第139話 意識の高い男子こと、化粧男子

文字数 1,589文字

 昨日の夕方の事である。
 百貨店でタイムセールの弁当を購入すべく、何時もの新宿の百貨店へ。
 そう言えば自宅を出る際にトイレに行っていなかった事を思い出し、先ずはトイレへと向かったのだが、その男子トイレの中で生まれて初めて見るモノを見てしまったのである。

 何とコンパクトをバッグの中から取り出して来た20代と思しき男性が、着けていたマスクを外しパウダーパフで顔をポンポンと叩き始めたのである。
 ファンデーションなのであろうか。
 一瞥した限り「お姉」では無い様子。 
 私見を言わせて貰うと、大まかに言って彼が目指している処を「お姉」か「イケメン」かで言うと、確実に「イケメン」なのである。
 刹那私は先日某テレビ番組で、「化粧男子」と呼ばれる人種が日に日に増加している、と、ギャルタレントが言っていた事を思い出した。
 してみると彼は「LGBTQ」と呼ばれる性的マイノリティでも無いし、二丁目で良く見掛ける女装の「お姉」でも無い。
 書いて字の如く単に化粧をする男子なのだ。

 その事を裏付けるかのように、電話が掛かって来たらしくジャケットの内ポケットからスマホを取り出した彼は、「あ~、もうちょい。悪いな遅れて、俺ももう着くわ」、と、言いながらトイレを出て行ったのである。
 うーん。
 やはりテレビでギャルタレントの言っていた事は事実だったのだ。 

 しかしそうした状況を、森元五輪パラ組織委員会会長が見ていたらどうなっていただろう。
 内務省(戦前に有った省庁)に電話を掛けて、特高(特別高等警察)を呼んだのではないか。
 或るいは非国民として、精神注入棒で彼のお尻を叩き据えていたか。
 まぁ、何れにしても彼には、「化粧男子」の事は理解出来まい。
 何故「お姉」でも「LGBTQ」でも無い普通の男子が、メイクをするのかなど。
 多様性を理解しろとか、或いは女性蔑視はするな、と、何度注意されても理解出来なかった彼なのだ。
 況してや「化粧男子」である。
 彼ならずとも昭和生まれの男には、中々理解は出来まい。
 これぞジェネレーションギャップなのだ。

 そうして「化粧男子」に圧倒された私は、朝食用の食パンを百貨店で買い忘れてしまった事を、帰路の電車の中で気付いたのである。 
 仕方無く駅前のミドルクラスのスーパーへ。
 と、黒のハットに、黒のレースをあしらったドレススーツを着た女性が居た。
 スーパー如きに凄く念の入った出で立ちであるが、ふとその40代と思しき女性の顔をマスク越しに一瞥すると、ノーメイクなのである。
 その女性にしてみれば、マスクを着けているし、それに土曜だし、まぁ、ノーメイクでも良いか、と、考えたのであろう。
 そう言えば平日なら女性の目許には、マスク越しにアイメイクを確認出来る事が殆んどなのだが、土日にスーパーに来る女性の場合ノーメイクの人が多い事を思い出した。
 黒いドレススーツの女性に限らず、土日スーパーに来るノーメイクの女性の胸の内は、概ね前述したような処だろう。
 と、言う事は、「化粧男子」の方が土日スーパーに来る女性達より、化粧に対しての意識が高いと言う事になる。

 何と言う事か。

 以前私は何かの記事で、資生堂を創業した福原有信や初代社長の福原信三が、「働く女性の為のリーディングカンパニー」である事を目指した、と、言う事を知った。
 しかしひょっとすると今後は、「働く『化粧男子』の為のリーディングカンパニー」を目指す、と、言う事になったりするのではないか。
 そんな事を夢想した私。

 と、ここで一つ。
 近い将来、「おい、お前今日ノーメイクなんかよ、メイクくらいして来いよ」、と、同僚の男性に言われたサラリーマンの男性が、「そうなんだよ、ファンデ切らしちゃって。ちょっとファンデ貸してくれる」、等と返すと言う事態が生じる可能性も有る、と、皆様方に恐惶謹言させて戴く。
 かしこ。
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