第27話 夢に出て来た空缶の彼こと、新宿駅西口の「新人さん」
文字数 1,984文字
先日日曜日の事である。
暮れ泥む新宿駅西口には路上ミュージシャンやパフォーマーを始め、その他「何時もの住人達」で沿道は埋め尽くされていた。
ここで言う「何時もの住人達」とは、リヤカーに縫いぐるみのコレクションを並べて何を売っているか分からない人や、事の真偽は定かではないが恵まれない人達に募金を募る人、或るいはストレートに空缶だけを自身の前に置いて唯々座っている人達の事である。
その中でストレートに空缶だけを自身の前に置いて唯々座っている男性が、何だか1人だけ服装も綺麗で、キュリアの浅い「新人さん」に思えて仕方がなかったのだ。
このコロナ禍である。
拠所無き事情で致し方無くか、或るいは自ら進んでかは知らないが、「何時もの住人達」、と、言うよりは、成りたての「新人さん」にしか思えなかったのだ。
彼はマスクをしていなかったので、顔も何となく覚えていた。
そうして成りたてと思しき「新人さん」が妙に印象に残っていたからなのか、その夜彼が夢の中に出て来たのである。
私は百貨店の惣菜・弁当売場で、夕方割引された弁当を良く買いにいくのだが、その際チケットショップで割引された商品券を買って且つ買い物ポイントもゲットするのだ。
私なりの節約法なのだが、夢の中ではその事を成りたてと思しき「新人さん」に指摘され、ご託宣を賜った。
以下にざっとその夢の内容を紹介する。
私がその「新人さん」の前を通ると、彼は私の前に立ちはだかった。
次いで私を指差しながら言い放つ彼。
「それが駄目なんだよ!
チケットショップで商品券を気持ちだけ安く買ったりとか、そんな雀の涙のような買い物ポイントをゲットした所で何になる。
割引の弁当にしても、結局君の稼いだと言う物には総て僅かでも元手が掛かっている。
私を見てみなさい。
この空缶だけだ。
しかも入っていた中身は昨日私が食った。
私のはね、資本金ゼロの事業なんだよ」
諫言してくれる彼であったが、釈然としない私は小首を傾げた。
「はっ、はぁ。
やっぱ事業になりますかね、それ?」
投げ掛けた私の言葉に対し至極不服そうな彼が、口元を歪めて更に言い募る。
「当たり前だろ、これは歴とした事業だ。
大体君には意気地と言うものがない。
チマチマと節約なんぞして。
それよりどうだね、君もやってみないかぃ。
ほんの一歩前へ踏み出すだけでいいんだ
ほんの一歩、ほら、踏み出すんだ、前へ」
そう言いながら手を差し伸べてくれる彼であったが、尚も釈然としない私は反駁とも言い訳とも取れない曖昧な言葉を口にした。
「え〜っ、一歩って〜、さすがにぃ。
それにちょっと〜、今は用があるんで」
そう言って後退る私の袖を取った彼は、空缶の前に強引に私を座らせようとした。
益々声を大きくする彼。
「何言ってる! 煮え切らん男だ。
さぁ、一歩前へ踏み出すんだ。
こちらに、さぁ・・・・・」
と、そこで漸く目が覚めたのである。
酷く汗を掻いていた私。
その夢を見た翌日の昨日。
私は勇気を振り絞った。
と、言っても、空缶の前に座った訳ではなくて、株式投資が思うように行かず生活費を切り詰めている今であっても、更に生活費を切り詰め、昨日が発売最終日の宝くじを買う方の勇気を振り絞ったのである。
否ぁ、さすがに、空缶の前には〜。
と、宝くじを買ったその日も、私は新宿駅西口を通って何時もの百貨店へと向かった。
無論惣菜・弁当売場に行く為であり、商品券は購入済だ。
その時ふと見遣ると、付近の車道にロールス・ロイスが停まっていたのである。
運転手にドアを開けて貰った男性が後部座席から降りて来たのだが、何と背格好があの夢に迄現れた「新人さん」にそっくりではないか。
私は足速に彼に近付いたのだが、やがて彼の声が聴こえて来てドキッとした。
何故なら一緒に車を降りて来た部下と思しき男性に、「それが駄目なんだよ!」、と、夢の中で私が叱られたのと同じ叱り方をしていたからである。
見れば常識人の彼等は、運転手も含め皆が皆マスクをしていて顔の確認迄は出来ない。
立ち止まって彼等を注視し続ける訳にもいかず、私はその場を立ち去ったのだが、或るいは彼はあの「新人さん」だったのかも知れない。
声も彼に良く似ていた。
でも、ま、んな、訳ないかぁ。
と、弁当を買った帰りがけに、「新人さん」が実際に座っていた場所を始め付近を探してみたが、やはり彼と思しき人物はいない。
果たして彼は何者だったのか。
って、絶対違うだよなぁ2人は、と。
そう思い直した後、私は宝くじが当たったらロールス・ロイスでも買うか。
と、またゾロ、有り得ない事を想像するのであった。
しかし新宿駅西口に座っていた「新人さん」の彼が、ロールス・ロイスに乗っていないと言う証拠はない。
