第4話 現場作業員の「会長」こと、大企業CEOそっくりさん
文字数 1,660文字
令和3年今年の正月は5日の事。
西武新宿周辺でニッカポッカを履いた、数人の現場作業員さんと思しき集団と擦れ違った。
その際、「会長何処行くの?」、と、一人の年嵩の現場作業員さんが問い掛ける相手の顔を見て私は、ハッ、となり、立ち止まった。
鞄の中を探すふりをして何とか自身が立ち止まった訳を取り繕ったが、その本当の訳は他にあった。
そうなのである。
会長と呼ばれた現場作業員さんの顔が、あの大企業ソフトバンクグループの「孫正義CEO」にそっくりだったのだ。
と、言うより「孫正義CEO」そのものだったのである。
掛けてはいるのだが顎までマスクをずらせていた為に、その現場作業員さんの顔が丸見えだったのだ。
ひょっとしたら「孫正義CEO」がお忍びで建築現場を見に来たのか?
或いはマスコミを避ける為にニッカポッカなんかを履いて、カムフラージュしているのか?
などと、凄いスクープを眼の前にした記者宜しく私はピュリッツァー賞受賞を確信し、少し離れた位置から「孫正義CEO」と思しき現場作業員さん達を後ろからツケて行った。
しかも先程「会長何処行くの?」、と、訊かれた現場作業員さんは、「コイツっす」、と、私と擦れ違いざまにスマホを掲げて見せていたのである。
つまり今からモバイルショップに行くのだ。
益々怪しい。
私は気が動転していたのと、「コイツっす」、と、言う短いフレーズだけでは声が「孫正義CEO」のものだったか迄確信は持てなかったが、その時点でその現場作業員さんは「孫正義CEO」にしか見えなかった。
似てると言うよりも「孫正義CEO」そのものだったのである。
当然ソフトバンクのモバイルショップに行く筈で、きっとお忍びのショップ視察なのだ。
これは凄いスクープである。
と、後からツイて行くこと数分。
しかし「孫正義CEO」と思しき現場作業員さんは、「じゃ、ここで。後から追い付きますんで」、とだけ残し、モバイルショップの中へと消えて行った。
然しそこはauのモバイルショップだった。
ん、au?
しかも、「じゃ、ここで。後から追い付きますんで」、と、言ったその声は明らかに「孫正義CEO」の声ではなかった。
それにマスク越しで顔は半分隠れてはいたが最年少と思しき現場作業員さんが、「○○さん、すぐそこのいつものゼブンっす」 、と、「孫正義CEO」と思しき作業員さんに声を掛けていたのである。
やはり、と、言うべきだが、○○さんの○○さんは、ソンさんではなかった。
なぁーんだ。
やっぱ違うじゃん。
幾らお忍びでも、「孫正義CEO」がニッカポッカなんて履く訳ないし、auのモバイルショップに行く訳もない。
況してや「コイツっす」とか、「っす」なんて言う訳がない。
何のことはない。
彼が「会長」と呼ばれていたのも「孫正義CEO」に似ているから付いた仇名なのだ。
あぁあ、詰まんねー勘違いした。
と、溜息を吐いて帰り掛けた時だった。
先程の最年少現場作業員さんが走って戻って来たのである。
しかもその時、「CEO」、「CEO」、と、例の彼を呼びながら、だ。
私は、ハッ、となって振り返ったが、彼が続けて「○○さん、弁当先買っときましょっか?」、と、言った瞬間再度溜息を吐いた。
その○○さんがさっき同様、ソンさんではない○○さんだったからである。
何のことはない。
最年少の現場作業員は若いが故に「会長」ではなく、今風に彼のことを「CEO」と呼んだだけなのである。
それにしても似ていた。
仇名にされるだけのことはある。
でも、何故彼は「会長」とか「CEO」とか呼ばれても、何も言わないんだろう。
と、そこ迄考えて或ることに思い到った。
ま、言われて悪い気しないもんなあ、と。
何時の日にか映画のように、彼が本物と入れ替わる日があったらどうなるだろうか。
と、直後私は身震いした。
きっと廻りは気付かないだろう。
DNA検査をしない限り。
うーん。
これ、小説一本書けるなあ。
と、私はその場を後にした。
西武新宿周辺でニッカポッカを履いた、数人の現場作業員さんと思しき集団と擦れ違った。
その際、「会長何処行くの?」、と、一人の年嵩の現場作業員さんが問い掛ける相手の顔を見て私は、ハッ、となり、立ち止まった。
鞄の中を探すふりをして何とか自身が立ち止まった訳を取り繕ったが、その本当の訳は他にあった。
そうなのである。
会長と呼ばれた現場作業員さんの顔が、あの大企業ソフトバンクグループの「孫正義CEO」にそっくりだったのだ。
と、言うより「孫正義CEO」そのものだったのである。
掛けてはいるのだが顎までマスクをずらせていた為に、その現場作業員さんの顔が丸見えだったのだ。
ひょっとしたら「孫正義CEO」がお忍びで建築現場を見に来たのか?
