第73話 髭面のジャージ男こと、両足で貧乏ゆすりをする男

文字数 1,855文字

 今日の事新宿の中心からは少し離れた場所に在る一人焼肉の店に行ったのだが、その際に通り慣れない道を通って目的地へ。
 調度午後6時くらいだったと思う。
 すると暖かくなったからなのかベンチに4人程の男女が座り、マスクを顎迄ずらして煙草を吸っていた。
 と、4人の男女が4人共「貧乏ゆすり」をしているではないか。
 その刹那私が、「ゲッ、マジで」、と、思った事は言う迄も無い。
 ふと見遣ればベンチの背後にはパチンコ屋が在った。
 私はなる程、と、腑に落ちた。
 そう言えばこのコロナ禍でパチンコ屋は全面禁煙になったので、表に来て吸っているのだ。
 それに何より「貧乏ゆすり」は、下半身の鬱血の解消やストレス解消の為、本人が無意識の内にする行為だからである。

 以前「貧乏ゆすり」について調べた事があったのだが、そうした行為をそんな風に呼ぶのは日本だけで、欧米ではフィジェッティングと言ってエクササイズの一種と捉えているらしい。
 座っている時に起こる現象で、原因は下半身の鬱血の解消の為だったり、ストレスや欲求不満と言った心的問題の解消だったり、と、人に依って様々である。
 共通して言える事は、総じて無意識にしてしまっていると言う事。
 つまりエクササイズ以外のシチュエーションで「貧乏ゆすり」をしていると、それは全くの無意識であり人に言われる迄気付かないのだ。
 加えて慢性的に「貧乏ゆすり」をする人は、レストレスレッグス症候群(RLS)の可能性があり、足を動かそうとして抑え切れない衝動に駆られてしまうらしい。
 その為その症状の人は、会議中でもお構い無しに「貧乏ゆすり」をしてしまうのだとか。
 その他仕事が上手く行かない事から適応障害を引き起こしてしまうと、煙草やアルコールの摂取量が増えて憂鬱になって不安を抱え、それと共に「貧乏ゆすり」をしてしまうらしい。
 また女性は男性の倍の割合で「貧乏ゆすり」をするのだそうだ。

 してみるとパチンコをする人で且つ「貧乏ゆすり」をする人は、負のスパイラルに嵌っていると言えよう。
 何故なら仕事でストレスが溜まりギャンブルをするも、負けて金を失い更にストレスが溜まっているからである。
 挙げ句の果てパチンコは座りっぱなしなのだから、下半身の血流が滞ってしまい静脈血栓塞栓症を引き起こす。
 つまり心的問題の解消からも身体的問題の解消からも、無意識に「貧乏ゆすり」をすると言う事になる。
 うーん。
 何ともやるせない話だ。
 彼等に「貧乏ゆすり」のメカニズムを教えてあげて、「パチンコは止めましょうよ」、と、言ってあげようか。
 否々「大きなお世話だ馬鹿野郎」、と、言われた挙げ句、下手をすると殴られるかも知れないし、或いはパチンコ屋に営業妨害で警察を呼ばれるかも知れない。
 やはり止めておこう。
 と、その場を横目に遣り過ごし一人焼肉へ。

 焼肉を美味しく戴いた帰路、再びあの「貧乏ゆすり」のベンチの前を通った。
 すると今度は感じの良いカップルがちょこんとそこに座っており、何と二人共煙草は吸っていないし「貧乏ゆすり」もしていない。
 マスクもきっちりと鼻迄掛かっている。
 こんな良い人達でもパチンコをするのか。
 してみるとパチンコをする人達も満更ではないじゃないか。 
 と、私は喉も乾いていたので、ベンチ横の自販機で缶コーヒーを買って飲み始めた。
 直後の事パチンコ屋に隣接するレストランバーの店員さんが、「○○様お席が空きましたので、どうぞ」、と、声が掛かり、その感じの良いカップルはレストランバーへ。  
 次いでそこに座ったのはかなり太めのジャージ姿の男で、煙草を吸い始めたかと思うと片足ではなく両足で「貧乏ゆすり」を始めた。
 無論マスクは顎迄ずらしている。
 髭面で2〜3日は洗っていないだろうボサボサの髪を掻き上げたそのジャージ男は、有ろう事か煙をこちらに向かって吐き出した。
 私は缶コーヒーを急いで飲干すやその場を後にしたのだが、その時胸中に、「駄目だこりゃ」、と、呟いた事は言う迄も無い。

 髭面のジャージ男には「パチンコ」を止めるか「貧乏ゆすり」を止めるか、どちらか一つでも止めれないか、と、言ってあげたい。
 あ、それから、何なら「煙草」も止める選択肢の一つに加えて、3つの内どれか一つでも良いから止めれないか、と、しよう。
 でも、きっと彼はどれも止めなさそう。

 ここで一つ。
 皆様方には「パチンコ」も「貧乏ゆすり」も或いは「煙草」も、どれもする事が無いように、と、恐惶謹言させて戴く。
 かしこ。
 
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