第67話 ゼッケンナンバーの高級車こと、彼女の誕生日?の高級車

文字数 1,380文字

 先日新宿に出向いた時のこと割と大きめの交差点で信号待ちをしていると、車道の停止線手前に真っ赤なイタリア車が爆音を立てながら停車した。
 家一軒丸毎買えてしまう、例の車高の低い高級車である。
 しかもボディにはゼッケンナンバーが刻まれているではないか。
 両側部ドアとリアサイドに大きく「○○」、と、二桁の番号が。
 私は常々そう言う高級車は仕事を引退した60代以上の銀髪の紳士が一人で、もしくは助手席に奥さんであろう銀髪の女性と二人で乗っているのが、地上最強に格好良いと思っている。
 勿論色はホワイトかブラック。

 それが真っ赤なボディにゼッケンナンバー迄付けて、それでなくてもエンジン音の大きな車種なのにマフラー等を弄っているらしく、爆音を轟かせているのだ。
 このコロナ禍である。
 そんな今この車に乗っている人って、誰?
 自粛とは全く無縁の人は、と、チラと見れば運転席には20代の男性が、助手席には絶妙にその車にお似合いの、ほぼ金髪に近い髪色をした日本人と思しき女性が乗っていた。
 車内でも出来るだけマスクをしている方が良いこのご時世に、二人共ノーマスクである。

 信号が青になり横断歩道を渡り始めた時、私は数十年前にこう言った高級車に乗っている先輩の事を思い出した。
 そう言えばその先輩もゼッケンナンバーを付けていた事を思い出した。
 先輩の父上がアミューズメント系の会社を経営していて、高級車の1台や2台朝飯前の実家だったのである。
 その先輩は彼女の誕生日をゼッケンナンバーにしていたのだが、私が、「そんな事したら今の彼女と別れたらどうするんです? 新しい車買わなきゃいけないじゃないですか。幾ら何でもそれは駄目でしょ」、と、聴くと、「心配すんな、塗装に見えるけど剥がせるステッカーなんだよ」、と。
 
 その時私は先輩に「ずりぃーよ」、と。
 そう言った事を思い出した。

 その先輩はその時の彼女に誕生日を永久に剥がれないよう塗装したと言っていたのだが、間もなくその彼女と別れて違うゼッケンナンバーのステッカーを貼っていた。
 しかしその先輩にしても、停車中の真っ赤な車のオーナーにしても、金持ちのする事は何とも良く分からない。
 私なら高級車を買っても、ゼッケンナンバーなんか絶対貼らないだろう。
 否、それ以前にそんな金が有るなら車なんか買わずに、絶賛金利上昇中の10年物米長期国債を買う。
 とか、金持ちは言わないか。

 しかし何と言っても気になるのは、真っ赤なイタリア車のゼッケンナンバーである。
 そんなこんなでその助手席の彼女の誕生日を知りたくて仕方の無い私だったが、まさかそんな事を訊く訳にも行くまい。
 例えば、「貴女の彼は永遠に剥がれない塗装をしてるんじゃなくて、貴女の誕生日を何時でも剥がせるステッカーで貼ってるんです。つまりペラペラの偽物の愛なんです! だから誕生日言ってみて?」、とか言おうものなら、運転席の彼に殴られた上に訴えられ兼ねない。

 と、そこで或る事を思い付いたのだ。
 彼女に誕生日を訊くんじゃなく、運転席の彼に或る事を言えばそのゼッケンナンバーの詳細を教えてくれるかも、と。
 しかし悲しいかなその時信号を渡り切った私には、轟く爆音と真っ赤なイタリア車のテールランプしか確認出来なかった。
 次回同じ車に出会ったら是非言ってみたい。

「ずりぃーよ」、と。
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