第134話 朝は平穏で落ち着きの有る新大久保こと、それでもカオスな新大久保

文字数 1,879文字

 昨日の朝の事である。
 節約励行の為新大久保に在るディスカウントスーパーへ。
 ついでに熱帯魚屋さんに寄るつもりだったのだが、何故朝か、と、言うと、韓流街が目覚める前に新大久保に着きたかったからである。
 新大久保はこの緊急事態宣言下でも活きている数少ない街の一つだし、雪崩のように押し寄せる韓流ファンの女性達に紛れたくないのだ。

 するとやはり予測通り朝の新大久保は、何時もの韓流街に非ず。
 平穏な落ち着きの有る普通の街であった。
 見掛ける人達も付近の会社や店舗に出勤するのであろうサラリーマンにOLさん、或いは店舗スタッフ、と、言った人が殆んど。

 そうして気分良く歩いていた私であったが、
やがて新大久保駅の改札口から直ぐの処で、サラリーマンらしき男性が並ぶ間も無く私を抜き去って行ったのである。
 まるで競歩の如く早足の男性だった。 
 年の頃なら30代半ばと言った処か。
 その男性の出で立ちたるや、超ハイウエストな処でベルトを締めていて、その分ズボン丈が超絶短いのである。
 そこ迄ハイウエストな処でベルトを締めなければ、ズボン丈もそんなに短くは為らなかった筈だ。
 ところが彼に取ってはそうした見た目より、も、ズボン丈が長くて靴に引っ掛かったりするのを避ける事の方が優先事項なのだろう。
 それに手に提げた黒皮の鞄の中には無造作に突っ込まれた新聞が何誌も顔を出しており、やはり見た目は全く気にしないタイプのようだ。
 もう少しベルトの位置を下げれば良いのだろうが、まぁ、それは彼の個人的嗜好の問題。
 周囲も彼の嗜好を受け入れていて、誰も指摘等しないのだろう。
 何よりそうした出で立ちがかなり板に付いている彼なのである。
 恐らく彼は生涯超ハイウエストのまま、早足で歩き続けるのだろう。

 まぁ、それも彼の人生か、と、何故か哲学的倫理観に基づいて、彼の超ハイウエストを享受した私であった。

 しかし単純に彼女いるのかなぁ?
 否、居たら彼女がその事彼に言うよなぁ?
 
 とか、考えていたら、今度は向こうからポジティブボディの女性がやって来たのだが、彼女の胸から腹の辺りが余りにも露なので、思わず眼を逸らせてしまった私。
 
 刹那、え、どう言う事? 

 と、そう思ったのだが、直後怖いもの見たさで恐る恐る彼女を再び一瞥してみた。
 次いでさっと眼を逸らせて彼女の前を通り過ぎたのだが、何と彼女のキャミソールからブラが喰み出ており、下着のブラの下の方の部分が垣間見えていたのだ。
 それはキャミソールの下から喰み出たブラの色が白だ、と、はっきり確認出来る程であり、またポッコリと突き出たポジティブな腹部がその事を強調して止まなかったのである。
 その際そのキャミソールを自身の手で下に下げながら、私を睨み付けた彼女。

 えっ、俺が睨まれる訳?

 と、その刹那、彼女がこちらを睨んだ理由を鑑み、かなりショックを受けた私。
 恐らく彼女は私が助平心から彼女のそれを見た、と、勘違いしている筈。

 えっ、それ違うよなぁ!

 あんたが「ブラ出しキャミソール」着てるからだろうよ、と、私が泣きそうになった事は言う迄も無い。
 その後ググってみると「へそ出しキャミソール」なる商品は売っているものの、「ブラ出しキャミソール」は売っていない事が判明。
 要するに彼女は自身がポジティブボディである事を受け入れられず、適応サイズよりかなり小さいサイズの「へそ出しキャミソール」を着ていたのだ。
 因って「へそ出しキャミソール」が「ブラ出しキャミソール」になってしまった訳で、私を助平だとする彼女のあの一睨みは全く理に叶わないのである。

 それに何より先程の超ハイウエストの男性とは異なり、「ブラ出しキャミソール」は個人の嗜好の問題ではないのだ。 
 単なるサイズ違いなのである。

 やはり女性が適応サイズより小さめのサイズを所望すると言うのは事実のようだが、果たして彼女はあの「ブラ出しキャミソール」のままで、昨日1日を過ごしたのだろうか?

 そう考えると、あな恐ろしや「ブラ出しキャミソール」である。

 朝の新大久保は平穏な落ち着きの有る普通の街ではあったが、しかし流石は新大久保。
 カオスな事この上無い朝の顔も持っていた。

 と、ここで一つ。
 新大久保は朝も昼も夜もカオスであり、韓流街としてやアジアタウンとしてだけでなく、「超ハイウエスト」の男性や「ブラ出しキャミソール」の女性等、他では絶対居ない人か多数往来する街である、と、恐惶謹言させて戴く。
 それにしても朝に見掛けた2人の、その後の1日の動向が気になる私であった。
 かしこ。



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