第101話
文字数 5,267文字
高雄組と稲葉一家…
どちらも、山田会の両輪…
武闘派の稲葉一家と、経済ヤクザの高雄組…
いわゆる、抗争は、稲葉一家が担当し、資金面は、高雄組が担当する…
長らく、山田会のみならず、ヤクザ界では、そう信じられてきた…
しかし、それは、大げさに言えば、神話だった…
神話といえば、大げさだが、神話に近いほど、眉唾物だったということだ…
高雄組の実質的な指導者といえば、大げさだが、投資の指示をしていたのは、今は亡き古賀会長だった…
つまりは、経済ヤクザとして、ひとかどの地位を築き上げていた高雄組組長だったが、実質的に、金融の指示をしていたのは、古賀会長だったのだ…
それゆえ、古賀会長が病に伏せ、指示ができなくなったことから、高雄組長は、杉崎実業を買収するような、下手を打ったというか…
古賀会長が、しっかりしていれば、ありえないミスだった…
古賀会長が、以前、元は、宋国民という名前の中国人だと、書いた…
古賀会長は、元中国人という自分の出自を武器に、在日の華僑の中に、ネットワークを築き上げていった…
華僑は、言うまでもなく、金に強い…
金の情報に強い…
今、どこに投資すれば、儲かるか、知っている…
古賀会長は、それを、在日の華僑から、聞き出して、高雄組長に命じて、投資させた…
いわば、古賀会長は、高雄組組長を隠れ蓑にして、自身が、投資していたわけだ…
だが、一体なんのために?
一体なぜ、自分が、投資していると、山田会内部でも、言わなかったのか?
それは、一言で言えば、古賀会長の狡猾さだった…
ずるさだった…
古賀会長は、以前にも、言ったが、ヤクザ界の秀吉と言われた人物…
徒手空拳の、なにもないところから、独力で、日本で二番目に大きな暴力団を作り上げた…
それは、立派で、誰からも、慕われ、一目置かれたが、その本当の人柄は、豊臣秀吉同様、誰も信用しない人間だった…
これも、以前も書いたが、山田会で、死ぬまで、自分の後継者を決めなかったのも、後継者を決めれば、自分が山田会を追い出されるかもしれないと、危惧したからだ…
だから、突出した存在を嫌った…
稲葉五郎は、武闘派で、突出した存在だった…
すると、このままでは、もしかしたら、自分の立場を脅かされるかもしれない…
そう考えた古賀会長は、高雄組組長に目を付けた…
高雄組組長は、元々頭がいい…
その頭の良さを生かして、投資を勧めた…
高雄組長を経済ヤクザとして、自立させ、稲葉五郎のライバルとすることを目論んだ…
いわゆる、投資の指導役として、高雄組長に、投資を勧めた…
そして、その甲斐あって、高雄組長に、投資の才能が花開いた…
が、
やはり、古賀会長には、及ばなかった…
そして、それを高雄組長も自覚していた…
だから、初めて、私に会ったとき、
「…自分にも、ようやくチャンスが巡って来た…これまで、自分は、不器用で、チャンスを逃してきた…」
と、言った…
あれは、当時、謙遜に聞こえたが、そうではなかった…
あれは、高雄組長の率直な気持ちだった…
要するに、自分に自信がないのだった…
自分の力をよくわかっていた…
それゆえ、そんなことを、私に言ったのだ…
そして、高雄組長は、焦った…
自分が、山田会の後継者になれるかもしれないと、考えたとき、高雄総業を通じて、杉崎実業の株を買い占めた…
すでに、稲葉五郎が言ったように、ヤクザ界でも、杉崎実業はヤバイという噂が広がっていた…
なにが、ヤバイのか、ヤバイ原因が、複数あり、当時、本当のところは、わからなかったが、ヤバイという噂は、ヤクザ界にも広がっていた…
だが、それを承知で、高雄組長は、杉崎実業を、買った…
杉崎実業に、投資した…
稲葉五郎に負けないためだ…
山田会の二代目会長になるためだった…
普段は、慎重で、冷静な、高雄組長は、自分に初めてやって来た大きなチャンスに焦っていた…
そして、それを身近に見て、心を痛めたのが、悠(ゆう)だった…
冷静沈着な高雄組長が、図らずもやって来た大きなチャンスに冷静でいられないのだ…
ヤクザ界の未来は、今、暴対法の実施で、暗い…
それで、いつかは、高雄組ではなく、組の資金で、正業をやりたい…
