第113話 アジア人女性の愛犬こと、段ボールから顔を覗かせるチワワ君

文字数 1,399文字

 昨日の昼下がり熱帯魚屋さんに赴くべく、新大久保の街を訪れた。
 知っての通り新大久保は韓流街として有名だが、しかしその他外国人の滞在先としても人気が有る。
 中国・フィリピン・インドネシア・マレーシア・タイ・ベトナム・ミャンマー・カンボジア・バングラデシュ・インド・スリランカ・パキスタン・等々、有りとあらゆるアジアの国々から遣って来た外国人の滞在先となっている。
 それ故飛び交う言語も様々である。
 例えばイスラム系民族のハラール向け食糧品店の店先等は、何ヵ国語かが飛び交う賑わいようで喧(かまび)すしい事甚だしい。
 しかもそう言う店が、最近徐々に増えて来ている新大久保なのである。

 実にアグレッシブ且つ情熱的で、そうした様子を見るだに圧倒される。
 日本人とは生きようとする熱量が違うのだ。
 それはこのコロナ禍でも変わらない。
 この時期自殺したり、DVに走ったりする日本人が増えて来ているらしいが、その前にそうした可能性の有る日本人は是非共見習うべきだと思う。
 一度新大久保に来れば、小さな事でウジウジと悩んでいるのが馬鹿らしくなる事請け合いである。
 
 さてそんな新大久保で何処の国の人だかは知らないが、アジア人の女性がキャリーカートを引いている姿を以前に見掛けた事があった。
 所謂ショッピングカートと呼ばれる大型の買い物籠の付いたタイプでは無く、空港等で旅行客なんかが引いている純然たる荷物を乗せるだけのキャリーである。
 それが何とキャリーカートに、横長の段ボールを乗っけて引いていたのである。
 日本人のマダムがショッピングカートを引いているのは何処でも良く見掛ける事だが、キャリーカートに段ボールを乗っけて引いている人を見掛けたのは、その日が初めてであった。
 マスク越しにしか見てはいないが、恐らく30代~40代の女性だと思う。
 ちらと中を覗くと、大根や長葱と言った野菜が横置きで一本丸ごと入っていた。
 なる程ショッピングカートだと縦に入れなければならないが、横長の段ボールであれば横に丸ごと一本野菜を入れる事が出来る。
 してみると彼女は見た目より効率を優先するのだ。

 それにしてもアグレッシブであった。
 恐らく日本人女性ならばマダムでもそうはしない筈。
 たとえ折れてしまっても、ショッピングカートの中に縦に野菜を入れるだろう。
 そこ迄見た目度外視で効率を追及しないだろうし、また生きる事への熱量がそこ迄及ば無いのが現代の日本人なのだ。

 そして昨日の昼下がり。
 以前に出会った例のキャリーカートを引く、あのアジア人女性に再会したのである。
 無論キャリーカートには横長の段ボールが乗っかっていたのであるが、何と今回その中に入っていたのは彼女の愛犬と思しきチワワ君であった。
 私が「ゲッ、マジで」、と、思った事は言う
迄も無い。
 しかもそのチワワ君は恥ずかしがる事も無く、誇らし気に顔を覗かせているのだ。
 ペットは飼い主に似ると言うが、どうやらその説は正しいようである。
 やはりアジア人女性に飼われている愛犬は、見た目より効率を重視すると見て間違い無い。
 
 と、ここで一つ。
 もしもそのチワワ君が日本人女性に飼われていたとするならば、見た目度外視で段ボールに乗って楽をする事より、しんどくても颯爽と闊歩する事を選んでいただろう、と、恐惶謹言させて戴く。
 絶対的にペットは飼い主に似るのである。
 かしこ。
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