第65話 勤勉実直な社長こと、夜はそうでも無かった社長
文字数 1,369文字
私の自宅近辺で会社経営をする凄く感じの良い社長さんが居る。
年の頃なら60代半ば、と、言った処か。
何時も作業服姿の社長さんは腰が低い。
近所の奥さま方にも常に低姿勢。
私は何度も自宅アパートの近くで、彼が作業をしている姿を見掛けた。
愛車は社名の入った軽自動車。
勤勉で実直を絵に描いたような人。
と、思っていたのだが、そんな昼間の社長さんとは180度違うのが、夜の社長さんらしく少し驚いた。
とは言え男なら誰しもそんな一面は有る。
しかしそんな風に言っている私の事を社長さんは、知らない。
それに私も社長さんと話した事は無い。
単に働く姿をま良く見掛けると言う程度だ。
しかし最近社長さんの会社の場所を、偶然見付けたのである。
社長さんの会社の社名の入った軽自動車が、そこの車庫に入っていたからだ。
実は日が暮れてから今日その社長さんの会社の前を偶然通り掛かったら、社長さんが何時もの作業服ではなくスーツを着ていたのである。
マスク越しではあるが、彼の丸っこい体型は忘れようもない。
頭部も辛うじて髪の毛が乗っかっているか、と、言う程度のあの社長のものだった。
しかも軽自動車の隣に新車のBMWが入っていて、その前で友人と思しき同世代の男性と談笑しているではないか。
かなり興味を惹かれるシチュエーションだったので、私はスマホを弄るふりをしてそこに立ち止まり聴き耳を立てた。
社長さんの友人の曰く。
「買い替えたのかよ、このコロナの時期に」
応じる社長さん。
「俺の趣味っつったら、車だけだからさ」
茶化すように訊く社長さんの友人。
「で、どうよ、新しい『ナイトシチー号』の乗り心地の方は?」
苦笑混じりに社長さんが応じる。
「ナイトシチーとか言うなっつうの。
人聞きの悪い」
と、以下に社長さん達の話を要約する。
コロナ禍以前は銀座や六本木辺りの所謂『お姉ちゃん』の居る店に、社長さん達は良く繰り出していたらしい。
で、往路はBMWを自身で運転し、復路は代行運転を呼んでいたのだそうだ。
それが彼のBMWを「ナイトシチー号」と呼ぶ所以でもある。
しかしこのコロナ禍で行き付けだった店は休業か閉店。
何時も使っていた代行業も然り。
で、結局、高級車BMWに乗って、今日の二人は健康ランドに行くらしい。
でも夜の街なんかに繰り出すより、名実共に「健康」でずっと良いと思う。
私はその辺り迄話を聴いてその場を後にしたのだが、してみると社長さんは徹底して公私を使い分けていたのだ。
何とも立派である。
私も見倣いたい。
と、しかし、どうしても気になっている事がある。
そうなのだ。
気になるのはあの社長さんのBMWは「ナイトシティ号」なのか、或いは「ナイトシチー号」なのかどっち、と、言う事。
お気付きの方もいらっしゃるかと思うが、先日明石家さんまが「ディレクター」を「デレクター」、と、言う、との話をしたが、正に今回もそれなのだ。
やはりあの社長さんに取って、「シティ」は「シチー」なのである。
仮に数年後あの社長さんが車を買い替えたとしても、その新車はきっと「ナイトシチー号」であって、「ナイトシティ号」ではない筈。
と、言う事で、今日は永遠の「ナイトシチー号」に幸あれ、と、胸中でBMWの社長さんに祝福の言葉を贈った私であった。
年の頃なら60代半ば、と、言った処か。
何時も作業服姿の社長さんは腰が低い。
近所の奥さま方にも常に低姿勢。
私は何度も自宅アパートの近くで、彼が作業をしている姿を見掛けた。
愛車は社名の入った軽自動車。
勤勉で実直を絵に描いたような人。
と、思っていたのだが、そんな昼間の社長さんとは180度違うのが、夜の社長さんらしく少し驚いた。
とは言え男なら誰しもそんな一面は有る。
しかしそんな風に言っている私の事を社長さんは、知らない。
それに私も社長さんと話した事は無い。
単に働く姿をま良く見掛けると言う程度だ。
しかし最近社長さんの会社の場所を、偶然見付けたのである。
社長さんの会社の社名の入った軽自動車が、そこの車庫に入っていたからだ。
実は日が暮れてから今日その社長さんの会社の前を偶然通り掛かったら、社長さんが何時もの作業服ではなくスーツを着ていたのである。
マスク越しではあるが、彼の丸っこい体型は忘れようもない。
頭部も辛うじて髪の毛が乗っかっているか、と、言う程度のあの社長のものだった。
しかも軽自動車の隣に新車のBMWが入っていて、その前で友人と思しき同世代の男性と談笑しているではないか。
かなり興味を惹かれるシチュエーションだったので、私はスマホを弄るふりをしてそこに立ち止まり聴き耳を立てた。
社長さんの友人の曰く。
「買い替えたのかよ、このコロナの時期に」
応じる社長さん。
「俺の趣味っつったら、車だけだからさ」
茶化すように訊く社長さんの友人。
「で、どうよ、新しい『ナイトシチー号』の乗り心地の方は?」
苦笑混じりに社長さんが応じる。
「ナイトシチーとか言うなっつうの。
人聞きの悪い」
と、以下に社長さん達の話を要約する。
コロナ禍以前は銀座や六本木辺りの所謂『お姉ちゃん』の居る店に、社長さん達は良く繰り出していたらしい。
で、往路はBMWを自身で運転し、復路は代行運転を呼んでいたのだそうだ。
それが彼のBMWを「ナイトシチー号」と呼ぶ所以でもある。
しかしこのコロナ禍で行き付けだった店は休業か閉店。
何時も使っていた代行業も然り。
で、結局、高級車BMWに乗って、今日の二人は健康ランドに行くらしい。
でも夜の街なんかに繰り出すより、名実共に「健康」でずっと良いと思う。
私はその辺り迄話を聴いてその場を後にしたのだが、してみると社長さんは徹底して公私を使い分けていたのだ。
何とも立派である。
私も見倣いたい。
と、しかし、どうしても気になっている事がある。
そうなのだ。
気になるのはあの社長さんのBMWは「ナイトシティ号」なのか、或いは「ナイトシチー号」なのかどっち、と、言う事。
お気付きの方もいらっしゃるかと思うが、先日明石家さんまが「ディレクター」を「デレクター」、と、言う、との話をしたが、正に今回もそれなのだ。
やはりあの社長さんに取って、「シティ」は「シチー」なのである。
仮に数年後あの社長さんが車を買い替えたとしても、その新車はきっと「ナイトシチー号」であって、「ナイトシティ号」ではない筈。
と、言う事で、今日は永遠の「ナイトシチー号」に幸あれ、と、胸中でBMWの社長さんに祝福の言葉を贈った私であった。