第42話 「ちっちゃめ女店員さん」こと、動じない女店員さん

文字数 1,168文字

 先日新宿のと或る雑貨店の店頭に激安ソックスが売られていて、思わず5足程を鷲掴みにしてレジへと向かう途中、女性用タイツやソックスと言った商品の置いてあるコーナーに、菜々緒似のスタイル抜群の女性が居た。
 サラサラの髪をしていてマスク越しにも眼元の綺麗な人だなぁ、と、思いながら私はレジに向かったのだが、レジで会計をしていると後ろの方で、「あの、これって色違いあります?」
、と、声がして、驚いて振り返るとやはり先程の美女と思しき女性がそこに居た。
 何故驚いたかと言うと、声が完全に男の声だったからだ。
 黙っていたら絶対に女性にしか見えないのに、しかもあんなに綺麗な人なのに、あぁ〜びっくりしたなぁ、と、私なんぞは眼を白黒させていると言うのに、そこの女店員さんと来たらマスク越しで表情は分からないものの、瞬きひとつせずに接客しているではないか。
 ん?
 ひょっとして男の声と気付いていないのか?
 ま、そんな事もあるか、と、私は会計を済ませてその雑貨店を後にしたのだが、少し歩いた処でやはりもう5足買い足しておこうと思い立ち、先程の雑貨店に戻ったのである。
 すると先程の美女、否、美お姉は疎か店内には私以外客が1人としておらず、さっき接客していた女店員さんがもう1人の女店員さんと話をしていたのだ。

 もう1人の女店員さんの曰く。
「さっきのお客さん綺麗だったよねぇ」、と。
 対して接客していた方の女店員さんの答。
「本当に声さえ出さなきゃね。
 絶対に分かんないよ。
 でもあれだけ綺麗だと、合コンに来られたら私なんか絶対に負けちゃうわ」、と。

 私が「ゲッ、マジで」、と、思った事は言う迄もない。
 そうなのである。
 女店員さんはとっくに気付いていたのだ。
 何たるプロフェッショナルな接客。
 恐るべし女店員さん。
 それにその接客していた女店員さんはマスク越しではあるが、眼元も凉し気な「ちっちゃめ女子」なのである。
 その後私はソックスを手に、「あんたが負けるとしたら、それはあんたと同じちっちゃめ女子にだけなんだよ」、と、言う言葉を呑み込みつつレジに向かった。

 どんなにスタイルが良くてどんなに美しい顔をしていても、菜々緒が上白石萌音に勝てない日本の現況なのだ。
 それに、「合コンに来られたら私なんか絶対に負けちゃうわ」、とか言ったら、その時点で勝ちではないか。
 武蔵の二天一流か、或いはケンシロウの無想転生レベルに強い。
 うーん。
 計算され尽くした「ちっちゃめ女子」の「私なんか負けちゃう」なのだ。

 胸中に、「それ、絶対計算してますよね?」と呟きながら、再び会計を済ませて雑貨店を後にした私。

 恐るべし「ちっちゃめ女子」!
 強いぞ「ちっちゃめ女子」!

 その日は改めて「男の声をした美お姉」よりも、「ちっちゃめの女店員さん」に驚かされたた1日であった。
 
 
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