第110話 不要不急な外出では無い「お姉」こと、立派な「お姉」

文字数 1,033文字

 新宿では良く見掛ける光景で別に特筆すべき事でもないと言えばそうなのだが、昨日の午後かなり高身長でマスク越しにも一目でそれと分かる女装の男性に出会った。
 実は昨日久し振りに事務仕事の派遣バイトが有ったのだが、その往路で喉が渇いてしまい、入り時間には少し早いのでチェーンのコーヒー店に立ち寄ったのだ。
 其処に彼なのか、或いは彼女なのかの、その「お姉」が居たのである。

 優に180cmは越えているだろう、恵まれた体躯と胸板に肩幅。
 何処をどう取っても力士に相応しいのだが、と、思った刹那大変申し訳無い事を考えてしまった、と、一転反省頻り。
 そんな事は以前からも「お姉」は言われて来ただろうし、その都度LGBTの「お姉」が苦しんだであろう事は想像するに難くない。
 そんな事を考えるのはよそう。
 そうと思い定め、彼、否、彼女に、「ごめんなさい」、と、胸中で詫びた私であった。
 すると誰かから電話が掛かって来たのか、着信音こそ無かったものの、その立派な体躯の「お姉」がスマホを耳に翳した。
 ちなみに当初私はコンパクトサイズのスマホを手にしていると思っていたのだが、どうやら「お姉」の掌のサイズが立派だった為そう見えただけで、普通サイズのスマホであった。

 と、通話相手に対して「お姉」の曰く。
「失礼ねぇ、不要不急の外出じゃないわよ。
 ホル注は私に取って必要不可欠なのよ!」

 ん? ホル注って何?
 と、そう思った私はその場でググってみた。
 するとホルモン注射だと言う事が分かった。
 つまり女性らしくなりたい「お姉」は、女性ホルモンを注射しようとしているのだ。
 流石は新宿である。
 うーん。
 でもホルモン注射を打ってどうにかなる問題でも無いと思うのだが~、と、思った刹那再び申し訳ない事を考えてしまった、と、再反省。

 が、しかし、ホルモン注射は不要不急にならないのだろうか?
 やはり「お姉」に取っては必要なのだろう。
 或いはコロナワクチンよりも、それは。
 そこで私は、「ホルモン注射は不要不急にはならないのですか?」、と、都庁にメールで問い合わせようかとも思ったが、この非常時にそんな事にお答え戴く手間自体が都庁の担当職員の方に恐縮なので、「お姉」には必要不可欠なのだ、と、言う事で確定する事にした。

 と、ここで一つ。
 女性ホルモンを打った後の「お姉」がどのように変化するのか考えようとした皆様方には、どうか今夜眠れるようにその事はお忘れ願うよう恐惶謹言させて戴く。
 かしこ。
 
 
 
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