5人の部下を持った時は、自分の与えられた権限の中で、5人の部下に、仕事を割り振ってゆく…
簡単に言えば、こうして欲しい、ああして欲しいと、事細かに指示をすれば、良い…
これは、50人の部下を持っても、500人の部下を持っても、同じ…
仮に、50人の部下を持った場合は、5人の部下を持つ人間が、10人集まったということ…
その10人に、こうして欲しいと、指示する…
500人の部下を持つ場合は、今度は、50人の部下を持つ人間が、10人集まったと考えれば、良い…
その10人に、仕事のやり方を指示する…
要するに、立場によって、権限もやることも、異なるということだ…
5人の部下を持つ者は、指示が細かく、上に行けば、行くほど、指示が大雑把になる…
末端では、どうすればよいかという具体的な指示を、しなくなってゆくからだ…
ただ、若くて、頭が良くないと、まるで、階段を上るように、同じようなことを、すればいい…
あるいは、できると考えてしまう…
はっきり言って、上に上がってする能力は、末端でやる仕事と、仕事の内容が異なる…
コンビニを例に挙げれば、末端では、パートやバイトと同じく、店の店員として、接客や品出しをすればよい…
これが、少し上に上がると、店長として、パートやバイトをまとめなければ、ならなくなるし、コンビニの社員であれば、その店長を数人まとめるスーパーバイザーという立場になる…
そして、スーパーバイザーをまとめる、その地域の支部長がいて、その上には、支部をいくつもまとめる地域の、例えば、関東地域本部長というように、役職が変わってゆく…
そう説明すれば、小学生の子供でも、仕事の内容が変わってゆくことがわかるだろう…
すると、当然のことながら、頭=学力が必須になる…
難しい資料を作って、周りに説明して、人を動かす能力が必須となる…
そうなると、残念ながら、学力が低い人間は、それができない…
だから、出世できないとなる…
だったら、学歴が低い者が、今の職場では、出世が難しいから、学歴があまり関係がない職場…例えば、料理人や職人のように、なって、働けばいいのでは? と、普通考える…
その方が、学歴による差別がないと思えるからだ…
しかしながら、学歴が低いというよりも、学力が、低いものは、そのことに気付かない…
大企業でも、数年勤めれば、なんとなく先がわかってくるものだが、いつまでもわからないか、ようやくわかっても30歳になったとかで、その年齢では、そもそも未経験では、料理人や職人には、到底なれない年齢になってしまう…
失礼ながら、そんなことも気付かないのでは、どんな仕事に就いても、上に上がることは、不可能だろう…
以前、就活を始めた私に向かって、父がこんなふうに説明した…
そして、それを今の私に当てはめれば、どうなるであろう…
杉崎実業の5人の内定者の中で、間違いなく、私が一番劣っている…
これは、入社して、この先、一体なにを意味するのだろう?
考える。
私は女だから、男のように出世は考えたことはないが、それでも、やはり社内で、結婚相手を見つけるとか、するには、不利だろう…
同じ年に入社した5人の女の中で、私が一番劣っている…
普通に考えれば、一番劣った私と、恋愛したい男はいないだろう…
私は、ふと、そのことに気付いた…
気付いたことで、さらに落ち込んだ…
凹んだ…
と、同時に気付いた…
あのヤクザ界のスター、稲葉五郎のことを、だ…
あの稲葉五郎は、稲葉一家組長…
立派な組長だ…
私にとっては、恐怖の対象でしかないが、やはり、ヤクザ界のスターといわれる人間だ…
ひとをまとめることができるのだろう…
そうでなければ、ヤクザ界のスターなどとはいわれないし、なにより、あの大場=次期総理総裁候補の娘と親しいわけがない…
会社でいえば、取締役とか、お偉いさんに違いない…
私から見れば、ただのケンカが強い、凶暴な男にしか見えないが、間違いなく、違うだろう…
父が言ったように、どんな社会も、優れていなければ、上に上がれないからだ…
だから、あの稲葉五郎は優れている…
あるいは、配下の者に慕われていると、考えられる…
そこまで、考えると、あの稲葉五郎に対して、私の評価が変わってくる…
ただのケンカに強い、凶暴な男ではない…
そう思えてくる。
しかし、
しかし、だ…
そう思いながらも、スマホに映った、稲葉五郎の凶暴な顔を見ると、やっぱり怖かった(涙)…
これは、理屈ではない…
これは、感情だ…
私は、稲葉五郎が、苦手なのではない…
稲葉五郎が、嫌いでもない…
ただ、怖いのだ…
私は、あらためて、そう思った…
数日後、あの杉崎実業の人見人事部長から、連絡があり、私たちは、また、杉崎実業の本社に呼び出された…
私は、悩んだが、やはり、杉崎実業の本社に行くことにした…
悩んだというのは、今も言ったように、あの杉崎実業の内定者、五人の中で、私が一番劣っていること…
それを考えれば、考えるほど、このまま、杉崎実業に入社していいものかどうか、悩んだ…
これは、ちょうど、高校入試に当てはめれば、いい…
仮に、五人と言わず、10人でいいから、同じ高校に入学する予定の同年齢の女のコと、知り合ったとする…
そして、あれこれ一緒に勉強したりして、いつのまにか、他人の能力を知る…
そして、その中で、自分が、一番、能力が劣っていることがわかる…
そのとき、どうすれば、よいか?
誰もが、悩むに違いない…
例えば、その高校の入学者が、300人とする…
この場合、とりあえずは、男女の区別を設けない…
勉強ができる、できないに、男女の違いはないからだ…
自分はたまたま自分と同じ高校に入学する人間、10人と知り合った…
300人のうちの10人だから、三十分の一の人間と知り合ったに過ぎない…
しかしながら、例え、三十分の一に過ぎない数の人間の中で、自分が一番劣っている…
普通に考えれば、これが、300人になっても、自分の成績が一番下の方ではないかと考えるのが、自然だ…
たまたま知り合った10人が、300人の中で、上位10人の成績の人間であると、普通は考えないからだ…
だから、悩む…
このまま、その高校に入学しても、自分は、成績が、おそらく最下位のレベルに違いないと、思えるからだ…
すでに、入学する前に、自分の成績が最下位であることがわかっていて、入学するものだろうか?
誰もが、自分が、集団の中で、下にいくのは、嫌だ…
だから、普通に考えれば、できることなら、入学が決まった高校よりも、レベル=偏差値の低い高校に入学したいと考えるに決まっている…
そうすれば、自分が、その高校で、下位の位置に立たずにすむからだ…
高校と、会社は、違うが、その中での立ち位置は重要だ…
どちらも、集団の中での立ち位置…
これは、学校でも、会社でも、関係がない…
誰もが、自分が、集団の中で、下位の位置にいるのは、苦痛以外に他ならないからだ…
例え、その集団にいる人間がいいひとだらけで、居心地が良くても、やはり悩むだろう…
それが、人間だ…
だから、私は悩む…
このまま、杉尾実業に、入社していいものかどうか、悩んだ…
悩み続けた…