第17話 関西のおばちゃんこと、関東人の嫁を持つ姑

文字数 1,640文字

 先日私の良く行く新宿の百貨店の惣菜・弁当コーナーで或る特殊なエコバッグを見付け、『あっ、あのおばちゃん絶対に関西人だ』、と、思ったのだが、やはり当たっていた。
 私は学生時代関西に居た事が有るので、関西のおばちゃんは話さずとも見れば分かるのだ。
 スーパーのレジ袋が有料になって以来、エコバッグは主婦の必須アイテムなのだが、あんな柄のエコバッグ東京ならずとも関東圏に売ってはいまい。

 予想は的中した。 

 恐らく孫で有ろう小学校低学年らしき男の子に、私の隣で関西のおばちゃんが訊いた。
「何がええのん?
 言うてみぃ、お婆ちゃんが何でも食べたいのん買うたげるから」、と。
 次いで男の子の曰く。
「僕、ハンバーグがいい」
 と、答えた男の子は関東圏で育ったようで、関西弁ではなくまともな言葉を使っている。
 暫く辺りを見廻して、ハンバーグ弁当が無い事に気付いた関西のおばちゃんは、「ちょっとあんた、ハンバーグないのん?」、と、近くに居る男性店員に突っ掛かった。
 すると男性店員は、「申し訳ございません。
只今売れ切れたばかりでして」、と、頭を下げたのだが、尚も関西のおばちゃんは、「何やの、それ。もうちょっと仕入れとかなあかんやないの。ハンバーグ他にないのん」、と、尚も突っ掛かる。  
 するとお嫁さんであり男の子の母親であろう30代らしき女性が、「お義母さん大丈夫ですよ。他のでも」、と。
 こちらの女性も関東圏の人なのだろう、関西弁ではなくまともな言葉を使っている。
 思うに年末か正月にこちらに来たは良いが、緊急事態宣言発出でおばちゃんは関西に帰れず、こちらに暫く居る事になったのではなかろうか。  
 そして孫と嫁と共に今日新宿迄出て来て食事をしようとしたが、緊急事態宣言で行こうと思った店は営業していないわ、他の飲食店も8時迄の営業だわで、結果お弁当にしよう、と。
 そう言う事ではないのか?
 ま、本当の処はどうなのか知らないが、兎に角凄い存在感である。
 と、気圧される私を尻目に、やがて関西のおばちゃんはお嫁さんにも駄目出しを。
「あんたそんな事言いなや、この子がせっかくハンバーグ言うてやんねんから」
 と、その言葉を聴いた私は、何か関東全体が関西のおばちゃんに押されているような気がした。
 兎に角関東を助けねば!
 と、思っているこの私の感覚は、一体何なんだろうと思いながらも、手にしている最も有効な解決策を関西のおばちゃんに差し出した。
 以下に私とその関西のおばちゃんの交わした会話を記す。
 
「あの良かったら、このハンバーグ弁当お譲りしますよ。まだ会計してなくって、自分は他のでも全然良いんで」、と私。
「え、あかん、あかん。そら兄ちゃんに悪いわ」、と、関西のおばちゃん。
 兄ちゃんじゃなくて、自分はオジサンなんだけどなあ、と、思いつつも「いえ、大丈夫です」、と、自分の持つハンバーグ弁当を差し出すも、「あかんて」、と、何度も固辞するので、ここでも関西のおばちゃんを熟知している私の知識が光った。
「じゃあ、飴ちゃん戴けますか。それでチャラって事で」、と、私は冗談混じりに言ったつもりだったのだが、やはりその関西のおばちゃんは、本物であった。
「何や飴ちゃんでええんかいな。そんなん好きなだけ持って行きや兄ちゃん。ほれ、袋ごと」
、と、やはり予測通り「飴ちゃん」は持っていたが、「袋ごと」は予想外だった。  
 それにマスク越しとは思えないほど声が通る関西のおばちゃん。
 私は、「あ、一個で大丈夫です。戴きます」
と、袋から飴ちゃんを一個取り出した。
 と、その時ふと見ると、関東人であろう横に居たお嫁さんが「ツボ」だったのか、マスク越しにも笑いを堪えている様子。
 その後適当に言葉を交わして、小学生の男の子にもお礼を言って貰って別れたのだが、最後に何故エコバッグを見ただけでそのおばちゃんが関西人だったのか、お教えしよう。

 何を隠そうそのエコバッグが、「豹柄」だったのである。 
 って、これ、マジです。 
 



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