第54話 数字の「1」と「8」の手提げ二人組女子こと、験担ぎ宝くじ女子二人組

文字数 1,839文字

 宝くじマニアの私は「バレンタインジャンボ」を購入すべく、今日新宿の窓口に並んだ。
 テレビでも盛んにCMが流されていた発売最終日の今日の事、促されて買いに行った人も少なく無い筈。
 とは言え私は元々「バレンタインジャンボ」を発売最終日に買おうと思っていたので、予定通りと言えば予定通りの今日の購入である。
 そんな今日新宿の宝くじ売り場で列に並んでいた際の事、私の直ぐ前に友人と思しき2人組の女性が並んで居た。
 20代であろうか。
 楽しそうに騒ぐ黄色い声が自然と聴こえて来て、つい聴き耳を立ててしまった。

 ショートカットの女性の曰く。
「で、どうよ。その手提げの効果」、と。
 応じたセミロングの女性の曰く。
「それがさぁ、こないだこの手提げ持って買い物行った訳ぇ〜、したらせっかく買ったマスカラどっかに失くしちゃってさぁ。運が開けるどころか罰当たっちゃったよぉ」、と。
 そのセミロングの女性の言葉の後に、ショートカットの女性がセミロングの女性の手提げバッグを指差した。
「なるほど運の開ける末広がりの8(ハチ)じゃ無くて、罰が当たるの8(バチ)ね」、と。
 その後2人で大笑いしていた。

 いやはや何ともびっくりした。
 確かにセミロングの女性の手提げバッグには威風堂々と、数字の「8」が。
 うーん。
 宝くじを買うだけでそこ迄験を担ぐのか。
 と、瞠目を禁じ得ない私。

 その直後の事セミロングの女性が、ショートカットの女性の手提げバッグを指差した。
「やっぱそっちにするべきだったかなぁ」
 応じたショートカットの女性の曰く。
「でもそれだと11になっちゃうじゃん。
 カジノ行くんだったらブラックジャックになるからいいけど、今日は宝くじな訳だしぃ。
 やっぱそこは1(イチ)か8(バチ)かじゃねぇ」、と。
 そう言いながらショートカットの女性が、自身の手提げとセミロングの女性の手提げを交互に指差した。
 そうなのである。
 ショートカットの女性の手には、セミロングの女性と同じ形の色違いの手提げが下げられており、そこには威風堂々と数字の「1」が。

 私も験を担ぐ方だがそこ迄するとは。
 験担ぎ宝くじ女子達の何と恐るべき事か。
 と、思ったと同時に、或る一つの疑問が私の脳裏を過ぎった。
「宝くじって一か八かだったっけ?」、と。
 やがてその験担ぎ宝くじ女子達が宝くじを買い終え、私の順番が廻って来た。
 私は思わず窓口の女性に訊いた。

「あの〜、当たったら貰えるのって当選金ですよね。勝ち負けじゃないですよね」、と。
 怪訝そうな顔で応じる窓口の女性。
「はい? そうですけどぉ」 
 
 私は直後、「否、別に大丈夫です」、と自身の質問自体を否定し、「バレンタインジャンボ」を買うやその場を去った。
 と、同時に窓口の女性の言葉を聴き私の脳裏に過ぎった、「宝くじって一か八かだったっけ?」、と、言う疑問に対し明確な答えが見附かった。
 そうなのでる。
 当選金なのだから、手提げに入るべき数字は「1」と「8」では無く、「10」と「1000」であるべきなのだ。
 そこは「10(とう)」と「1000(せん)」で、「当選」であるべきなのである。

 今度会ったら言ってあげないとな。
 とも思ったが、マスク越しで顔も見ていないし、「1」と「8」の手提げを下げていないと、あの二人組だとは分からない。
 それに良く良く考えたら「1」と「8」だから、あの験担ぎが可能だったのかも知れない。
 何となれば「10」と「1000」だと、売っていなかも知れないからだ。
 と、その直後、凄く画期的な事を思い付いたのでコンビニに行って買物をした。
 次いで窓口迄戻り、もう10枚「バレンタインジャンボ」を買い増したのである。
 そうなのだ。
 そのコンビニとは誰もが知ってるあの「セブンイレブン」で、レジ袋を3円出して買えば、そこには「7」が威風堂々と刻印されているのである。
 ラッキーセブン!
 そのレジ袋を持ったまま宝くじを買ったのだから、こりゃ当選間違い無し。
 そう胸中に呟いた直後、私は大きなミスを犯している事に気付いた。
 レジ袋には「7」と大きく表示されてはいるものの、その後には「イレブン」とも印字されているのである。
 と、言う事は、足せば「7」+「11」で、あの女子達と同じく「18」になる。
 結局「一か八か」になってしまうのだ。
 
 こりゃ、当たらんわ。
 と、思いつつも、一か八か来週の抽選日を待つ私なのである。
 結局一周廻って元に戻ったのであった。
 
 
 
 

 
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