第48話 マスク着用のお願いオーナーこと、策士のオーナー

文字数 1,514文字

 今日の事だが髪を切ろうといつもの1000円カットの店に行くつもりで部屋を出たのだが、私は思い掛けず初めて行くヘアサロンで髪を切る事になった。
 その店は前から知ってはいたが、髪を切った事は疎か入った事さえ無かったのである。
 ところが店頭に凄く印象的なポスターが貼ってあって、その店で髪を切る事になったのだ。
 女性の上半身のポスターなのだがマスクをしていて、良く良く見ると単なる上半身の女性のポスターの上から、口元にマスクの形を切り抜いた白い紙をベタッと貼り付けてあるのだ。
 それだけでも充分笑えるのだが、そのマスクに、何と、「マスク着用のお願い」、と、手書きで書かれていたのである。
 私が、「ゲッ、マジで?」、と、思った事は言う迄も無い。
 何て事するの!
 面白過ぎる、と、苦笑を禁じ得ずに暫くポスターに魅入っていた私。
 すると扉が開いて中から美容師さんらしき女性が出て来て、「いらっしゃいませ」、と、声を掛けてくれたのである。  
 タイミング良くと言うか、縁が有ってと言うか、不思議な事に気が付けばその店に入ってカットして貰っていたのだ。
 
 カットを担当してくれたのは、店頭で私に声を掛けてくれた女性だった。
 年の頃なら30代〜40代と言った処か。
 その女性を始め、そこの美容師さんは全員フェイスシールドをしていた。
 お客さんはマスクで良いのだろうが、シャンプー時に水が飛んだりするからだろう。
 それに表情が見えるのが良い。
 私の担当の女性もフェイスシールドをしていて、かなりの美人だった。
 まぁ、それがそのヘアサロンに入った主因とも言える。
 と、その話は横に置いておいて、カット中にどうしても訊きたい事があった。
 そうなのである。
 あのポスターについて、だ。
 他の美容師さんが「先生」、と、読んでいる事からも、私のカットを担当してくれている女性がオーナーさんと考えて間違いあるまい。
 オーナーさんなら、あのポスターの件を知っている筈。
 仕上げの段階で、髪を梳いてくれているタイミングを見計らって恐る恐る訊いてみた。

「あの〜店の入口のポスターですけど、あれって、どなたが〜?」、と、
 オーナーさんの曰く。
「私です。面白いでしょ」、と、あっさり。
 思わず笑ってしまった私。
「ええ、面白いです。
 でも、どうしてあんな風にポスターを?」
 そう私が訊くと、オーナーさんは苦笑混じりに答えてくれた。 
「実はポスターをあぁしてますとね、お客さんみたいに1見で入って来てくれる人が、結構居るんですよぉ」、と。
 直後私は胸中で再び、「ゲッ、マジで?」、と、思った事は言う迄も無い。
 然るに直後、「冗談ですよ」、と、そのオーナーさんに肩をポ〜ンとされた。 

 何ともファンキー且つ、ファンタジーなオーナーさんである。
 私がそのオーナーさんのファンになった事は言う迄も有るまい。
 カットが終わり会計を済ませた後、メンバーカードを拵えて貰った。
 次いでそのカードを受け取り、「また来ます」、と、店を後にしたのだが、歩きながらカードを財布に仕舞おうと、ふと表面を見ると入口のポスターと同じ女性の顔が有った。
 ちなみにそちらのカードの方は、ポスターのようにマスクを着けていない。 
 お蔭で今迄気付かなかった事に気付いた。
 してみると写真の女性が、何となくオーナーさんに似ているのである。
 とは言えメンバーカードの女性の方がかなり若いのだが、ひょっとしてオーナーさんの若い時の写真?
 それとも気のせい?
 うーん。
 謎は深まるばかりだが、益々その店の、否、オーナーさんのファンになった私。
 そして来月も必ずそこでカットするぞ、と、決意を固めた今日の私であった。
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