ゴッドファーザーのように、マフィアから、堅気になりたい…
そんな夢も、一方で、高雄組長は、持っていた…
つまりは、悠(ゆう)が見た夢は、高雄組長の夢でもあったわけだ…
そんな複数の理由から、高雄組長は、杉崎実業の買収を決断した…
そして、それは、古賀会長が、健在ならば、ありえない決断だった…
経済ヤクザとして、有名だったにもかかわらず、目の前の大きなチャンス=山田会会長の座を目の前にして、判断が狂った…
それは、投資家として、あってはならないミスだった…
そして、それを目の当たりにして、悠(ゆう)は、動いた…
これも、以前も書いたが、高雄組長と悠(ゆう)は、血が繋がってない父子だったが、憎み合っているわけでも、なんでもなかった…
だが、お互いが、性格が似過ぎてる部分があって、歯車がうまく嚙み合わなかった…
人間には、相性というものがある…
性格が、真逆な方が、相性が良いということも多い…
互いがない部分を補完するからだ…
高雄組長と、悠(ゆう)は、むしろ、似ているゆえに、反発することが多かった…
そして、悠(ゆう)は、高雄組長が、今、危険な状態にあることを、掴んだ…
いや、知った…
要するに焦って、正常な判断ができなくなっているのだ…
これは、マズい…
悠(ゆう)は、独自に動き出した…
そのひとつが、私への接触だった…
私、竹下クミへの接触だった…
私が古賀会長の血筋の人間だと、掴んでいたのだ…
そう、信じていたのだ…
だから、私を利用することを、考えたのだ…
私と、大場、そして、林は、似ている…
身長も、ルックスも似通っている…
3人、並べば、姉妹といっても、驚かない…
それほど、似ている…
それを利用した…
杉崎実業に、内定した、5人の女の残りの二人…
柴野と、野口は、私たち3人に似ているから、内定を出したに過ぎない…
高雄は、人事部長である、人見に命じて、私たち3人に似た、女を探したのだ…
そして、そんなことをした理由は、幻惑というか、めくらましというか…
高雄自身が、わからないことがあったからだ…
高雄は、私に、
「…ボクを取り込もうとする、組織があり、ボクは、その組織から狙われてます…ぶっちゃけ、ボクと結婚し、内部から、ボクの組織を乗っ取ろうとする輩(やから)がいます…真逆に、ボクは、5人の中から、ボクが結婚すれば、ボクの組織がパワーアップするといか…」
そんなふうな、説明をした…
私は、それを面白いと思った…
似たような顔が5人、集まり、その中には、高雄悠(ゆう)の、敵が、いて、味方も、いる…
しかし、誰が、敵で、誰が、味方だか、わからない…
それを見破るためにも、竹下さんの力が必要です…
その力を貸して欲しい…
高雄はそう、私に懇願した…
私は、それを信じた…
高雄の言葉を信じた…
高雄がイケメンだったから、信じたことも、大きい(笑)…
高雄は、すでに何度も説明したように、花屋や図書館が似合う、おとなしめの草食系男子…
一目見て、信頼できるからだ…
信用できるからだ…
あの若さで、杉崎実業の取締役という肩書も、大きかった…
杉崎実業という会社は、世間では無名だが、一部上場企業…
立派な一部上場企業だ(笑)…
だから、私は、高雄の言葉を信じた…
私は、高雄の言葉に、のぼせあがった…
だが、高雄の言葉は、ウソだった…
私を騙した…
のではなく、
高雄の言葉は、本当だった!…
ウソではなかった!…
高雄と、結婚して、高雄組を乗っ取ろうとする組織の人間がいると、高雄は仄(ほの)めかした…
私は、それがウソだと思ったが、ウソではなかった…
それは、大場だった…
あの大場小太郎代議士の娘の敦子だった…
大場が、高雄を狙っていたのだ…
いや、
高雄ではない…
高雄の父の資産を、狙っていたのだ…
大場小太郎代議士は、父が国家公安委員長という要職にあった関係で、ヤクザ者と親しかった…
いや、
ヤクザ者と親しいのは、仮の姿…
実際は、彼らと親しく交流することで、その動静を探っていた…
監視していた…
そして、それは、彼らの資産をも、また、探っていたことでもあった…
彼らの飯のタネは、なんで、どこから、利益を得ていて、どれぐらいの資産を持っているのか?
