第112話 ちっちゃ可愛い完璧な彼女こと、不謹慎な雑誌を読む彼女

文字数 1,060文字

 昨日の夕方の事である。
 久し振りにミドルクラスのスーパーに買い出しに行ったのであるが、会計の際迂闊にも小銭をばら蒔いてしまった。
 後列の人の邪魔にならないようにと、先ずは会計を済ませてからばら蒔いた小銭を拾おうとしたのだが、一足早く私の直ぐ後ろに並んでいた女性がばら蒔いた小銭を拾ってくれていた。

 何と心優しい女性だろう。

 何枚かずつ拾っては、レジ台の上に置いていってくれているのである。
 その薄いピンクのスプリングコートを着た、マスク越しにもちっちゃ可愛い20代と思しき女性に、一先ず私はお礼を言った。
 頭を下げながら、「すいません。本当にありがとうございます」、と。
 すると彼女も軽く会釈を返してくれた。

 彼女の彼は何と言う幸せ者なのだろう。
 心優しくてしかもちっちゃ可愛いのである。
 総てを兼ね備えた女性。
 彼女の彼が羨ましい。

 と、会計を済ませて、残り僅か数枚の小銭を自身でも屈んで拾った時に、「本当にありがとうございました」、と、これまた最後の一枚を屈んで拾ってくれていた彼女に再度礼を言ったのだが、その際ちらと彼女のトートバッグから或る雑誌が覗いて見えたのである。

 私はショックの余り気を失いそうになってしまったのだが、但し礼は尽くさねばなるまい。
 その後口元を引き吊らせながらも笑顔を作り最後に礼を言った私は、レジの向こう側にあるサッカー台(袋詰めスペース)で、買った物を持参のエコバッグに詰めた。
 作業中何度か小銭を拾ってくれた彼女に視線を向けてみたが、やはりちっちゃ可愛い。
 それに心の優しい完璧な女性なのである。

 それなのに、何故あのような不謹慎な雑誌を彼女が、何故・・・・・彼女は。
 そうなのである。
 先程彼女のトートバッグから覗いて見えた雑誌とは、「BL雑誌」だったのだ。
 絶対に間違いは無い。
 表紙には綺麗目の男と男が絡み合う、到って不謹慎なイラストが描かれていたのだから。
 袋詰めも終わって去り際に私は、今一度小銭を拾ってくれた彼女を振り返った。
 やはり完璧なちっちゃ可愛い女性である。

 念の為部屋に戻った後ググってみると、小銭を拾ってくれた女性のトートバッグに入っていた雑誌の表紙と、有名BL雑誌の今月号の表紙とが完璧に一致した。

 と、ここで一つ。
 小銭を拾ってくれた彼女の彼には、たとえBL漫画やBL小説を読んでいる彼女であっても、たとえ彼女が腐女子であっても、あれ程魅力的且つ素敵な彼女はやはり逃してはならない、と、恐惶謹言させて戴く。
 何なら腐男子にだってなるべきだ、と。
 かしこ。
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