或いはマスコミを避ける為にニッカポッカなんかを履いて、カムフラージュしているのか?
などと、凄いスクープを眼の前にした記者宜しく私はピュリッツァー賞受賞を確信し、少し離れた位置から「孫正義CEO」と思しき現場作業員さん達を後ろからツケて行った。
しかも先程「会長何処行くの?」、と、訊かれた現場作業員さんは、「コイツっす」、と、私と擦れ違いざまにスマホを掲げて見せていたのである。
つまり今からモバイルショップに行くのだ。
益々怪しい。
私は気が動転していたのと、「コイツっす」、と、言う短いフレーズだけでは声が「孫正義CEO」のものだったか迄確信は持てなかったが、その時点でその現場作業員さんは「孫正義CEO」にしか見えなかった。
似てると言うよりも「孫正義CEO」そのものだったのである。
当然ソフトバンクのモバイルショップに行く筈で、きっとお忍びのショップ視察なのだ。
これは凄いスクープである。
と、後からツイて行くこと数分。
しかし「孫正義CEO」と思しき現場作業員さんは、「じゃ、ここで。後から追い付きますんで」、とだけ残し、モバイルショップの中へと消えて行った。
然しそこはauのモバイルショップだった。
ん、au?
しかも、「じゃ、ここで。後から追い付きますんで」、と、言ったその声は明らかに「孫正義CEO」の声ではなかった。
それにマスク越しで顔は半分隠れてはいたが最年少と思しき現場作業員さんが、「○○さん、すぐそこのいつものゼブンっす」 、と、「孫正義CEO」と思しき作業員さんに声を掛けていたのである。
やはり、と、言うべきだが、○○さんの○○さんは、ソンさんではなかった。
なぁーんだ。
やっぱ違うじゃん。
幾らお忍びでも、「孫正義CEO」がニッカポッカなんて履く訳ないし、auのモバイルショップに行く訳もない。
況してや「コイツっす」とか、「っす」なんて言う訳がない。
何のことはない。
彼が「会長」と呼ばれていたのも「孫正義CEO」に似ているから付いた仇名なのだ。
あぁあ、詰まんねー勘違いした。
と、溜息を吐いて帰り掛けた時だった。
先程の最年少現場作業員さんが走って戻って来たのである。
しかもその時、「CEO」、「CEO」、と、例の彼を呼びながら、だ。
私は、ハッ、となって振り返ったが、彼が続けて「○○さん、弁当先買っときましょっか?」、と、言った瞬間再度溜息を吐いた。
その○○さんがさっき同様、ソンさんではない○○さんだったからである。
何のことはない。
最年少の現場作業員は若いが故に「会長」ではなく、今風に彼のことを「CEO」と呼んだだけなのである。
それにしても似ていた。
仇名にされるだけのことはある。
でも、何故彼は「会長」とか「CEO」とか呼ばれても、何も言わないんだろう。
と、そこ迄考えて或ることに思い到った。
ま、言われて悪い気しないもんなあ、と。
何時の日にか映画のように、彼が本物と入れ替わる日があったらどうなるだろうか。
と、直後私は身震いした。
きっと廻りは気付かないだろう。
DNA検査をしない限り。
うーん。
これ、小説一本書けるなあ。
と、私はその場を後にした。