それも、彼らと接触する目的の一つだった…
それは、彼らの資金源を探る目的だったが、それを知るにつけ、自分もまた、それを欲しくなった…
ある意味、当たり前のことだった…
ヤクザといえども、金持ち…
そして、その金がどういう手段で、得られたのか、知れば、次は、自分も、欲しくなるのが、当然だ…
大場代議士は、それを娘の敦子に直接話すことはなかったが、会話の流れから、父親が、高雄との結婚を密かに望んでいるのでは?
と、察した…
有名政治家である、大場小太郎の娘と、大物ヤクザである、高雄組組長の息子が、結婚するというのは、普通に考えれば、ありえない…
だが、大場小太郎が、高雄組の資産に目をつけたのは、確かだった…
政治家は、ヤクザ同様、生き馬の目を抜く世界だ…
ヤクザ同様、生存競争が激しい…
金も必要だ…
選挙には、金がかかるからだ…
身近に金をいっぱい持っている人間を知っている…
しかも、非合法な手段で、金を儲けている…
すると、どうしても、それが欲しくなるのが、人情というか…
人間だ(笑)…
そして、その金を合法的に手に入れるには、どうすれば、よいか?
思いついたのが、娘の敦子と、高雄悠(ゆう)との結婚だった…
無論、普通に考えて、結婚はありえない…
大物ヤクザの息子と、有名政治家の娘が結婚できるはずがない…
普通は、なにをバカなことを思うが、公安関係者として、長らく、山田会の古賀会長や、高雄組組長を身近に監視しているうちに、その資金力を欲しくなった…
政治家は、お金がかかる職業だからだ…
まして、大場小太郎は、派閥の領袖…
大場派の会長だ…
当たり前だが、派閥の他の議員の面倒を見なくては、ならない…
面倒を見る=金を配る、だ…
山田会の古賀会長や、高雄組長と接するうちに、その資金を、どうにか、自分のものにできないか、そう考えるようになった…
その答えが、娘の敦子と、高雄悠(ゆう)との結婚だった…
一方で、それが、荒唐無稽であることは、大場小太郎は、誰に指摘されるまでもなく、わかっていた…
にもかかわらず、どこかで、諦めきれなかった…
そして、それは、娘の敦子にも、なんとなく伝わり、敦子の態度から、なんとなく、高雄悠(ゆう)にも、伝わった…
悠(ゆう)自身は、そこまでのことを、考えていたわけではないが、なんとなく、自分が、敦子から、特別な目で、見られてるのが、わかった…
そして、それが、自分が、狙われているという、悠(ゆう)の、発言に繋がった…
悠(ゆう)自身、自分が、なにも持っていない人間であることは、自覚していた…
そして、なにも持っていない自分が、敦子に狙われている…
となると、一体、自分のなにが狙われているのか? と、なる…
考えれば、自分にあるものといえば、ルックスの良さだが、これは、ありふれている…
高雄悠(ゆう)は、たしかに、長身のイケメンだが、同じような、長身のイケメンは、探せば、世間にありふれている…
それに、悠(ゆう)は、ルックスに自信があるが、敦子が、それを目当てにしているとは、思えない…
なにより、昔から、知っているから、今さら、敦子が、目の色を変えて、自分を狙ってくるとは、思えない(笑)…
ならば、残るのは、高雄組の金しかない…
高雄は、それに気付いた…
だから、自分が、狙われていると、語った高雄の言葉にウソはなかった…
ただ、私が、どうして、高雄に大事にされるか、わからなかった…
大場もまた以前、電話で、
「…竹下さん…気付いている?…」
「…気付いているって、なにが?…」
「…高雄さんの本命はアナタ…竹下クミ…」
と、断言した…
そして、それは、本心だった…
大場敦子の本心だった…
だが、それは、大場の直感…
大場敦子の女の直感に過ぎなかった…
確固たる証拠があるわけではなかった…
これは、ある意味、高雄もまた同じだった…
私が、高雄にとってのキーマンであることは、わかっているが、それが、どうして、私が、キーマンであるか、その理由が、わからなかった…
私が、亡くなった古賀会長の血の繋がった血縁者だから…
それが、建前だったが、それを信じたわけでもなかった…
なにか、別にある…
別のなにかが、ある…
