第25話 真面目なアナリストこと、出演中の市場動向が分からないアナリスト

文字数 3,583文字

 先週の金曜日東京MXテレビの地上波放送、
「東京マーケットワイド」と、言う番組で、アナリストが今後の市場動向について意見を述べるコーナーでの事である。
 私は株式投資をしているのでほぼ毎日と言って良いくらい、その「東京マーケットワイド」を視聴している。
 と、言っても、番組内で云々される市場動向や、司会者の市場展望など、放送内での解説や
ガイダンス等は真剣に聴いていない。
 何故なら彼等の意見は多少の内容の違いこそあれ、常に強気(株価上昇だと予測する)だからである。
 司会者の表情を見ていれば、その事が手に取るように分かる。
 株価が上昇している時は笑顔で、株価が下落している時は落ち込んだ表情で、東京市場の動向を述べるのだ。
 試しに一度見て戴くと良く分かると思う。
 明日週明けの月曜等は先週末のニューヨーク・ダウ下落を受け、恐らく日経平均は下げて始まるだろうから、それこそ司会者達はお通夜のような表情で番組出演に臨む事だろう。
 ご覧あれ。
 では私が何故「東京マーケットワイド」を見るのかと言うと、テレビを見ている方がスマホで日経平均をチェックするより、単に面倒臭くないからだ。
 だって画目を見ているだけでいいのだから。
 
 うーん。
 あっ、そ。
 あんたが「東京マーケットワイド」を見てる理由は分かったけど、その司会者は何でそんななの?
 と、思われた方に、以下に簡単にその理由を述べさせて戴く。
 先ず第一にテレビ番組であるが故に、スポンサーのご意向が第一なのである。
 殊に「東京マーケットワイド」のようなスポンサー色の濃い番組なら、尚更の事。
 言わずもがなであるが、「東京マーケットワイド」の主要なスポンサーは株屋さんである。
 そしてその株屋(証券会社)さんと言うものは、強気でなくては困るのだ。
 畢竟司会者も強気になると言う訳である。
 例えば明日週明け月曜に日経平均が下落したとして、その際、「やりましたね、売り方の弱気(株価下落だと予測)の皆さん。株価大暴落ですよ。おめでとう!」、と、言ったとする。
 恐らくその司会者は次の日から、番組への出演は出来なくなるだろう。

 うーん。
 あっ、そ。 
 司会者が強気なのは分かったけど、じゃあ株屋さんは何で強気でないと困るの?
 と、思われた方に、以下に簡単にその理由を述べさせて戴く。
 今迄もそうだが株屋さんの商売の根幹に有るものは、手数料収入である。
 しかし昨今のネット証券の台頭により、個別銘柄売買時の手数料がどんどん下がり、中には手数料無料を打ち出す株屋さん迄出て来た。
 今となっては現物の株取引だけでは、株屋さんの経営が立ち行かない状況に有る。
 とは言え株屋さんの商売が、手数料に有る事だけは確か。
 たとえば投信(投資信託)と言われる、株屋さんにお金を預け、運用は彼等に任せて配当金を貰うタイプの商品を売る事もそうだ。
 しかし株屋さんが最も手数料を得れるのは、M&AやTOB等の企業間買収時と、IPOと言われる新規株式公開時の手数料に有る。
 畢竟両業務共に株価が上がってくれなくては困るのだ。
 何となれば株価が下落すると手数料が減少するだけでなく、企業買収時に於いては公開買付けを中止して市場取引になる可能性や、その取引自体が中止になる可能性が、また新規株式公開時に於いては初値が公開価格を下回ると大失態となり、次回他社の株式公開時のコンペで主幹事を外される憂き目に合う可能性が高くなるからだ。
 顕著な例がソフトバンクグループによる、モバイル部門の小会社ソフトバンクを切り離した親子上場の際だ。
 上場後の初値が公開価格を大きく下回り、物議を醸した。 
 孫正義CEOは謝罪の末、火消しに躍起となった事は記憶に新しい所だ。
 あの時の主幹事は日本一の株屋さんである野村証券だが、その際は日本一の彼等とて例外ではなく散々な目に合った筈。 
 恐らく担当者の内の何人かが左遷や出向等の憂き目に遭った事は、想像に難くない処だ。
 無論日本一の、否、世界に進出している野村証券が、「東京マーケットワイド」のスポンサーになる事はない。
 定年後自宅で「東京マーケットワイド」を見ている高齢の視聴者を顧客に取り込み、マザーズにIPO(新規上場)したり、M&AやTOB(企業間買収時)を仲介するの際の一助としたいのであろう、中小或るいは新興の株屋さんが主だったスポンサーだ。
 野村証券等の大企業と規模は違っても、大体やっている事は同じだ。
 で、あるからして、株屋さんは相場に関しては強気でないと困るのである。

