第106話 「キティ」と「ドラえもん」で討論する夫婦こと、違いを伝えるべき夫婦

文字数 1,697文字

 昨日の月曜新宿迄出掛けたのだが、ゴールデンウィーク前とは言え未だ平日なので、結構な人出であった。
 前回迄の緊急事態宣言発出時とは違って、何となく緊張感に掛ける、と、言うか、医療現場との温度差だろうか。
 とは言え前回と違い緊急事態宣言の発出がかなり急であった為、仕事を持つ人達は国や都の都合で一々予定を変えてはいられないだろう。
 それに国のワクチン発注での失策や役人達に拠る集団での会食に、日本全体が白け切っている感が有る。
 或いは「金」に纏わるものや不都合な発言など、度重なる与党議員のスキャンダルからか。
 昨日の広島・長野・北海道での国政選挙で与党自民党が全敗となった事は、それ等を踏まえての国民の政府に出した答えと言えよう。
 と、何時もとは違い、珍しく聴けば賢そうに思える事を考えていた私。

 そうして何時ものタイムセールの弁当を求める為、何時もの新宿の百貨店へ。
 地下の惣菜・弁当コーナーは開業中なのだ。
 夕方とあって何時もと変わらない賑わいを見せる惣菜・弁当コーナー。
 と、一周する内に比較的狭い通路に20代と思しき夫婦と、お母さんに手を引かれる男の子と思しきチビッ子の家族3人が歩いていた。
 お父さんは通行の邪魔にならないようにとの心遣いからか、折り畳まれてコンパクトになったベビーカーを引いている。
 追い越せない事も無いが私も急ぐ旅では無いので、ゆっくりと3人の後に続いた。
 と、チビッ子がお母さんの自分の手を引いているのとは逆の手に提げるトートバッグを指差して、頻りに何かを言っているのが聴こえた。

 聴けば、「もまえもん、もまえもん」、と、言っているのである。
 ひょっとして、「ドラえもん」の事か。
 と、そう思った私は、直後お母さんのトートバッグを見た。
 するとそこには「ドラえもん」の姿は無く、
描かれているのは「キティちゃん」であった。

 お母さんは即応した。
「これはドラえもんじゃなくて、キティちゃんて言うのよ。可愛いでしょ」

 しかしチビッ子は尚も言い募る。
「もまえもん、もまえもん」

 そうなるとお母さんの方も一歩も引かない。
「だからぁ、キティちゃんよ。
 ドラえもんとは違うの」

 そこで業を煮やしたお父さんが割って入る。
「いいじゃんかよぉ。
 ドラえもんもキティも、言ってみればどっちも猫なんだからさぁ。
 どったちだっていいじゃん」

 お父さんにそう言われた直後、キティちゃんを溺愛するお母さんの声が相当厳しくなった。
「ちょっとぉ、ドラえもんとキティを一緒にしないでくれる!
 いい加減な事言わないでよね。
 ドラえもんは人型ロボットでしょう。
 猫ちゃんじゃないし。
 猫ちゃんなのはキティだけなの」 
 
 お父さんは如何にも不服そうな顔で反駁の声を上げた。
「そんな事言うけどさぁ、キティだってお前、唯のぬいぐるみじゃんよ。
 猫じゃねえし」 
 
 直後キティちゃん愛を爆発させるお母さん。
「失礼ね。
 キティはねぇ、何十年も前からサ○リオのメインキャラクター張ってる、人気の猫ちゃんなんですぅ」 

 すると反駁するかと思いきや、一転頻りに肯くお父さん。
「あ、なる程キャラクターねぇ。
 そっかぁ、キャラクターかぁ。
 あっ、それよりそこのハンバーグ買おうよ」

 直後お父さんに呼応するお母さん。
「ん?
 あ、そうね。美味しそう」

 何とそれ切り「ドラえもん」も、「キティちゃん」も、蚊帳の外にしてしまった2人。
 以降は惣菜や弁当の物色のみに神経を集中させる2人であった。
 しかし私はこの耳で聴いたのである。
 それ以降も尚チビッ子が、「もまえもん、もまえもん」、と、言っていたのを。

 私は胸中に、「ゲッ、マジで」、と、呟くと共に、チビッ子がこの先もずっと「キティちゃん」を「もまえもん」、と、思ったままになるのではないか、と、気が気ではなかった。

 ここで一つ。
 皆様方の廻りに同じようなチビッ子がいる場合、「ドラえもん」と「キティちゃん」の違いを教える事が困難であっても、せめて「ドラえもん」は「もまえもん」ではなく、「ド・ラ・え・も・ん」なのだ、と、正確な発音をお教え願うよう恐惶謹言させて戴く。
 かしこ。


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