それが、高雄悠(ゆう)の見立てだった…
どちらも、山田会の両輪…
武闘派の稲葉一家と、経済ヤクザの高雄組…
いわゆる、抗争は、稲葉一家が担当し、資金面は、高雄組が担当する…
長らく、山田会のみならず、ヤクザ界では、そう信じられてきた…
しかし、それは、大げさに言えば、神話だった…
神話といえば、大げさだが、神話に近いほど、眉唾物だったということだ…
高雄組の実質的な指導者といえば、大げさだが、投資の指示をしていたのは、今は亡き古賀会長だった…
つまりは、経済ヤクザとして、ひとかどの地位を築き上げていた高雄組組長だったが、実質的に、金融の指示をしていたのは、古賀会長だったのだ…
それゆえ、古賀会長が病に伏せ、指示ができなくなったことから、高雄組長は、杉崎実業を買収するような、下手を打ったというか…
古賀会長が、しっかりしていれば、ありえないミスだった…
古賀会長が、以前、元は、宋国民という名前の中国人だと、書いた…
古賀会長は、元中国人という自分の出自を武器に、在日の華僑の中に、ネットワークを築き上げていった…
華僑は、言うまでもなく、金に強い…
金の情報に強い…
今、どこに投資すれば、儲かるか、知っている…
古賀会長は、それを、在日の華僑から、聞き出して、高雄組長に命じて、投資させた…
いわば、古賀会長は、高雄組組長を隠れ蓑にして、自身が、投資していたわけだ…
だが、一体なんのために?
一体なぜ、自分が、投資していると、山田会内部でも、言わなかったのか?
それは、一言で言えば、古賀会長の狡猾さだった…
ずるさだった…
古賀会長は、以前にも、言ったが、ヤクザ界の秀吉と言われた人物…
徒手空拳の、なにもないところから、独力で、日本で二番目に大きな暴力団を作り上げた…
それは、立派で、誰からも、慕われ、一目置かれたが、その本当の人柄は、豊臣秀吉同様、誰も信用しない人間だった…
これも、以前も書いたが、山田会で、死ぬまで、自分の後継者を決めなかったのも、後継者を決めれば、自分が山田会を追い出されるかもしれないと、危惧したからだ…
だから、突出した存在を嫌った…
稲葉五郎は、武闘派で、突出した存在だった…
すると、このままでは、もしかしたら、自分の立場を脅かされるかもしれない…
そう考えた古賀会長は、高雄組組長に目を付けた…
高雄組組長は、元々頭がいい…
その頭の良さを生かして、投資を勧めた…
高雄組長を経済ヤクザとして、自立させ、稲葉五郎のライバルとすることを目論んだ…
いわゆる、投資の指導役として、高雄組長に、投資を勧めた…
そして、その甲斐あって、高雄組長に、投資の才能が花開いた…
が、
やはり、古賀会長には、及ばなかった…
そして、それを高雄組長も自覚していた…
だから、初めて、私に会ったとき、
「…自分にも、ようやくチャンスが巡って来た…これまで、自分は、不器用で、チャンスを逃してきた…」
と、言った…
あれは、当時、謙遜に聞こえたが、そうではなかった…
あれは、高雄組長の率直な気持ちだった…
要するに、自分に自信がないのだった…
自分の力をよくわかっていた…
それゆえ、そんなことを、私に言ったのだ…
そして、高雄組長は、焦った…
自分が、山田会の後継者になれるかもしれないと、考えたとき、高雄総業を通じて、杉崎実業の株を買い占めた…
すでに、稲葉五郎が言ったように、ヤクザ界でも、杉崎実業はヤバイという噂が広がっていた…
なにが、ヤバイのか、ヤバイ原因が、複数あり、当時、本当のところは、わからなかったが、ヤバイという噂は、ヤクザ界にも広がっていた…
だが、それを承知で、高雄組長は、杉崎実業を、買った…
杉崎実業に、投資した…
稲葉五郎に負けないためだ…
山田会の二代目会長になるためだった…
普段は、慎重で、冷静な、高雄組長は、自分に初めてやって来た大きなチャンスに焦っていた…
そして、それを身近に見て、心を痛めたのが、悠(ゆう)だった…
冷静沈着な高雄組長が、図らずもやって来た大きなチャンスに冷静でいられないのだ…
ヤクザ界の未来は、今、暴対法の実施で、暗い…
それで、いつかは、高雄組ではなく、組の資金で、正業をやりたい…