 私はと言うと、強気の時もあれば弱気の時もあり、現在は今年に入ってからずっと弱気だ。
 そんな私が現在使っている証券会社は、大手だが1番の野村証券で無いと駄目と言う事はないので、そこそこの大手と取引している。
 別に蓮舫議員のファンだからと言う訳では無いのだが、そこそこの大手にしたのは或る程度大手の情報が欲しいと言う点と、無料取引用アプリが充実していると言う点にある。
 無論手数料が高いと言う点では好ましくないが、後もう1点日本一の野村證券程窓口が高飛車で無いと言う利点も有る。
 それから前述した「或る程度大手の情報」が欲しいと言った点だが、これは株屋さんの紹介するIPO株や個別銘柄情報で取り上げた銘柄には、自身で作成の絶対に手を出さない要注意銘柄リストに加える為だ。
 何故なら株屋さんが真に儲かる銘柄を、我々一般人に教えてくれる訳が無いからである。
 つまりその銘柄の株価が上がるか下がるかはどうでも良く、何らかの思惑が有り買って貰わなければ困ると思う銘柄を、株屋さん達は紹介してくるのだ、と、私は理解しているのだ。
 例えばその株屋さんの思っていた程人気が出なかったとか、IPOを引き受けたので初値が高く付いて貰わないと困るとかの理由で、だ。
 それに株屋さんが紹介して来た時点でその情報は古きに過ぎ、総じて利用価値が無い。
 因ってそれ等の情報は「屑情報」として利用させて貰っている。
 何より何度も助けられた過去がある。
 IPO銘柄を買おうかどうか悩んでいた処株屋さんから情報が発進された為買わずにいると、初値を付けたは良いが以降に下がり続けた事が数度。
 買おうとしていた銘柄が株屋さんの注目銘柄に取り上げられ、これまた買わずにいると以降に株価が下落した事が数度。
 ソフトバンクグループの親子上場を忌避して成功したのも、その顕著な例である。
 つまり株屋さんに取って私は、「扱い難い客」であると共に「嫌な客」なのだ。
 またそれこそが私の目指している処であり、何より貧乏な私は株屋さんに取って、最もどうでも良い少額投資家なのである。
 長々と話して来たが以下の爆笑ネタをより愉しんで戴く為、前述した株屋さんの思惑や私の投資スタンスを知って欲しかったのだ。

 さて、本題である。
 敢えて名前は伏せるが○○証券のアナリストが、先週金曜日番組内で真面目に市場動向について語っていた。
 無論内容は強気である。
 市場はこれから年末に掛けて堅調に推移すると言うような内容であり、株屋さんに給料を貰っている彼としては至極当然のお説である。
 画面にはこのコロナ禍の事、リモート宜しくそのアナリストの上半身の写真が大写しになっていたのだが、歯痒い事にその間は日経平均の数値が分からない。
 そこでスマホをチェックしてみると、何とした事か株価が急降下しているではないか。
 結局そのアナリストが株価は堅調だと話している間中株価は下がり続け、現在私自身が弱気な事もあり笑いが止まらなかったのである。
 強気の人には大変失礼な事は重々承知しているし、そのアナリストにも罪が無い事は重々承知している。
 しかしタイミングが良過ぎる、と、言うか、悪過ぎる、と、言うか、爆笑した私の心中もお察し戴きたい。
 無論それは番組プロデューサーのせでも、司会者のせいでも、制作サイドのせいでもない。
 タイミングがタイミングだったのだ。
 それにオチ迄付いてしまったのである。
 その株価が急降下する中市場が堅調、と、話し続けたアナリストの話が終るや、女性司会者の曰く。

「○○証券に口座を持つと、無料で情報を取得出来るそうです」、と。

 部屋で件の番組を見ていた私が大爆笑しながら、「そんな口座持ちたくねえわ!」、と、大声で叫んだ事は言う迄もない。

 と、ひょっとしたら明日の「東京マーケットワイド」でも、再び大笑い出来る現象が起こるかもだが、株価動向については言及を控える。
 飽く迄も「東京マーケットワイド」の、新たな愉しみ方の一助にして戴く事を希望する。
 何となれば株価がどうなるかに拠っては、私も笑えないかも知れないからだ。
 私共々皆さんに取っても、明日の一日が笑える一日となる事を祈念する。
 かしこ。
 
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