ひょっとすると〜・・・・・。
暮れ泥む新宿駅西口には路上ミュージシャンやパフォーマーを始め、その他「何時もの住人達」で沿道は埋め尽くされていた。
ここで言う「何時もの住人達」とは、リヤカーに縫いぐるみのコレクションを並べて何を売っているか分からない人や、事の真偽は定かではないが恵まれない人達に募金を募る人、或るいはストレートに空缶だけを自身の前に置いて唯々座っている人達の事である。
その中でストレートに空缶だけを自身の前に置いて唯々座っている男性が、何だか1人だけ服装も綺麗で、キュリアの浅い「新人さん」に思えて仕方がなかったのだ。
このコロナ禍である。
拠所無き事情で致し方無くか、或るいは自ら進んでかは知らないが、「何時もの住人達」、と、言うよりは、成りたての「新人さん」にしか思えなかったのだ。
彼はマスクをしていなかったので、顔も何となく覚えていた。
そうして成りたてと思しき「新人さん」が妙に印象に残っていたからなのか、その夜彼が夢の中に出て来たのである。
私は百貨店の惣菜・弁当売場で、夕方割引された弁当を良く買いにいくのだが、その際チケットショップで割引された商品券を買って且つ買い物ポイントもゲットするのだ。
私なりの節約法なのだが、夢の中ではその事を成りたてと思しき「新人さん」に指摘され、ご託宣を賜った。
以下にざっとその夢の内容を紹介する。
私がその「新人さん」の前を通ると、彼は私の前に立ちはだかった。
次いで私を指差しながら言い放つ彼。
「それが駄目なんだよ!
チケットショップで商品券を気持ちだけ安く買ったりとか、そんな雀の涙のような買い物ポイントをゲットした所で何になる。
割引の弁当にしても、結局君の稼いだと言う物には総て僅かでも元手が掛かっている。
私を見てみなさい。
この空缶だけだ。
しかも入っていた中身は昨日私が食った。
私のはね、資本金ゼロの事業なんだよ」
諫言してくれる彼であったが、釈然としない私は小首を傾げた。
「はっ、はぁ。
やっぱ事業になりますかね、それ?」
投げ掛けた私の言葉に対し至極不服そうな彼が、口元を歪めて更に言い募る。
「当たり前だろ、これは歴とした事業だ。
大体君には意気地と言うものがない。
チマチマと節約なんぞして。
それよりどうだね、君もやってみないかぃ。
ほんの一歩前へ踏み出すだけでいいんだ
ほんの一歩、ほら、踏み出すんだ、前へ」
そう言いながら手を差し伸べてくれる彼であったが、尚も釈然としない私は反駁とも言い訳とも取れない曖昧な言葉を口にした。
「え〜っ、一歩って〜、さすがにぃ。
それにちょっと〜、今は用があるんで」
そう言って後退る私の袖を取った彼は、空缶の前に強引に私を座らせようとした。
益々声を大きくする彼。
「何言ってる! 煮え切らん男だ。
さぁ、一歩前へ踏み出すんだ。
こちらに、さぁ・・・・・」
と、そこで漸く目が覚めたのである。
酷く汗を掻いていた私。
その夢を見た翌日の昨日。
私は勇気を振り絞った。
と、言っても、空缶の前に座った訳ではなくて、株式投資が思うように行かず生活費を切り詰めている今であっても、更に生活費を切り詰め、昨日が発売最終日の宝くじを買う方の勇気を振り絞ったのである。
否ぁ、さすがに、空缶の前には〜。
と、宝くじを買ったその日も、私は新宿駅西口を通って何時もの百貨店へと向かった。
無論惣菜・弁当売場に行く為であり、商品券は購入済だ。
その時ふと見遣ると、付近の車道にロールス・ロイスが停まっていたのである。
運転手にドアを開けて貰った男性が後部座席から降りて来たのだが、何と背格好があの夢に迄現れた「新人さん」にそっくりではないか。
私は足速に彼に近付いたのだが、やがて彼の声が聴こえて来てドキッとした。
何故なら一緒に車を降りて来た部下と思しき男性に、「それが駄目なんだよ!」、と、夢の中で私が叱られたのと同じ叱り方をしていたからである。
見れば常識人の彼等は、運転手も含め皆が皆マスクをしていて顔の確認迄は出来ない。
立ち止まって彼等を注視し続ける訳にもいかず、私はその場を立ち去ったのだが、或るいは彼はあの「新人さん」だったのかも知れない。
声も彼に良く似ていた。
でも、ま、んな、訳ないかぁ。
と、弁当を買った帰りがけに、「新人さん」が実際に座っていた場所を始め付近を探してみたが、やはり彼と思しき人物はいない。
果たして彼は何者だったのか。
って、絶対違うだよなぁ2人は、と。
そう思い直した後、私は宝くじが当たったらロールス・ロイスでも買うか。
と、またゾロ、有り得ない事を想像するのであった。
しかし新宿駅西口に座っていた「新人さん」の彼が、ロールス・ロイスに乗っていないと言う証拠はない。
ひょっとすると〜・・・・・。