ゴッドファーザーのように、マフィアから、堅気になりたい…
そんな夢も、一方で、高雄組長は、持っていた…
つまりは、悠(ゆう)が見た夢は、高雄組長の夢でもあったわけだ…
そんな複数の理由から、高雄組長は、杉崎実業の買収を決断した…
そして、それは、古賀会長が、健在ならば、ありえない決断だった…
経済ヤクザとして、有名だったにもかかわらず、目の前の大きなチャンス=山田会会長の座を目の前にして、判断が狂った…
それは、投資家として、あってはならないミスだった…
そして、それを目の当たりにして、悠(ゆう)は、動いた…
これも、以前も書いたが、高雄組長と悠(ゆう)は、血が繋がってない父子だったが、憎み合っているわけでも、なんでもなかった…
だが、お互いが、性格が似過ぎてる部分があって、歯車がうまく嚙み合わなかった…
人間には、相性というものがある…
性格が、真逆な方が、相性が良いということも多い…
互いがない部分を補完するからだ…
高雄組長と、悠(ゆう)は、むしろ、似ているゆえに、反発することが多かった…
そして、悠(ゆう)は、高雄組長が、今、危険な状態にあることを、掴んだ…
いや、知った…
要するに焦って、正常な判断ができなくなっているのだ…
これは、マズい…
悠(ゆう)は、独自に動き出した…
そのひとつが、私への接触だった…
私、竹下クミへの接触だった…
私が古賀会長の血筋の人間だと、掴んでいたのだ…
そう、信じていたのだ…
だから、私を利用することを、考えたのだ…
私と、大場、そして、林は、似ている…
身長も、ルックスも似通っている…
3人、並べば、姉妹といっても、驚かない…
それほど、似ている…
それを利用した…
杉崎実業に、内定した、5人の女の残りの二人…
柴野と、野口は、私たち3人に似ているから、内定を出したに過ぎない…
高雄は、人事部長である、人見に命じて、私たち3人に似た、女を探したのだ…
そして、そんなことをした理由は、幻惑というか、めくらましというか…
高雄自身が、わからないことがあったからだ…
高雄は、私に、
「…ボクを取り込もうとする、組織があり、ボクは、その組織から狙われてます…ぶっちゃけ、ボクと結婚し、内部から、ボクの組織を乗っ取ろうとする輩(やから)がいます…真逆に、ボクは、5人の中から、ボクが結婚すれば、ボクの組織がパワーアップするといか…」
そんなふうな、説明をした…
私は、それを面白いと思った…
似たような顔が5人、集まり、その中には、高雄悠(ゆう)の、敵が、いて、味方も、いる…
しかし、誰が、敵で、誰が、味方だか、わからない…
それを見破るためにも、竹下さんの力が必要です…
その力を貸して欲しい…
高雄はそう、私に懇願した…
私は、それを信じた…
高雄の言葉を信じた…
高雄がイケメンだったから、信じたことも、大きい(笑)…
高雄は、すでに何度も説明したように、花屋や図書館が似合う、おとなしめの草食系男子…
一目見て、信頼できるからだ…
信用できるからだ…
あの若さで、杉崎実業の取締役という肩書も、大きかった…
杉崎実業という会社は、世間では無名だが、一部上場企業…
立派な一部上場企業だ(笑)…
だから、私は、高雄の言葉を信じた…
私は、高雄の言葉に、のぼせあがった…
だが、高雄の言葉は、ウソだった…
私を騙した…
のではなく、
高雄の言葉は、本当だった!…
ウソではなかった!…
高雄と、結婚して、高雄組を乗っ取ろうとする組織の人間がいると、高雄は仄(ほの)めかした…
私は、それがウソだと思ったが、ウソではなかった…
それは、大場だった…
あの大場小太郎代議士の娘の敦子だった…
大場が、高雄を狙っていたのだ…
いや、
高雄ではない…
高雄の父の資産を、狙っていたのだ…
大場小太郎代議士は、父が国家公安委員長という要職にあった関係で、ヤクザ者と親しかった…
いや、
ヤクザ者と親しいのは、仮の姿…
実際は、彼らと親しく交流することで、その動静を探っていた…
監視していた…
そして、それは、彼らの資産をも、また、探っていたことでもあった…
彼らの飯のタネは、なんで、どこから、利益を得ていて、どれぐらいの資産を持っているのか?
