第102話 ワイシャツのお腹の釦外れの彼こと、私には気付かせてくれなかった彼

文字数 946文字

 昨日の昼前の事であるが道幅6m程の道路を挟んで、私の居る横断歩道の向こう側に、ネクタイを外してワイシャツを胸元迄開(はだ)けた男性か立っていた。
 大交差点とは違い、横断歩道の向こう側に居る人の姿は丸見えの小交差点なのである。
 連日の日中のこの暑さだ。
 胸ポケットに突っ込んだネクタイも、また会社へ戻る際にはきちんと締め直すのであろう。
 少々だらしなく見える彼ではあるが、それも致し方あるまい。
 私は、「まぁ、いいか」、と、思っていたのてあるが、どうやら、「まぁ、よくない」事が判明。

 ジャケットを手に白いワイシャツを着ているのだが、度重なるステイホームで運動不足からなのか、少々、否、そこそこ、否、かなりお腹が出ている横断歩道の向こう側の彼。
 このコロナ禍である。
 気付か無い内にメタボになる事もあろう。
 しかしそんな彼のワイシャツのお腹の部分の釦が、何と一つだけ外れてしまっていたのだ。
 単に釦の掛け忘れに気付いていないのか、或いは歩いている内に弾け飛んでしまった事に気付かなかったのか。
 何れにせよその事に全く気付いていない彼。
 垣間見えるワイシャツの中の肌着のシャツの白さが、付き出たお腹を強調しているように見えて何とも悲しい。

 何とかして彼に気付かせて上げたかったのだが、マスク越しに見る限り見知った顔ではない彼に対し、何とか出来るものでもない。
 早く気付いてくれれば良いのだが、と、祈るしか無かった私。
 私は伝えるべきだったか、否、とは言え伝える方途が無かったではないか、と、自省と言い訳を繰り返していた。
 そんな状態のまま新宿に辿り着き、尿意を催した私は百貨店のトイレに立ち寄った。
 タイムセールの弁当を買う為に、新宿の何時もの百貨店に立ち寄ったついでである。
 と、直後他人のワイシャツの釦が外れている事等、どうでも良くなった。
 
 そうなのである。
 用を足している時に気付いたのだ。
 私が自身のボクサーパンツを裏返しに履いていた事に。
 幸い鍵の掛かる個室が空いていたので、飛び込むや慌てて履き直した私だった。

 と、ここで一つ。
 世に、「人の振り見て我が振り直せ」、との理が有るが、今回私から、「人の釦外れ見て我がパンツ直せ」、との理もまた然り、と、恐惶謹言させて戴く。
 かしこ。



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