第10話 運命の数爺(すうじい)ちゃんこと、ロト大好きお爺ちゃん

文字数 1,755文字

 先日朝一番で新宿へ宝くじを買いに行った時の事だ。
 窓口に並ぼうかと思ったのだがロトくじのポスターが眼に留まり、窓口横のマークシートなどが置いてあるロト専用の記入コーナーへと足が向いたのである。
 ロトをやった事が無い私は、一回やってみっか、と、左手にパンフレット右手にマークシートを持ち、そのコーナーに設置されたマークシート記入用の机を使う順番が廻って来るのを並んで待とうとした。 
 順番と言っても、眼の前には70〜80代と思しきお爺ちゃんが1人だけなのであるが。
 と、そのお爺ちゃんがマークシートに記入しながら、身体を捩り後ろを向いて私に話し掛けて来るではないか。
 直後マスク越しにも垂れた眼で満面の笑みを醸すお爺ちゃんが、「ちょっと待っててね。ああ、あんたロトは初めてかぃ」、と訊いて来た。
 見たところ杖も車椅子もなしで、凄く元気そうなお爺ちゃんである。
「あ、まあ」、と、こちらもマスク越しに応じると、私が訊いてもいないのに懇切丁寧にマークシートへの記入方法を説いてくれた。
 私は適当に相槌を打ちながらも、機先を制するように言った。
「ご丁寧にありがとうございます。お蔭で私の方は良く分かりましたので、どうぞお先に記入してしまって下さい」
 と、話を切ったつもりが、お爺ちゃん今度は懐から掌大のメモを取り出して来て説明をし始めた。
「これ、当たるからさ。参考にしていいよ。でも、他の人には内緒だよ」、と、言うや、その手書きのメモを私の眼前に掲げて見せた。
 そこには何と、「朝一運命の数字」、と、手書きでタイトルが打たれ、その下には数字が何個も並べられているではないか?
 と、私は「朝一運命の数字」、と、言う文字から或る事を連想し、全身に戦慄が走るのを覚えた。

 これってまさか・・・・・。
 そうなのだ。
 ○○教、もしくは○○会などの、そう言った類いの新興宗教への新手の勧誘に違いない。
 そう思った私だったが続いて差し出されたもう一枚のメモ書きを見せられて、あっ、この人って唯の変な爺ちゃんかも、と、思い直した。
 何故ならもう一枚にも数字が並べられてあって、タイトルに「幸運のラッキーナンバー」、と、書かれてあったからだ。

 ん?
 幸運とラッキーってかぶってなくない?
 何なら、「幸運のナンバー」、もしくは「ラッキーナンバー」で良くない。

 と、胸中に呟いてはみたが、まさかそれを口にする事も出来ず、「あぁ、あ、ありがとうございます。でも、やっぱ自分にはロト向いてないみたいなんで、普通の宝くじ買います」、と、応じた。
 それでも尚お爺ちゃんはその2枚のメモを私の眼前に振りかざしながら、「そうかい、残念だなぁ」、と、口惜しそうにしていた。
 何でも朝一番にお爺ちゃんがイメージした「運命の数字」に、最近ロトで良く出る当選ナンバーの「幸運のラッキーナンバー」を足して、今日記入する数字を決めるのだそうだ。
 で、結局私はそのお爺ちゃんを「運命の数爺(すうじい)ちゃん」、と、呼ぶ事にしたのだが、その運命の数爺ちゃんが去り際に言った事の矛盾を、幸運のラッキーナンバー同様指摘して上げるべきだったかなぁ、と、今になって後悔している。
 運命の数爺ちゃんは去り際、「この運命の数字と幸運のラッキーナンバー使ってさ、3日前は1万使って当たらなかったけど、一昨日は5000円儲かって、昨日は3000円儲けて、都合2000円儲けたんだよぉ。凄いでしょ。残念だなぁ、じゃあね」、と、言ったからだ。
 うーん。
 それって都合2000円の負けだよな。
 でも、余りにも運命の数爺ちゃんの機嫌が良さそうで、幸運のラッキーナンバーがかぶっている件と同様、とてもではないが「2000円損してますよ」、とは言えなかった。
 今度会ったら言うべきか。
 否、それは止めておこう。 
 それより今度運命の数爺ちゃんに会ったら、その日の「朝一運命の数字」を教えて貰って、その番号を外してロトを買うとしよう。 
 ん?
 今、私の事を酷い奴、と、お思いになられた方もいらっしゃるだろうが、背に腹は変えられないのだ。
 私に限らず誰だって3日で都合2000円損したくはないだろうし、それに運命の数爺ちゃんの買わない数字を狙ったら・・・・・。
 偉大なる運命の数爺ちゃんに栄光あれ。
 
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