それも、彼らと接触する目的の一つだった…
それは、彼らの資金源を探る目的だったが、それを知るにつけ、自分もまた、それを欲しくなった…
ある意味、当たり前のことだった…
ヤクザといえども、金持ち…
そして、その金がどういう手段で、得られたのか、知れば、次は、自分も、欲しくなるのが、当然だ…
大場代議士は、それを娘の敦子に直接話すことはなかったが、会話の流れから、父親が、高雄との結婚を密かに望んでいるのでは?
と、察した…
有名政治家である、大場小太郎の娘と、大物ヤクザである、高雄組組長の息子が、結婚するというのは、普通に考えれば、ありえない…
だが、大場小太郎が、高雄組の資産に目をつけたのは、確かだった…
政治家は、ヤクザ同様、生き馬の目を抜く世界だ…
ヤクザ同様、生存競争が激しい…
金も必要だ…
選挙には、金がかかるからだ…
身近に金をいっぱい持っている人間を知っている…
しかも、非合法な手段で、金を儲けている…
すると、どうしても、それが欲しくなるのが、人情というか…
人間だ(笑)…
そして、その金を合法的に手に入れるには、どうすれば、よいか?
思いついたのが、娘の敦子と、高雄悠(ゆう)との結婚だった…
無論、普通に考えて、結婚はありえない…
大物ヤクザの息子と、有名政治家の娘が結婚できるはずがない…
普通は、なにをバカなことを思うが、公安関係者として、長らく、山田会の古賀会長や、高雄組組長を身近に監視しているうちに、その資金力を欲しくなった…
政治家は、お金がかかる職業だからだ…
まして、大場小太郎は、派閥の領袖…
大場派の会長だ…
当たり前だが、派閥の他の議員の面倒を見なくては、ならない…
面倒を見る=金を配る、だ…
山田会の古賀会長や、高雄組長と接するうちに、その資金を、どうにか、自分のものにできないか、そう考えるようになった…
その答えが、娘の敦子と、高雄悠(ゆう)との結婚だった…
一方で、それが、荒唐無稽であることは、大場小太郎は、誰に指摘されるまでもなく、わかっていた…
にもかかわらず、どこかで、諦めきれなかった…
そして、それは、娘の敦子にも、なんとなく伝わり、敦子の態度から、なんとなく、高雄悠(ゆう)にも、伝わった…
悠(ゆう)自身は、そこまでのことを、考えていたわけではないが、なんとなく、自分が、敦子から、特別な目で、見られてるのが、わかった…
そして、それが、自分が、狙われているという、悠(ゆう)の、発言に繋がった…
悠(ゆう)自身、自分が、なにも持っていない人間であることは、自覚していた…
そして、なにも持っていない自分が、敦子に狙われている…
となると、一体、自分のなにが狙われているのか? と、なる…
考えれば、自分にあるものといえば、ルックスの良さだが、これは、ありふれている…
高雄悠(ゆう)は、たしかに、長身のイケメンだが、同じような、長身のイケメンは、探せば、世間にありふれている…
それに、悠(ゆう)は、ルックスに自信があるが、敦子が、それを目当てにしているとは、思えない…
なにより、昔から、知っているから、今さら、敦子が、目の色を変えて、自分を狙ってくるとは、思えない(笑)…
ならば、残るのは、高雄組の金しかない…
高雄は、それに気付いた…
だから、自分が、狙われていると、語った高雄の言葉にウソはなかった…
ただ、私が、どうして、高雄に大事にされるか、わからなかった…
大場もまた以前、電話で、
「…竹下さん…気付いている?…」
「…気付いているって、なにが?…」
「…高雄さんの本命はアナタ…竹下クミ…」
と、断言した…
そして、それは、本心だった…
大場敦子の本心だった…
だが、それは、大場の直感…
大場敦子の女の直感に過ぎなかった…
確固たる証拠があるわけではなかった…
これは、ある意味、高雄もまた同じだった…
私が、高雄にとってのキーマンであることは、わかっているが、それが、どうして、私が、キーマンであるか、その理由が、わからなかった…
私が、亡くなった古賀会長の血の繋がった血縁者だから…
それが、建前だったが、それを信じたわけでもなかった…
なにか、別にある…
別のなにかが、ある…
それが、高雄悠(ゆう)の見立てだった…