第118話 「新作ゆず◯ンおろし」の男性こと、笑顔でピースの男性

文字数 1,077文字

 昨日夕方の6時頃だったと思う。
 タイムセールの弁当を買うべく、何時もの新宿の百貨店へ。
 食品売場は営業しているのだが、緊急事態宣言が出されたので閉店時間が平日で30分、土日祝で1時間半の短縮になる。
 通常時より少し早めに出掛けたのだが、それは新宿の飲食店で鋭気を養うサラリーマンやOLさん達も同じで、まだ日も暮れていないと言うのに結構な盛り上がりようであった。
 しかもアルコール抜きでである。

 殊に目抜通りの路面店舗たこ焼き屋の「◯だこ」に到っては、今が緊急事態宣言と思わせない程の活況を呈していた。
 無論従業員も客もマスクはしているのだが、何よりこの時期安心なのは、換気の要らないように外との遮蔽物を一切取り払っている事だ。
 ドア等は全部取り外してあり、屋内とは言え宛らオープンテラスの様相を呈している。
 客席と客席との距離も或る程度開いているし、これならお客も安心だろう。
 たとえドリンクがノンアルコール・ビールであっても、この時期人と人とがそうしてコミュニケーションを取れる場所は必要だ。

 私はその店舗の様子を通りすがりに窺っていたのだが、凄くタイムリーに或る凄いモノを見てしまったのである。
 それは何かと言うと、その店で絶賛発売中の「新作ゆず◯ンおろし」、と、言う商品のポスターが目に付く位置に貼られていたのだが、そのポスターに描かれた「たこ焼き」に覆い被さるようにして、お客の男性が「新作たこ焼きそっくりの頭部」をチラ付かせていた事だ。
 つまりポスターの「新作ゆず◯ンおろし」に、「新作ゆず◯ンおろしの頭部」が重なって見えた、と、言う事である。
 凄くタイミングの良い事に、絵画の遠近法宜しく「たこ焼き」と「たこ焼き頭」が重なって見えるなんて、私は何とツイているんだ、と、この僥倖を心に秘めてタイムセールへ。

 そうして復路の事である。
 再び「◯だこ」の前を通り掛かると、先程の
「新作ゆず◯ンおろしの頭部」の男性が、何と「新作ゆず◯ンおろし」のポスターの前に立ってピースを作り、連れの2人が各々彼の左右に立ちスマホで記念撮影をしているではないか。
 マスク越しにも目許を見る限り、「たこ焼き頭」の男性が笑顔である事は間違い無い。

 私は僥倖を心に秘めた筈なのに・・・・・。

 と、ここで一つ。
 少しショックを受けた私であったが、通りすがりの私が気付く事など連れの2人が気付かない訳は無いのである、と、皆さま方には恐惶謹言させて戴く。
 それより何より、自らの頭部を「新作ゆず◯ンおろし」に喩えられても、笑顔でピースを作れる男性に快哉を贈りたい。
 かしこ。
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