第131話  溜息のOLさんこと、私が胸中でエールを贈ったOLさん

文字数 1,046文字

 昨日の朝の事である。 
 またまたモーニングが食べたくなったのだ。
 一昨日より一時間以上も早くに自宅を出た私は、登校中の高校生やサラリーマンやOL達大勢と擦れ違った。
 場所は一昨日と同じ新宿西口駅周辺。
 時間が時間でしかも人数が人数なので、高校生達も一昨日とは違って実際に登校中である。
 やがて登校する高校生の集団の中に、制服男子と制服JKのカップルが居るのを発見。
 2人手を繋いでピタリと寄り添い、仲睦まじい様子で向こうから遣って来るのだ。
 カップルで登校しているのだろう。
 すると私の直ぐ前を一人で歩いていたOLさんが、その高校生カップルと擦れ違うや、大きく一つ溜息を吐いたのである。
 
 彼女のその溜息が何に対する溜息かは、想像するに難くない。
 彼女はこれから仕事に行くと言うのにカップルの高校生と来たら、誰に憚る事無く2人幸せそうにしていたのだから。
 溜息の後そのOLさんは、肩をグルグル廻したり首を廻したりしていた。
 思うに気を落ち着かせていたのだろう。
 何となれば仕事前だし、邪念が入れば集中が切れてしまうからだ。
 然もありなん。
 私は胸中で彼女にエールを贈った。

 頑張れOLさん!

 と、暫くすると彼女は、出勤先が入居している建物であろうビルの中に入って行った。
 そしてエレベーターの前で立ち止まった彼女は、再び大きく一つ溜め息を吐いたのである。
 うーん。
 今回の溜息も、先程の高校生カップルの件が尾を引いているのは確かである。
 その上直ぐそこには職場があり、これから仕事が始まるのだ。
 押し寄せて来る現実を思えば、溜息くらい吐いてしまうだろう。
 然もありなん。
 私は胸中で再び彼女にエールを贈った。

 頑張れOLさん!

 と、直後ビルの前を通り過ぎ視界から彼女が消える寸前の事、その後ろからイケメンの同僚と思しき男性が遣って来て、彼女の肩を叩くのを目撃してしまった私。
 そして振り返った彼女の眼許は、マスク越しにも確かに微笑んでいた。
 何だそう言う事か。
 私は胸中で叫んだ。

 彼女には胸中でなく本当にエールを贈ってくれる人が居て、本当に良かった!

 そうして彼女が視界から完全に消えた刹那、私は胸中にエールを贈るべき相手を間違っていた事に気付いた。
 
 と、ここで一つ。
 独り住まいの親爺の私には、胸中でエールを贈ってくれる人とて居ないのである、と、皆様方に恐惶謹言させて戴く。
 そうして私は胸中で、その本来贈るべきだった相手に心からのエールを贈ったのだ。

 頑張れ、俺! 
 
 と、かしこ。
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